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30 皇族部皇子課の人々
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「今日もモニカは兄上に連れ去られたのか?」
「そのようです」
「兄上にも困ったものだ……」
尋ねられたレンも呆れ顔だ。ジェラルドがここまで行動的になるとは、誰が予想出来ただろう。
ここ最近、モニカは第二皇子の執務室に現れない。朝のミーティングを課内で終え、ユリアンの執務室へと向かおうとする途中で、ジェラルドがモニカを攫ってゆくのだ。
どこにそんな元気があったのだろう。病は根治したのだろうかと考えてしまうほどだ。
(しかし兄上が元気過ぎるな……。喜ばしい事だが、モニカと一緒にいられる時間が減ってしまって切ない……)
ジェラルドがモニカと話していてムキになって怒るのも、生き生きとしているのも好意的に捉えている。が、目まぐるしく状況が変わり、ユリアンはついていけなくなりそうだった。
そして、ここにも少し、変化した人物が二人。
「ところでなぜ、モーガンまで第二のデスクに座っているのだ?」
「モニカ嬢がジェラルド様の面倒を見てくれていますので、人員を奪われた第二の皆さんに申し訳なく、モニカ嬢の代わりに少しでも私がお手伝いをと思い……」
いつもより口数が多く、視線を泳がせ答えるモーガン。すかさずノーラが割って入った。
「や~だ~。私と一緒に仕事をしたいからに決まってるじゃないですか~。無粋な質問ですよ? 私、ユリアン様をそんな男にしつけた覚えはないのですが」
「もういい、分かった……。勝手にしろ……」
口の達者さでは、姉貴分のノーラに勝てる気がしない。ユリアンは早々に白旗を上げ二人を容認した。
モーガンの婚約者とはノーラである。ノーラの母ニナは伯爵家に嫁ぎノーラの兄を産み育て、ノーラを出産した後皇子の乳母となり、訳あって今もユリアンの部屋付きをしている。
城でユリアンと一緒に育ったノーラは、いつしか第一皇子係のモーガンと恋仲になり婚約。
姉のような存在のノーラの手際の良さに、ユリアンは舌を巻いていた。
「ユリアン様。例の件ですが、やはり悪い結果が出そうなんですよねー」
「そうか。だが、仕方あるまい。痛みを伴っても、真実を突き止めねばならん。マサは引き続き調査を頼む」
「は~い」
スッと消えるように、マサの姿は課内からいなくなっていた。
「陛下のお耳にはいかがいたしましょう……。さすがに、陛下側もこちらの動きにお気づきかと……」
「確定するまで待て。父上は我々の動きに気づいていたとしても、邪魔立てはしてこないはずだ。レンは貴族連中の調査を頼む」
「はっ」
腰に剣を下げ、背筋を伸ばしたレンが課を出て行く。
レンとマサが忙しく動き出す中、主から解放されたモーガンと婚約者のノーラが呑気にイチャイチャとダベっていた。因みに、第一皇子係の職員たちからの視線は生温かい。
若くしてジェラルドの側近となり第一皇子係の係長に任ぜられ、滅多に課内に来られない若い係長の、久々の婚約者との逢瀬を温かく見守っている。
「お前たち……。暇ならモーガンは兄上を見張っていろ! ノーラは改正法案をさっさと作れ!」
「はい。ですが、ジェラルド様に追い出されます」
「厳しいわね~。ごめんね、サラちゃん。事務仕事を押し付けちゃって」
係の端の方で黙々と書類に向かっていたのは、モニカの友人サラだ。
「いいえ。第二皇子係で、今の私に出来る事は事務処理くらいしかありませんから」
「サラちゃんもいい娘だわ。モニカ様と少しでも一緒にお仕事をさせてあげたいのに。どこかの第二皇子が独り占めした挙げ句、お兄さんに盗られたりするから……」
ユリアンは、言い返す気力も無いようだ。事実だから耳が痛むらしい。
