恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい

文字の大きさ
20 / 35

20 よそよそしい新人

しおりを挟む
「おはようございます、ユリアン様」
「おはよう。モニカ、ココ」

 ユリアン様は今朝も早起きをし、優雅にコーヒーを飲みながら本を読んでいる。

(いつもと全く変わらない)

 私は気づいてしまった。自分の想いに蓋をすると思ってしまったということは、ユリアン様に惹かれる想いを完全に自覚しているということに。
 自分とは異なり憧れだった華やかな容姿を持つユリアン様に、短い期間の中で凝縮された特濃の優しい毎日を与えられ、恋愛経験値ゼロの私がコロリと好きになっても仕方ないと思う。

 ユリアン様は誰よりも素敵な男性だった。


「昨日ココが獲ったお魚を焼きましょうか?」
「じゃあ、お願いするね」

 世の中の婚約者の関係性ってなんだろう。結婚とは一緒に生きる事と何が違うのだろう。
 私の頭の中は、破裂しそうなほど考え事で堂々巡りしている。

(公爵家のため、適したどなたかに嫁いでも構わないと思っていたし、無理とわかってからは、官僚として生きて行こうと思っていたのに……)

 順風満帆な関係の、セオ兄様とエレナさんが羨ましいと思った。

 鼻の奥がツンとしてくる。それを誤魔化すように、私は少し上の空で朝食の準備に取り掛かった。


「熱!!」
「大丈夫かい!? 早く冷やさないと!」

 私の手首を握り、ユリアン様が魔法で冷たいお水を出して冷やしてくれる。

「だっ、大丈夫です!」

 私の手首を掴まえる長い指と、一気に詰められた距離にユリアン様を強く感じ、思わず身体を反らしてしまった。

「モニカ……」




「元気ですかーお二人さーん、ココー」

 私とユリアン様が固まって動けないでいると、朝から熱量が多い大声が聞こえた。

「あれ? なんかあったのか?」
「なにもありません」

 ふう~ん。と、レン係長は腕組みをしながら、手首を掴まれて固まる私とユリアン様を交互に見やる。

「ま、まさかユリアン様……清高なご令嬢に手荒な真似を……」
「誤解だよ」
「違いますっ!」

 私も令嬢教育を受け、みだりに感情を出さない芸当を身に付けていたはずなのに、声高に反論してしまった。

 ユリアン様本人にもレン係長にも、私の変化してしまった気持ちを知られてはいけない。
 ユリアン様にはこの帝国とジェラルド様を守ってゆくという大義がある。私は足枷とならず、官僚として一緒に事を成すためにも、恋心は不用なのだ。

(クラウスティン家の令嬢教育は完璧なのよ。官僚としてユリアン様のお側で生きるなら、この森の中で過ごした日々は良い思い出にしよう)

「私が火傷したところを、ユリアン様がすぐに冷やしてくれたのです」
「ま、モニカがそう言うなら大丈夫か。さて、お二人さん、そろそろ帝都にお戻りになられても良いですよ」
「そう、準備は整ったんだね」
「ま、少なくともボルダン伯爵家は大丈夫でしょうね。戻る頃にはガチガチに身動きが取れなくなっているはずですよ」




 初めて抱く恋心に翻弄されながらも、ボルダン伯爵家の完全包囲網が出来たから安全だと、私とユリアン様は帝都に戻って来た。


「あら、お帰りなさい」
「大変だったなー」
「戻りが遅くなりすみません。ご心配をお掛けしました」

 ノーラさんとマサとは、本当に久しぶりだ。

「そんなの気にするな!」
「そうよ、モニカが無事で本当に良かったわ」

 わいのわいのと二人に囲まれて、帰って来られたなとホッとする。

「あの、これからの勤務についてなんですけれど……」




「まあな。試用期間ももうすぐで終わるからな。いつまでもずっと、ユリアン様の執務室勤務ってわけにもいかんか」
「モニカの言うことも一理あるしね」
「でも、あの方が納得するかしら?」

 私は係の皆に相談していた。
 本格的に第二皇子係の仕事を覚えたい事。ユリアン様からは充分御褒美期間をいただいた事。
 私を学生時代から見てきてくれて、素性や経緯を知っている皆さんだから素直に話せた。

