恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい

文字の大きさ
14 / 35

14 ドロテアの職場襲撃

しおりを挟む
 珍しく、皇子課第二皇子係に総合受付の職員がやって来た。

「すみません。モニカさんにお客様がお見えです。来訪を伺ってはおりませんでしたが、モニカさんと間違いなく約束をしていると言ってきかないもので……。仕方なく確認に来たのですが……」
「そうでしたか。私は誰とも約束などしていませんが、どなたでしょうね」

 私と受付係の職員とで頭を捻っていると、廊下からキンキンとかん高い声が聞こえてきた。

「モニカぁー! 久しぶりー!」
「ドロテアさん……」
「この人ったら、私はモニカの友達だって説明しているのに、さっぱり話が通じないから後を追いかけて来たの」

 この行動力だけはたいしたものだと感心してしまう。でも勘弁して欲しい。

「ドロテアさん。私は今、仕事中なのですが」
「知ってるわ。モニカが官僚になったって聞いていたもの」
「……。ですから今、ドロテアさんとお話ししている時間はありません……」

 私には、この人の頭の中が全く理解不能だ。仕事をしていると知っていて、何故、勤務中に来たのだろう。

「なあなあ。まず、用件を聞かないことにはどうしようもないだろ?」
「ここまで来ちゃったんだし、少しだけでも付き合ってあげたら?」
「勤務時間内だが大目に見てやろう。やさしい上司に感謝しろッハッハッハッ」

 マサさんもノーラさんも、困り果てた私にドロテアの対応をした方が良いと促してくれる。レン係長は特例で面会を認めてくれるようだ。

 一刻も早くドロテアを課内から追い出すしかない。仕事中の皆さんに大迷惑を掛けている。
 同じ係の皆は好意的に見守ってくれているが、他の係の人たちからは、冷たい視線を容赦なく向けられていた。

「ドロテアさん、あちらでお話ししましょう」
「ええ、分かったわ」

 私はドロテアを連れ、外部の人とミーティングをする時にも使用する個室の小応接室へと入った。瞬間、ドロテアがはしゃいだように喋り出す。

「モニカって、皇子課の職員なんでしょ? 第一皇子のジェラルド様ともお会いしたの? あまり人前に出ない方だけれど、どんな人?」
「私は第二皇子殿下の係であって、ジェラルド様とお会いした事は一度もありませんよ」
「ふうん。モニカも会えないんだぁ」

 その、満足そうで不服そうな微妙な表情は何なのだろう。私の所にわざわざやって来て、聞きたい話しとはジェラルド様の事なのか。

「皇子課の官僚っていっても、皇子と会えないなんて一般人と同じじゃない。きっと、モニカはあまり信用されてないんだね。下っ端だし、仕方ないのかな」
「……」

 これは……。怒りを露にしても良い案件ではないだろうか……。だが、今の私は官僚だ。帝国に生きる全ての人々のために働く責を負い、ここはその仲間が集まる中枢だ。一個人の感情で対応するべきではない。

(スマートにドロテアを追い出すには、どうしたらいいかしら)

 けれど、相手に正論は通用しそうもない。困ったものだ……。

 ――私が悩み始めると応接室の扉が開き、すずやかなテノールボイスが響き渡った――



「お話し中失礼。モニカ、至急頼みたい仕事があるのだけれど良いかな?」
「「ユリアン様」」

 颯爽と入室したユリアン様の肩には、ノーラさんにお願いしてきたココがちゃっかり乗っている。毎日お世話をしている私より、ユリアン様の方に懐いている気がするのは……きっと気のせい。
 さすがのドロテアも、皇子の登場で身が引き締まったらしい。うるさいお喋りが止まった。

「おや、確か貴女はボルダン伯爵家のドロテア嬢でしたか。申し訳ないですが、モニカは勤務時間中ですから返してもらいますね。さあ行きますよ、モニカ」
「あっ、モニカ! 待ってよ、私がここまで頑張って来たのよ! まだ聞きたい事が――ぎゃあっ!」
「ココ!」