「ノーラ先輩、大丈夫ですよ。モニカはそんな些末な事に囚われる人ではありません。私がどこかで元気に働いていれば、それでいいんだと思います」
「そう? そうよね! 麗しのモニカ様はスケールが大きいんだもんね。ああ~、母に早く会わせたい!」
「始まったな……。レンとマサが居なくて良かった」
「始まりましたね。婚約者の私でも、こうなると止められません」
ユリアンとモーガンが肩をすくめる。
官僚として採用されたサラは、退職した事務処理専門の職員の代わりとして、一手に第二皇子係の事務仕事を引き受けていた。
(モニカさんも最近事務仕事をしているけれど、あの方はここにいていいお人じゃない)
敬愛していた公爵令嬢モニカと親しくなり、彼女が官僚で治まる器ではないと少し残念に思っていた矢先、学園に潜入していたマサに、官僚になるなら第二皇子係の事務員になる気はないかと打診され、二つ返事で「はい」と答えた。
モニカのような人が貴族の上に立てば、この国は平民にとってより住みやすくなる。サラはそう思い、モニカと同じ係に配属された事を誇りに思っていた。
(そのうち私も係の皆と一緒になって、モニカさん談義を始めそうだな……)
特待生として学園に入学し、貴族社会をどこか冷めた目で見ていたが、モニカと出会い、さらにこの係に来て変わった自分に驚いている。モニカと食事した際には、熱く語ってしまったりもした。
どうも、ここ第二皇子係の人々の影響を大いに受けたらしい。官僚試験は生きる糧でしかなかったのに、今では第二皇子やモニカを、命を張って守る先輩たちがカッコいいと思っていた。
そして何より、忍びとして危険な任務に赴き、自分に目をかけてくれたマサに一番感化されていた。
(モニカさんが二人の皇子はじめ、私たち職員まで変えてゆくみたい)
第二皇子係は総員で、このレーヴァンダール帝国とユリアンとモニカの最善を願い働いている。
そして、ジェラルドが活発に動き出し、なぜか第二皇子係の中にモーガンも加わった事により、第一皇子係と第二皇子係の関係性にも変化が訪れていた――
「そのようです」
「兄上にも困ったものだ……」
尋ねられたレンも呆れ顔だ。ジェラルドがここまで行動的になるとは、誰が予想出来ただろう。
ここ最近、モニカは第二皇子の執務室に現れない。朝のミーティングを課内で終え、ユリアンの執務室へと向かおうとする途中で、ジェラルドがモニカを攫ってゆくのだ。
どこにそんな元気があったのだろう。病は根治したのだろうかと考えてしまうほどだ。
(しかし兄上が元気過ぎるな……。喜ばしい事だが、モニカと一緒にいられる時間が減ってしまって切ない……)
ジェラルドがモニカと話していてムキになって怒るのも、生き生きとしているのも好意的に捉えている。が、目まぐるしく状況が変わり、ユリアンはついていけなくなりそうだった。
そして、ここにも少し、変化した人物が二人。
「ところでなぜ、モーガンまで第二のデスクに座っているのだ?」
「モニカ嬢がジェラルド様の面倒を見てくれていますので、人員を奪われた第二の皆さんに申し訳なく、モニカ嬢の代わりに少しでも私がお手伝いをと思い……」
いつもより口数が多く、視線を泳がせ答えるモーガン。すかさずノーラが割って入った。
「や~だ~。私と一緒に仕事をしたいからに決まってるじゃないですか~。無粋な質問ですよ? 私、ユリアン様をそんな男にしつけた覚えはないのですが」
「もういい、分かった……。勝手にしろ……」
口の達者さでは、姉貴分のノーラに勝てる気がしない。ユリアンは早々に白旗を上げ二人を容認した。
モーガンの婚約者とはノーラである。ノーラの母ニナは伯爵家に嫁ぎノーラの兄を産み育て、ノーラを出産した後皇子の乳母となり、訳あって今もユリアンの部屋付きをしている。
城でユリアンと一緒に育ったノーラは、いつしか第一皇子係のモーガンと恋仲になり婚約。