「ユリアン様のお力になるためにも、本来の任務を学びたいのです。ご存知の通り、練習すればお役に立てる魔法も扱えるはずです」
「分かった、私からユリアン様に話してみよう」
「係長、よろしくお願いいたします」

 早速レン係長がユリアン様の執務室に行ってくれた。
 ユリアン様を避けるのではない。当たり前の勤務をするだけ。ユリアン様には充分慣れたし、ユリアン様の言う御褒美も、もうたくさんいただいたから。そう自分に言い訳をする。


「取り敢えず事務作業からやってみる? これ予算要求案だけれど、財務部に持って行って文句を言われたら交渉するの。内容を教えてあげるから作ってみようか?」
「はい」

 私はノーラさんから、書類の作成や事業内容とそれに伴う予算額の積算を教えられた。

「ふうっ。あっと言う間に時間が過ぎましたね」
「さすが学園首席よ。バッチリね。あとは世の中の物価を覚えたら、これは完璧だわ」
「ありがとうございます」

「さ、今日は財務部にこれを出したら定時だし、そのまま帰っちゃいなよ」
「はい。お疲れ様でした」


 私は財務部に書類を提出し、今日の仕事を終えた。安堵した瞬間、深いため息が出ていた。

(今日は、ユリアン様と一度も顔を合わせなかったな)

「モニカさん」
「サラさん」

「なかなか会えないから、心配してた」
「研修でずっと同じ部屋にいたり、出張だったりして、しばらく城内を回れなかったの」
「そっか。モニカさん今日は寮で夕食?」
「寮の食堂のおばさんにご不幸があって、外で食べなきゃいけないの」
「じゃあ一緒に食べに行こうか?」

 実家から城へ通うサラさんは、社会人になってから時間が不規則になり、特に家で夕飯を食べる習慣がないらしい。久しぶりに会えたし、一緒に街に出ることにした。


「モニカさんの職場はどう?」
「良い人ばかりで、すごく恵まれてるなって思ってる。こんなに充実した毎日は初めてかも」
「ずいぶんと可愛いペットもいるみたいだし、楽しそうね」

 ココはサラさんからお肉を貰って上機嫌だ。膝の上に座って、甘えたようにもう一つとおねだりしている。

「そうね。本当に良い係よ」
「その割には、ずいぶんと大きなため息をついていたね」

 サラさんの洞察力は学生の頃から鋭かったから、あれ程大きなため息がばれないはずなかった。

「仕事の事っていうか、ちょっと不甲斐なさ過ぎる自分が嫌いになりそうなの」
「そっか。何だかモニカさん、以前のご令嬢時代に戻ったみたいな顔してると思った」

「以前の私に戻った?」
「そう。皆が嫌な思いをしないように、どこにも波風立てないようにしてるって感じ」

「そうかもしれない」
「勿論、私だって、常に一定で全てに平等に接するモニカ嬢は好きだよ。でも、貴女の事を好きになった人は、そうして欲しくないと思う。ありのままに生きてほしいって願うと思う。皆で笑えば良いじゃない? 皆で幸せになれば良いじゃない? 誰かが我慢して得られた幸せなんて、私は御免だけどね」

「サラさん……。なんかサラさんもキャラ変わった? 熱く語るなんて初めてね」
「今の上司や先輩の影響かも」




 サラさんと食事した帰り道。私は自分の事ではなくユリアン様の事を考えていた。

(ありのまま生きて欲しい。皆で笑って幸せに。誰かが我慢して得られた幸せは御免か)

 ユリアン様がジェラルド様や帝国のために生きるって、なんだか悲しい。ユリアン様ご自身の幸せって何だろうか……。

(でも、問題が大き過ぎるよ……)


 サラさんと話して簡単には解決しないけれど、くすぶっていたモノの答えが遠くに見えた気がした――
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果

下菊みこと
恋愛
身体は大人、頭脳は子供になっちゃった元悪役令嬢のお話の長編版です。 一話は短編そのまんまです。二話目から新しいお話が始まります。 純粋無垢な主人公テレーズが、年上の旦那様ボーモンと無自覚にイチャイチャしたり様々な問題を解決して活躍したりするお話です。 小説家になろう様でも投稿しています。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

処理中です...