異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第3章第二次妖魔大戦開戦編

第5話 妖魔軍は果たして何処(いずこ)に

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・・5・・
午前9時52分
アルネセイラ・連合王国軍統合本部付近

「くそっ、思ったより妖魔の動きが早かった!」

 僕は幕開けしてしまった戦争に対して舌打ちをして悪態をつく。
 伝令の報告には当然開戦に伴う緊急招集が僕とリイナに発動され、朝食を食べる暇もなく軍服に着替えて馬車に乗り統合本部に向かっていた。
 馬車はいつもより早い速度で統合本部へと走っている。気持ちが落ち着かないからと小窓から外を見るけれど、どうやら僕達と同じ目的地に向かう馬車や走って向かう軍人ばかり見受けられ逆効果だった。
 市民はただならぬ雰囲気を感じ取っているみたいで、不安そうにそれらを見つめていた。恐らくあと数時間もしない内に真実を知ることになるだろう。恐慌に陥らなければいいけど……。

「旦那様の懸念がいよいよ現実になってしまったわね……」

「改革を始めてまだ一年と少し、せっかく鉄道も開通してこれから景気もさらに上向く。物流の流れも変わって税収が増えれば改革予算をさらに充てられると思っていたのに……。いや違う、そもそも三年という期間で妥協してた僕がいけなかった……。三年も待ってくれる保証なんてどこにも無いってのに……」

「旦那様……?」

 僕は油断と慢心に自分を殴りたい気分だった。
 そもそもなんで全て上手くいくと思っていたのか。どこかの副将軍が印籠見せてはい解決、のようなお決まりの展開が有り得ないのが現実じゃないか。
 にも関わらず僕は、どこかで三年もあればなんとかなるだろう。法国では連合王国より魔物の数が増えているけれど、数量からして異常ではない。まだ気にする範囲ではないと思っていた。諜報部から入る情報も直前まで大きな変化は無かったと聞く。だから今日まで戦争が起きるのはまだ先だと根拠の無い推測をしていた。
 でも、だ。よく考えてみろ。諜報部からの情報は国境線から少し向こう程度までの範囲でしかない。ましてや得た情報は最新のもので二週間前。今回のように魔物の大軍が押し寄せているのが法国だと察知しようがない。
 戦争の可能性をもっと広く察知できるようにアンテナを広げておけば、改革の進行率をもっと進めるようにしておけば。何々しておけばという後悔ばかりが頭によぎる。

「始まったからにはどうすれば……。進捗率の確認がまず必須。どうだった……。どこまで進んでいた……」

「旦那様?」

「小火器の新型転換率、ガトリング砲と大砲の導入率。魔法無線装置は東部重点配置だったけれど進捗率は……。兵站は鉄道整備が前提だったから東部と南部しか手をつけられていないぞ……」

「……旦那様? アカツキ様?」

「くそっ、くそっ! なんで油断なんてしてた!」

 僕はブツブツと呟き、しまいには自分に苛立って馬車の側面を拳で殴ろうとした。
 が、しかし。それは行われなかった。
 僕の腕を、リイナが握って止めたからだ。

「えっ?」

「旦那様、私の声は聞こえていたかしら?」

「…………ごめん、耳に入ってなかった」

「旦那様の悪い癖ね。集中して考え込むと、周りが見えない。良い方の時は聞こえているから、今回は悪い方でしょう?」

「よく分かったね……。自分に腹が立っていたんだ……」

「そう……。けれどね、旦那様。自分を責めるのは良くないわね?」

 リイナの面持ちはいつになく真剣だった。これはお説教かな? 訓練とはいえ殴った僕だ。平手打ち位は覚悟しておこう。
 そう思ったけれど、僕がされたのは平手打ちではなくて。

「んぅ!?」

 リイナは僕を引き寄せて優しく抱きしめ、頭を撫でる。まるで、子供を慰めるように。事態が飲み込めない僕は拍子のぬけた声を出してしまった。

「旦那様。今のアナタは、自分が冷静ではない自覚はあるかしら?」

「…………」

「無いわよね。私は旦那様を一年間過ごしてきた。短いかもしれないけれど、それでも旦那様の姿をよく見てきたつもりよ。だから感じたの。今のアナタはかつてない程混乱していて、誰にも予測出来ない開戦を自分のせいにしてる」