姉のような存在のノーラの手際の良さに、ユリアンは舌を巻いていた。
「ユリアン様。例の件ですが、やはり悪い結果が出そうなんですよねー」
「そうか。だが、仕方あるまい。痛みを伴っても、真実を突き止めねばならん。マサは引き続き調査を頼む」
「は~い」
スッと消えるように、マサの姿は課内からいなくなっていた。
「陛下のお耳にはいかがいたしましょう……。さすがに、陛下側もこちらの動きにお気づきかと……」
「確定するまで待て。父上は我々の動きに気づいていたとしても、邪魔立てはしてこないはずだ。レンは貴族連中の調査を頼む」
「はっ」
腰に剣を下げ、背筋を伸ばしたレンが課を出て行く。
レンとマサが忙しく動き出す中、主から解放されたモーガンと婚約者のノーラが呑気にイチャイチャとダベっていた。因みに、第一皇子係の職員たちからの視線は生温かい。
若くしてジェラルドの側近となり第一皇子係の係長に任ぜられ、滅多に課内に来られない若い係長の、久々の婚約者との逢瀬を温かく見守っている。
「お前たち……。暇ならモーガンは兄上を見張っていろ! ノーラは改正法案をさっさと作れ!」
「はい。ですが、ジェラルド様に追い出されます」
「厳しいわね~。ごめんね、サラちゃん。事務仕事を押し付けちゃって」
係の端の方で黙々と書類に向かっていたのは、モニカの友人サラだ。
「いいえ。第二皇子係で、今の私に出来る事は事務処理くらいしかありませんから」
「サラちゃんもいい娘だわ。モニカ様と少しでも一緒にお仕事をさせてあげたいのに。どこかの第二皇子が独り占めした挙げ句、お兄さんに盗られたりするから……」
ユリアンは、言い返す気力も無いようだ。事実だから耳が痛むらしい。
「ノーラ先輩、大丈夫ですよ。モニカはそんな些末な事に囚われる人ではありません。私がどこかで元気に働いていれば、それでいいんだと思います」
「そう? そうよね! 麗しのモニカ様はスケールが大きいんだもんね。ああ~、母に早く会わせたい!」
「始まったな……。レンとマサが居なくて良かった」
「始まりましたね。婚約者の私でも、こうなると止められません」
ユリアンとモーガンが肩をすくめる。
官僚として採用されたサラは、退職した事務処理専門の職員の代わりとして、一手に第二皇子係の事務仕事を引き受けていた。
(モニカさんも最近事務仕事をしているけれど、あの方はここにいていいお人じゃない)
敬愛していた公爵令嬢モニカと親しくなり、彼女が官僚で治まる器ではないと少し残念に思っていた矢先、学園に潜入していたマサに、官僚になるなら第二皇子係の事務員になる気はないかと打診され、二つ返事で「はい」と答えた。
モニカのような人が貴族の上に立てば、この国は平民にとってより住みやすくなる。サラはそう思い、モニカと同じ係に配属された事を誇りに思っていた。
(そのうち私も係の皆と一緒になって、モニカさん談義を始めそうだな……)
特待生として学園に入学し、貴族社会をどこか冷めた目で見ていたが、モニカと出会い、さらにこの係に来て変わった自分に驚いている。モニカと食事した際には、熱く語ってしまったりもした。
どうも、ここ第二皇子係の人々の影響を大いに受けたらしい。官僚試験は生きる糧でしかなかったのに、今では第二皇子やモニカを、命を張って守る先輩たちがカッコいいと思っていた。
そして何より、忍びとして危険な任務に赴き、自分に目をかけてくれたマサに一番感化されていた。
(モニカさんが二人の皇子はじめ、私たち職員まで変えてゆくみたい)
第二皇子係は総員で、このレーヴァンダール帝国とユリアンとモニカの最善を願い働いている。
そして、ジェラルドが活発に動き出し、なぜか第二皇子係の中にモーガンも加わった事により、第一皇子係と第二皇子係の関係性にも変化が訪れていた――
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