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9 浮気疑惑?
しおりを挟む翌日から2ヵ月間、マーガレット様は学園を休学された。
その間、私は何度かマーガレット様と手紙のやり取りをした。いくら計画通りとはいっても、ダンドリュー公爵家にとって一大事が起こったのだ。私はマーガレット様のことが心配でならなかった。
私の心配をよそに、マーガレット様からの手紙の内容は明るいものだった。これで自分の”国外追放”の未来は避けられるだろう。もう少し時が経って今回の件のほとぼりが冷めた頃、お兄様と婚約することにしている。学園を卒業したら、なるべく早く結婚したい……等々。
マーガレット様はお兄様のマース様と共に王都の屋敷にいらっしゃるが、お母上はお父上と一緒に領地に行かれたそうだ。手紙には《仲の良くない夫婦だと思っていたのに「あの人を独りには出来ないわ。心配ですもの」と言って、お母様は領地に付いて行かれたの。夫婦って、やっぱり本人たちにしか分からない絆があるのね》と書かれていた。
夫婦ってそういうものですのね。奥が深いわ……
私は、実はほんの少しマーガレット様を疑っていた。
マーガレット様はお父上を「潰す」とおっしゃっていたのだ。私は、もしかして”不正”の証拠が、捏造されたモノだったりしちゃったりしますー? と手紙の中で遠回しに聞いてみた。
するとマーガレット様から明快な返事が来た。《イヤだわ、フローラったら。私もお兄様もそこまで鬼畜ではなくってよ。お父様は本当に不正を行っていたの。証拠を捏造なんてしていないわ。ただ少し足りないかな? と思ったから、ちょっとだけ自作のモノを追加しただけよ》
それ、捏造って言うんじゃないですかー!?
まぁ、でも早めに告発しないと、もっと大きな不正になるところだったのだ。そうなれば公爵様は投獄されることになったかもしれないのだから、結果としては親孝行なのである。うん、そうだ! きっとそうだ! 私は自分に言い聞かせた。
2ヵ月の休学の後、マーガレット様は学園に復学された。
学園に戻られても皆に遠巻きにされるかもしれないと心配した私は、2学年上の4年生の棟をこっそり覗いてみたのだが……そこはやはりマーガレット様。明るく堂々と振る舞っていらして、たくさんのご友人と一緒だった。
良かった。さすがマーガレット様。人望がおありなのだわ。私が余計な心配をする必要はなかったわね。安心した私は、2年生の棟に戻ろうとして後ろを振り向いた。
すると、すぐ近くに何故かバルド様がいらっしゃる。
「えっ? バルド様? どうしてこちらに?」
バルド様はバツが悪そうだ。
「お前が休み時間になった途端、思いつめた顔をして教室を出て行くから何処へ行くのかと思って……その、もしかして他の学年の男と会ってたりしたらどうしよう、って心配で……」
浮気の心配ですか? それで後をつけていらしたの? このストーカーめ!
「それで、私の浮気の疑いは晴れましたの?」
「すまない。お前、マーガレットのことを心配して様子を見に来たんだな?」
「わかっていただけて嬉しゅうございます」
私はツンとする。
「フローラ、怒るなよ。すまなかった」
「もう知りません!」
私はさっさと歩き始めた。
「待てって! 一緒に戻ろう」
ふんっ!
「正式に婚約者になることが決まってすぐ、浮気を疑われるなんて心外も心外ですわ。来月の婚約式、取りやめにして頂こうかしら?」
バルド様の顔色が一気に悪くなる。
「フローラ、すまない! 婚約式を取りやめるとか言うな!」
「どうしようっかな~?」
「フローラ!」
焦るバルド様。
「ねえ、バルド様。本当に私が上級生の男子生徒と会っていたら、どうなさるおつもりでしたの?」
「えっ?」
バルド様は想像してみたのか、鋭い目付きが更に凄みを増した。
「そいつを消す!」
……ヤンデレですね。そうなんですね。
「安心してください。私が好きなのはバルド様だけです」
「フローラ、一瞬でもお前を疑ってすまなかった」
私を抱きしめるバルド様。
「でも、フローラはものすごく可愛いから男が放って置かないだろ? お前を他の男に奪われたらどうしようって、いつも心配してる俺の身にもなってくれ」
「はぁ?」
自慢ではないが、私はモテない。唯一の例外バルド様以外の男性に、一度たりとも好意を寄せられた経験などない。
「ご心配なく。私には(『可愛い』と言ってくれる奇特な男性は)バルド様だけですわ」
「フローラ、好きだ!」
私を抱きしめる腕に力を込めるバルド様。いつものように私の髪にお顔を埋めて「フローラの匂いだ!」と始めてしまった。
「バルド様! ここは4年生の棟ですわよ!」
しかも人が行き交う廊下である。私たちの”二人の世界”を見慣れていない4年生の先輩方がどよめく。恥ずかしい~!
翌月、無事に婚約式を終えて、バルド様と私の正式な婚約が国内外に発表された。これで私は、もう逃げも隠れも出来ない「王太子殿下の婚約者」である。バルド様のことは好きだけれど、平凡な私が大変な立場に立ってしまった。
婚約式から暫くして、王妃教育も始まった。平日は学園に通い、週末は王宮で王妃教育を受けるというハードスケジュールである……疲れるわ~。
私は《できる!》と書いた紙を自室の机の前に張った。マーガレット様から「やる気が出るわよ!」と教えてもらったのだ。よし! 頑張るぞ! できる!
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