異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第3章第二次妖魔大戦開戦編

第2話 未来ある景色

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 ・・2・・
 記念式典は国王陛下が参上されてから陛下のお言葉に始まり、王太子のお言葉などおよそ二時間で終了した。
 改革提案者として僕もスピーチをする事になったんだけれど、これは国王陛下のご提案だった。一ヶ月前の謁見の際、そちがこの計画を推進したきっかけなのに演説せずしてどうする。というのが理由だった。
 正直なところ演説なんて全然する予定は無かったし、しかもする場所は数万人が集まる大会場だ。しかし国王陛下ともなれば断るわけにはいかず……。
 しました! やり遂げましたとも! めちゃくちゃ緊張したよ! 隠れていたからいいけれど脚なんてガックガクだったよ! 震える声を抑えるのにどれだけ必死だったか!
 表面上は緊張していないよう取り繕うのに涙ぐましいスピーチ練習があったんだけれど、それはまた別の話。
 ぶっちゃけもう二度とあんな事はしたくないよ……。
 二度目の人生で一度目を含めて史上最大の演説をなんとかこなした僕は、式典を終えて次のイベントがある所にいた。
 どこかというと式典が行われた駅前広場からすぐそこ、アルネシア・アルネセイラ駅のホーム。
 これから行われるのは、王族や代表的な貴族や軍人に富豪達が乗車する出発式だ。この日のために明日から本格運行を始める魔法蒸気機関車及び客車とは別に用意された王族専用列車、いわゆるお召し列車が出発する。実際に要人達が鉄道を体験するという、今日二つのイベントってとこだね。ぶっちゃけると僕はこっちの方が楽しみだった。
 だって、異世界に来て鉄道に乗れるんだからさ。

「これがアルネセイラ号かー。流石は専用列車。豪華だなあ」

「王族専用列車は様々な設備を含めて客車が八両あります。車内は国内随一の調度品を選んだそうですよ。ちくしょー、おれも乗りたかったなあ……」

「こればかりかはね。ごめんよ、ジェフ大尉」

「いえ、式典に参加出来ただけでも名誉なことですから! アカツキ大佐、リイナ少佐。楽しんできてくださいね!」

 ジェフ大尉は笑顔で僕らを見送ると、駅のホームを後にしていった。乗車体験はしない彼だけど、どうやらこの後にはまだ仕事が控えているらしい。お疲れ様だね、ジェフ大尉。
 さて、僕とリイナの二人になった所で指定された五号車――上位貴族に割り当てられた号車。隣の四号車は王族割当車両なので、五号車には侯爵か伯爵クラスしか乗れない――に乗ろうとする。
 ところが、後ろからある人物に呼び止められた。僕やリイナと同じようにA式軍服を着用しているマーチス侯爵だった。夫人は先に五号車に乗っているらしい。

「アカツキ大佐、スピーチご苦労だったな」

「マーチス大将閣下。ありがとうございます」

「あれほど大勢を前にしてほとんど詰まらず話せたこと、義父としても鼻が高いぞ。よくやった。だが、まだ仕事はあるぞ?」

「はえ? 仕事、ですか?」

 てっきり大仕事は終えたかと思っていた僕は間の抜けた声を出してしまう。
 ……嫌な予感がするのは気のせいかな!

「宮内大臣経由で国王陛下から伝言だ。アカツキ、そちは余がいる四号車に乗車せよ。だそうだ。すごいぞ、名誉な事じゃないか」

「は、はいいいいいい!?」

 国王陛下と同じ車両に乗るうううう!?
 うっそだろ!? どうして!? なんで!? またサプライズですか国王陛下ぁぁぁ!
 突如として宣告された国王陛下と同じ号車に変更という事実に僕は大混乱に陥る。やっと心が休まるかと思っていた所にこれだ。勘弁してほしい……。

「アカツキ、お前は改革提案者なんだ。国王陛下に気に入られているんだから当然だと思うが?」

「え、ええまあ。それについては国王陛下の自分に対する接し方で知ってはおりますが……」

「国王陛下の腹心扱いだなんて連合王国ではこれ以上ない名誉よ? 妻としても誇らしいわ」

「ちなみにだが、リイナ。お前も一緒だぞ」

「むろん、そのつもりよお父様。旦那様と共にいるのが私の使命ですもの」

「実際のところはどうなんだ」

「常に一緒にいたいだけね」

「我が娘ながら、本当に肝が据わっているな……。なんにせよ、アカツキよ。もうひと頑張りしたまえ。この後の晩餐会ではリラックスもできるだろう」

「はははっ、そうだといいですね……」

「オレは五号車に行くがな。なに、お前の親族には伝えておく。喜ぶだろうさ」

 はっはっはっ、と陽気に笑いながらマーチス侯爵は五号車へと乗っていった。あの人、鉄道に乗れるし仕事もほとんど終えたからって御機嫌だなちくしょう……。

「…………胃薬がほしくなってきた」

「大丈夫よ旦那様。気負いせずにいきましょう」

「今はリイナのポジティブさが羨ましいよ……」

 改革提案の時のように事前に決まっているならともかく、突発的な事象に僕は憂鬱とまでは言わないけれど、緊張の大波が襲ってくる。
 とはいえ、いつまでも切り替えられないのでは心臓も胃も持たないので僕は頬を叩いて気合を入れた。
 ちょうどその直後。四号車から国王陛下を護衛する近衛兵、それも隊長が出てきた。階級は中佐だ。