 しつこく私を引き留めようとするドロテアの鼻を、ココが引っ掻いてしまった。ココはドロテアを悪い人認定したのかもしれない。正しい目を持つ立派なペットだ。

「わ、私の可愛い顔があっ! 汚らしい生き物に傷をつけられたわっ!」
「おやおや、ココ。あまり変なモノに触れてはいけませんよ」
「はあっ!?」

 ドロテアの不敬を見逃し、ユリアン様は私の手を取ってスタスタと応接室を出る。

「ああ、それと。これ程厚顔無恥という言葉に相応しい人に、初めてお会いしましたよ」
「?」

 ユリアン様の御言葉は、自覚のないドロテアには通用しない。やはり、敵はなかなか手強い。

「言葉が通じないみたいですね。受付に行って、手当ての医師を呼んでもらいなさい。その後は直ちに城から出るように。良いですか、これは命令です」
「……はい……」



 私はそのままユリアン様に手を引かれ歩いていた。ココは今も私を守るように、手のひらに陣取っている。

(今まで自分で何とかして来たし、セオ兄様以外の誰かに庇ってもらったのって初めてかもしれない……)

 ぼんやりそんな事を考えていると、ユリアン様が立ち止まり私の方を振り返った。

「あのような醜い者に近づくと、モニカが穢れてしまうね。このような時には、遠慮なく私の名前を使って欲しい。勿論、私を呼んでくれても良い。私もココも、モニカが悩んだり困ったり、悲しんだりする事が嫌なんだ」
「……はい。ありがとうございます」

 勝手に上気して熱くなる頬を必死に押さえ、冷静に考えようとした。

(皇子係の職員が、勤務中にも関わらず何処ぞの者と面会していたら、ユリアン様の管理・監督能力を疑われてしまうのね。きっと、その事をユリアン様は優しく諭してくれているのよ)

 そう思いつつも、なぜかまだ赤らむ顔の熱は冷めない。意識すれば意識する程、余計熱を持っていた。

「ちゃんと分かってくれたかな? いつでも私を頼ってね」
「はい」

 繋いだ手からは、セオ兄様と違う感じのする安心感があって不思議だった。どこかむず痒い。誤魔化すように、私はココに話し掛けていた。

「ココもありがとう」
「ミュ」

 ユリアン様に引かれている右手。左手の上にはココ。ココの銀の毛並みに火照った顔を埋め、私はユリアン様の後ろを歩いた――




(なんなのよぉっ! あの不気味仮面野郎と汚ならしい生き物は!)

 モニカが皇子課で仕事をしているって知った時、頭に血が上った。
 私の未来の夫となる第一皇子のジェラルド様が、モニカの毒牙にかかるんじゃないかと思って、慌てて城に向かったのに――

(受付の女も医者も対応が最悪だし、不愉快だわ)

 モニカがジェラルド様と会った事もないみたいで安心したけれど、第二皇子がしゃしゃり出て来て何一つ情報を得られなかった。

 そういえば、以前私が「やっぱり第二王子殿下って、不気味で怖い感じがする」って言った時、「それを言うものではないわ。御本人が一番辛いはずですから」って、モニカは必死に庇っていたな。

(もしかすると、あの二人って……)

 お似合いだ。年中マスクで顔も晒せない不細工皇子と、公爵令嬢のくせに官僚なんてしている変わり者であぶれた女。

 早く家に帰ってパパに告げ口してやりたい。あいつら二人一括りにして痛い目を見せ、表に出て来られないようにしてやる。
 そして、この美貌で皇太子となるジェラルド様の心を射止めた私が、彼の婚約者となり皇后の座に治まる。

(完璧だわ。ユリアンもモニカも、あの小汚い毛玉も全部潰すの! 未来の旦那様の、皇太子の座確定のためにもね!)
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果

下菊みこと
恋愛
身体は大人、頭脳は子供になっちゃった元悪役令嬢のお話の長編版です。 一話は短編そのまんまです。二話目から新しいお話が始まります。 純粋無垢な主人公テレーズが、年上の旦那様ボーモンと無自覚にイチャイチャしたり様々な問題を解決して活躍したりするお話です。 小説家になろう様でも投稿しています。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

処理中です...