恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい

文字の大きさ
30 / 35

30 皇族部皇子課の人々

しおりを挟む
「今日もモニカは兄上に連れ去られたのか?」
「そのようです」
「兄上にも困ったものだ……」

 尋ねられたレンも呆れ顔だ。ジェラルドがここまで行動的になるとは、誰が予想出来ただろう。

 ここ最近、モニカは第二皇子の執務室に現れない。朝のミーティングを課内で終え、ユリアンの執務室へと向かおうとする途中で、ジェラルドがモニカを攫ってゆくのだ。
 どこにそんな元気があったのだろう。病は根治したのだろうかと考えてしまうほどだ。

(しかし兄上が元気過ぎるな……。喜ばしい事だが、モニカと一緒にいられる時間が減ってしまって切ない……)

 ジェラルドがモニカと話していてムキになって怒るのも、生き生きとしているのも好意的に捉えている。が、目まぐるしく状況が変わり、ユリアンはついていけなくなりそうだった。

 そして、ここにも少し、変化した人物が二人。


「ところでなぜ、モーガンまで第二のデスクに座っているのだ?」
「モニカ嬢がジェラルド様の面倒を見てくれていますので、人員を奪われた第二の皆さんに申し訳なく、モニカ嬢の代わりに少しでも私がお手伝いをと思い……」

 いつもより口数が多く、視線を泳がせ答えるモーガン。すかさずノーラが割って入った。

「や~だ~。私と一緒に仕事をしたいからに決まってるじゃないですか~。無粋な質問ですよ? 私、ユリアン様をそんな男にしつけた覚えはないのですが」
「もういい、分かった……。勝手にしろ……」

 口の達者さでは、姉貴分のノーラに勝てる気がしない。ユリアンは早々に白旗を上げ二人を容認した。

 モーガンの婚約者とはノーラである。ノーラの母ニナは伯爵家に嫁ぎノーラの兄を産み育て、ノーラを出産した後皇子の乳母となり、訳あって今もユリアンの部屋付きをしている。

 城でユリアンと一緒に育ったノーラは、いつしか第一皇子係のモーガンと恋仲になり婚約。
 姉のような存在のノーラの手際の良さに、ユリアンは舌を巻いていた。

「ユリアン様。例の件ですが、やはり悪い結果が出そうなんですよねー」
「そうか。だが、仕方あるまい。痛みを伴っても、真実を突き止めねばならん。マサは引き続き調査を頼む」
「は~い」

 スッと消えるように、マサの姿は課内からいなくなっていた。

「陛下のお耳にはいかがいたしましょう……。さすがに、陛下側もこちらの動きにお気づきかと……」
「確定するまで待て。父上は我々の動きに気づいていたとしても、邪魔立てはしてこないはずだ。レンは貴族連中の調査を頼む」
「はっ」

 腰に剣を下げ、背筋を伸ばしたレンが課を出て行く。

 レンとマサが忙しく動き出す中、主から解放されたモーガンと婚約者のノーラが呑気にイチャイチャとダベっていた。因みに、第一皇子係の職員たちからの視線は生温かい。
 若くしてジェラルドの側近となり第一皇子係の係長に任ぜられ、滅多に課内に来られない若い係長の、久々の婚約者との逢瀬を温かく見守っている。

「お前たち……。暇ならモーガンは兄上を見張っていろ! ノーラは改正法案をさっさと作れ!」
「はい。ですが、ジェラルド様に追い出されます」
「厳しいわね~。ごめんね、サラちゃん。事務仕事を押し付けちゃって」

 係の端の方で黙々と書類に向かっていたのは、モニカの友人サラだ。

「いいえ。第二皇子係で、今の私に出来る事は事務処理くらいしかありませんから」
「サラちゃんもいいだわ。モニカ様と少しでも一緒にお仕事をさせてあげたいのに。どこかの第二皇子が独り占めした挙げ句、お兄さんに盗られたりするから……」

 ユリアンは、言い返す気力も無いようだ。事実だから耳が痛むらしい。

「ノーラ先輩、大丈夫ですよ。モニカはそんな些末な事に囚われる人ではありません。私がどこかで元気に働いていれば、それでいいんだと思います」
「そう? そうよね! 麗しのモニカ様はスケールが大きいんだもんね。ああ~、母に早く会わせたい!」

「始まったな……。レンとマサが居なくて良かった」
「始まりましたね。婚約者の私でも、こうなると止められません」

 ユリアンとモーガンが肩をすくめる。

 官僚として採用されたサラは、退職した事務処理専門の職員の代わりとして、一手に第二皇子係の事務仕事を引き受けていた。

(モニカさんも最近事務仕事をしているけれど、あの方はここにいていいお人じゃない)

 敬愛していた公爵令嬢モニカと親しくなり、彼女が官僚で治まる器ではないと少し残念に思っていた矢先、学園に潜入していたマサに、官僚になるなら第二皇子係の事務員になる気はないかと打診され、二つ返事で「はい」と答えた。

 モニカのような人が貴族の上に立てば、この国は平民にとってより住みやすくなる。サラはそう思い、モニカと同じ係に配属された事を誇りに思っていた。

(そのうち私も係の皆と一緒になって、モニカさん談義を始めそうだな……)

 特待生として学園に入学し、貴族社会をどこか冷めた目で見ていたが、モニカと出会い、さらにこの係に来て変わった自分に驚いている。モニカと食事した際には、熱く語ってしまったりもした。

 どうも、ここ第二皇子係の人々の影響を大いに受けたらしい。官僚試験は生きる糧でしかなかったのに、今では第二皇子やモニカを、命を張って守る先輩たちがカッコいいと思っていた。
 そして何より、忍びとして危険な任務に赴き、自分に目をかけてくれたマサに一番感化されていた。

(モニカさんが二人の皇子はじめ、私たち職員まで変えてゆくみたい)



 第二皇子係は総員で、このレーヴァンダール帝国とユリアンとモニカの最善を願い働いている。
 そして、ジェラルドが活発に動き出し、なぜか第二皇子係の中にモーガンも加わった事により、第一皇子係と第二皇子係の関係性にも変化が訪れていた――
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果

下菊みこと
恋愛
身体は大人、頭脳は子供になっちゃった元悪役令嬢のお話の長編版です。 一話は短編そのまんまです。二話目から新しいお話が始まります。 純粋無垢な主人公テレーズが、年上の旦那様ボーモンと無自覚にイチャイチャしたり様々な問題を解決して活躍したりするお話です。 小説家になろう様でも投稿しています。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

処理中です...