「アカツキ・ノースロード王宮伯爵閣下にリイナ・ノースロード夫人でございますな。こちらへどうぞ。国王陛下がお待ちです」

「了解したよ」

「王宮伯爵閣下」

「ん?」

「心中お察しします……」

「うん、ありがとう……」

 事情を知っている近衛隊長に同情されてしまった。国王陛下、あの年で本当にお茶目が過ぎると思うんだ……。

「国王陛下、アカツキ王宮伯爵閣下及びリイナ夫人をお連れしました」

「うむ、入れ」

「失礼します!」

 近衛隊長が横開きのドアを開けると、王族専用車両の中でも一番豪華な車内が広がっていた。そこにいたのはこの国の頂点の一族。国王陛下に王太子殿下と王太子妃。そして王子の四人だった。ただし、式典のように威厳に満ちた雰囲気ではなくリラックスしているようだったけど。

「よう来てくれた、アカツキにリイナよ。余の計らいはどうであったか? 驚愕したであろう?」

 国王陛下は悪戯が成功した子供のように愉快そうに笑う。ええ、サプライズに心臓が跳ねましたとも。

「父上、アカツキやリイナに悪うございますよ。父上は国王なのですよ?」

「分かっておる。じゃが、祭りは楽しまねばならんだろう?」

「確かに楽しむべきものですが。すまんな、アカツキ、リイナ。父上の悪い癖なのだ」

「とんでもございません。お招き頂き大変嬉しく思います」

 国王陛下に比べて王太子殿下は幾分か常識的らしく、僕やリイナに謝罪してくれる。とはいえ、失礼な事は言えないので僕は当たり障りない返答をした。

「わたくしは我が国の期待の人物に会えて嬉しいですわよ。久方ですわね、アカツキ。リイナ。婚約の報告以来かしら?」

「はい。ですので数ヶ月振りかと。職務が忙しくなかなかお会いできず申し訳ありません」

 芸術品といっても差し障りない椅子に優雅に腰掛けながら話してきたのはエレジア王太子妃。今年で三十八歳になるはずなんだけどその美貌は衰えること無く、年齢より若いにも関わらず年相応の色気もあるというまるで物語に出てくるような存在だ。その彼女は幸いな事に僕の事を評価してくれているらしく、このように気さくに話しかけてくれていた。

「気にしなくてもいいのよ。アカツキ、あなたはこの国を思って動いているのだから。けれど、今日はあなたの成果の一つを実感なさいな」

「はっ。お気遣い感謝致します」

「ほらローレンス。アカツキとリイナに挨拶なさい」

「こ、こんにちは……」

「こんにちは、ローレンス王子殿下。初めての鉄道はどうですか?」

 人と話すのに慣れていないからなのか、おどおどしているローレンス王子の緊張を和らげるために話題を作る。隣にいるリイナもこんにちは、と言った後に微笑んでくれていた。

「これから、すごい楽しみ。アカツキ、鉄道はすごく速く走るのか?」

「はい、王子殿下。この列車は時速四十キーラから五十キーラ程で走行致しますよ」

「四十、五十キーラも!? すごい!」

 今乗っているものが馬車の何倍もスピードを出すことにびっくりしたのか、興味心に火がついたのか、ローレンス王子は目を輝かせていた。
 それから列車が発車するまでの間、ローレンス王子は僕やリイナに鉄道について色々と質問をしてくれた。打ち解けてくれたようで何よりだね。
 さて、いよいよこの国で初めて魔法蒸気機関車が運行される時がやってきた。窓から顔を出すのは陛下など王族達なので、僕とリイナは後ろで控えていた。
 発車の瞬間、外からは王立音楽隊の流麗な演奏が流れ、多くの人の歓声と共に魔法蒸気機関車は頼もしい警笛音を響かせる。魔法で動く機関車だけど警笛の音は前世でも聞いたことのあるもので、だけど機関車から吐き出される蒸気は黒では無く透明に近い白色だった。

「動いた! 動きましたよ母上!」

「そうねえ、ローレンス。でもほら、ローレンスも手を振りなさい?」

「はいっ」

 ローレンス王子は嬉しそうにキラキラとした笑顔で手を大きく振る。駅を出ても線路際にまで人がいて、全員がにこやな顔だった。
 国王陛下も王太子妃殿下も、頬を緩ませて国民に手を振り応えている。
 目の前にある確かな幸せな光景。明るい未来が約束されたかのような景色。

「陛下達のお姿を見て、国民の表情を目の当たりにして、改革を進めて良かったと思うよ。報われた気分だ」

「私もよ、旦那様。幸せな気分だわ」

 僕とリイナは、陛下達の後ろ姿と沿線にいる国民達を見て表情を綻ばせながら話す。
 けれど、僕はこの時すっかり油断してしまっていた。
 戦争はもう、目の前にいたことを。
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