『さよなら、彼に依存していた私―30日間の失恋回復ストーリー』

月下花音

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Day 18:さよなら、「居場所がない」と思っていた私

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 あの日、試練の場所として訪れたカフェ。あの日以来、そこは私の日常の一部になっていた。

 仕事に行き詰まるとノートパソコンを抱えてそこへ行き、休日の朝は少しだけ早起きして、モーニングを食べに行く。

 今日も、いつものように昼過ぎに店を訪れた。店内は午後の光で満たされ、穏やかな空気が流れている。

 カラン、というベルの音に、カウンターの奥からマスターが顔を上げる。

「いらっしゃい」

 私が席に着く前に、彼は言った。

「いつもの、ブラックでいいですか?」

 ◇

 その何気ない一言に、私は心臓を掴まれたような衝撃を受けた。

「いつもの」

 その言葉は、私がこの場所に「属している」ことの証明だった。

 これまでは、彼との思い出の場所だった。よそよそしく、少しだけ緊張する、アウェイな空間。

 でも、今は違う。

 ここは、私が一人で通い、自分の時間と空間を築き上げた、ホームグラウンドなのだ。

「はい、お願いします」

 笑顔でそう答えることができた。

 マスターは、私の顔を見て、小さく頷いた。

 彼と二人で来ていた頃の私と、今の私が違うことに、きっと気づいているのだろう。

 でも、何も言わない。その距離感が、心地よかった。

 ◇

 コーヒーを飲みながら、パソコンで作業を進める。

 周りの客の会話、食器の触れ合う音、窓の外の喧騒。

 それらが、不快なノイズではなく、心地よいBGMとして聞こえる。

 私はもう、この世界の傍観者ではない。

 この街で、このカフェで、ちゃんと息をして、自分の居場所を持っている、一人の人間なのだ。

 彼といた頃は、世界は彼を中心に回っていた。

 彼の行きつけの店が、私の行きつけになった。彼の友人が、私の友人になった。

 私の世界の座標は、常に彼が基準だった。

 でも、今は違う。

 このカフェが、私だけの新しい座標になった。

 ここを起点に、私の新しい世界地図が、少しずつ広がっていく。そんな予感がした。

 ◇

 窓の外を見ると、若いカップルが手を繋いで歩いている。

 以前なら、そんな光景を見るだけで胸が痛んだだろう。

 でも、今日は違った。

「幸せそうだな」

 羨ましさや嫉妬ではなく、純粋な祝福の気持ちが湧いてきた。

 ただ、そう思えた。

 羨ましさや嫉妬ではなく、純粋な祝福の気持ち。

 他人の幸せを、素直に喜べる自分がいた。

 それは、私の心に余裕ができた証拠なのかもしれない。

 作業を終え、カップを空にする。

 マスターに「ごちそうさまでした」と言うと、彼は「どうも」とだけ言って、静かに微笑んだ。

 その笑顔が、私に「お前はもう大丈夫だ」と言ってくれているように見えたのは、きっと自惚れではないだろう。

 ◇

 店を出て、商店街を歩く。

 八百屋のおばさんが「いらっしゃい」と声をかけてくれる。

 パン屋の前を通ると、焼きたてのパンの香りが鼻をくすぐる。

 この街の、この日常の中に、私はちゃんと存在している。

 自分の足で、自分のための場所を見つける。

 その喜びを、私は今、確かに噛み締めていた。

 帰り道、ふと空を見上げる。

 青い空に、白い雲が流れている。

 今日は、いい天気だ。

 そう呟いた自分の声が、穏やかで、少し驚いた。
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