『さよなら、彼に依存していた私―30日間の失恋回復ストーリー』

月下花音

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Day 19:さよなら、「彼の音楽」しか聴けなかった私

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 音楽は、危険なほど雄弁に記憶を語り出す。

 彼と付き合っていた頃に聴いていたプレイリストは、今やパンドラの箱だ。

 再生ボタンを押した瞬間、楽しかった日々の光景が、痛みと共にフラッシュバックしてくる。

 だから、ここしばらくは、無音か、歌詞のないアンビエントミュージックばかりを聴いていた。

 その夜、仕事が一段落し、私は久しぶりにYouTubeを開いた。部屋は静かで、テーブルの上の白いバラだけが、ランプの光を受けて輝いている。

 何か、新しい音楽に出会いたかった。彼とは全く関係のない、今の私のための音楽を。

 アルゴリズムが、次々と動画をおすすめしてくる。有名なポップソング、懐かしのロックバンド。

 どれもピンとこなかった。

 指先で画面をスクロールさせ続けていた、その時。

 ふと、一枚のサムネイル画像に目が留まった。

 誰も知らない、インディーズの女性シンガーソングライター。雨に濡れた窓ガラス越しの街並みを背景に、彼女がギターを抱えてうつむいている、モノクロの写真。

 なぜか、強く惹きつけられた。再生ボタンを押す。

 アコースティックギターの、優しくも力強いストロークから曲が始まった。

 そして、彼女の歌声が聞こえてきた瞬間、時間が止まった。

 それは、少しハスキーで、飾らない、ありのままの声だった。

 悲しみを乗り越えた先にある、静かな強さを感じさせる声。

 歌詞は、失恋の歌ではなかった。都会の片隅で、一人で生きる日々の孤独と、その中に見出す小さな希望を歌った、普遍的な歌だった。

『アスファルトに咲く花のように 強くなくてもいい ただ、今日を生きている あなたを、私は知っている』

 そのフレーズが、私の胸にまっすぐに突き刺さった。

 涙が、静かに頬を伝った。

 でも、それは悲しみの涙ではなかった。誰かに、自分のことを見ていてくれる、と認められたような、救いの涙だった。

 私は、その曲を何度も何度もリピートした。

 1回目、2回目、3回目。聴くたびに、歌詞が心に深く染み込んでいく。

 それは、優也との関係とは、1ミリも関係のない曲だった。彼が聴いたら、きっと「暗い曲ろう。

 でも、それでよかった。これは、彼のためじゃない。私だけのためのサウンドトラックだ。っただ」と言だね

 その日を境に、私の音楽ライブラリは、新しい曲で少しずつ満たされていった。

 新しい音楽は、新しい世界への扉を開いてくれる。

 彼といた頃には決して聴かなかったジャンルの音楽に触れるたび、私の世界は色鮮やかに広がっていく。

 部屋に流れる音が変わると、部屋の空気も、そこにいる私の心も、変わっていく。

 もう、無音の世界に怯える必要はなかった。
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