「…………ごめん」

「アナタが謝る必要なんてどこにあるのかしら? 私の自慢の旦那様は可愛くて、頭がとても回ってカッコイイ。けれど、今の旦那様はちょっとかっこ悪いわよ?」

「……そう、だね。僕がどうかしてた」

「どうかしてたと思えるのならば、少し落ち着きなさいな。いくらでもこの胸を貸してあげるわ」

「ありがとう、リイナ……」

 突然の開戦に混乱し、思考の迷宮に迷い込んでしまった僕は深呼吸をしながらリイナの言葉に甘えて彼女の体に自身を預ける。
 鼻腔をくすぐる優しくいい匂いは不思議と僕の心と思考回路を鎮めてくれた。リイナはダンナニウムの効果を言っていたけれど、リイナニウム? の効果もすごいもんだね。

「どう、旦那様?」

「だいぶ落ち着いた、かな」

「でしょう? 私の胸は芳香付でクッション性抜群よ?」

「ぷふっ。はははっ。リイナはこんな時でも変わんないね」

「こんな時だからこそよ、旦那様」

 リイナはおどけてウィンクをしてみせる。ったくもう。リイナがここまでしっかりしているなら、僕だってしっかりしないといけないじゃないか。
 けど、本当にありがとうリイナ。お陰で冷静さが戻ってきたよ。

「アカツキ様! 間もなく統合本部に到着します! 優先で通してもらえますからすぐですよ!」

「了解したよ。朝から悪かったね」

「いえいえ! これも自分の仕事ですから!」

 僕は御者に礼を言うと、直後に馬車は止まりとドアが開けられる。

「アカツキ大佐とリイナ少佐ですね、お待ちしておりました! マーチス大将閣下から到着後至急案内をするよう命じられたルーカスです! 階級は少尉です!」

「ルーカス少尉ご苦労だったね。すぐにマーチス大将閣下の元へ」

「はっ!」

 馬車から降りるとすぐに若い男性軍人の案内で僕達は統合本部の建物に入る。屋内は緊急招集を受けた軍人達でかつてないほど騒然としていた。急変した事態に内部が追いついていないみたいで、情報が錯綜している状況が一目で分かってしまう有様だった。

「マーチス大将閣下はどこにいるのかしら?」

「はっ! マーチス大将閣下はここ本部棟一階に新設された統合情報管理司令本部におられます」

「早速機能してるんだね。良かった。別邸まで伝令を飛ばしたのは、混線を防ぐためかな」

「マーチス大将閣下曰く、旧市街地なら伝令を出した方が早いとのことらしく」

「納得の理由ね。完全整備されていないシステムの今は王都外との通信が優先だもの」

「詳しくは存じませんが、そういうことかと。司令本部はこちらです。どうぞ!」

 統合本部最高機密区画にあたる司令本部はまず警護兵のいる扉を過ぎて、さらに通路を進んだ先にある。ルーカス少尉が入れるのは警護兵がいる所までで、そこから先は僕とリイナのみで向かう。
 司令本部設置にあたり改造された本部棟一階の通路を進むと分厚い扉があって再び警護兵が見える。
 警護兵の敬礼を受けて司令本部に入ると、本部内は二百人を越す司令要員が次々と入る情報の対応に追われていた。

「アカツキにリイナか! よく来てくれた! 休日の夫婦水入らずの時間を邪魔してすまんな」

「いえ、急報を聞きましてすぐに参上しました」

 次から次へと命令を下している途中で僕達を見つけてこちらにやってきたのはマーチス侯爵だった。流石のマーチス侯爵もこの事態にはかやりの焦りが表情に出ていた。

「助かる。呼んで早速で悪いがこちらに来てくれ」

「はっ。しかし、私でいいのですか?」

「何を言っているんだアカツキ大佐。魔法無線装置にしろ情報の取り扱いに一番熟知しているのはお前だろう」

「失礼しました」

「構わん。リイナ少佐も一緒にこっちへ」

「はい、大将閣下」

 親子とはいえ今は軍務。リイナも父親を階級で呼び、僕達はマーチス侯爵の案内で司令本部中央へ向かう。
 そこには非常に大きなテーブルの上に何枚も広げられている地図があった。地図には逐次入る情報が黒と白の円形の木型で示されている。白が自国の軍配置を表しており、法国軍も判明している分は置かれている。対して黒は妖魔軍だ。
 さらにテーブルの向こうには大きな黒板のようなものが横に五枚並べてあった。そこには司令本部に来た情報が書かれていっている。

「このシステムを考えついたアカツキ大佐の改革のお陰で情報整理がしやすくなった。不完全ながらも東部国境方面と南部には連隊規模で魔法無線装置が導入されているから情報がこれまでの数倍早く正確に届いている。法国からの情報も南部経由で受信したからこれだけ早く動けている。法国だとこうはいかんだろうな」

「ありがとうございます。ただ、地図上の状況図は元からあったものを魔法無線装置導入にあたり連隊規模にまで細分化が可能になったので行っているまででしょう。黒板の情報も、これまでより受信が多くなる為、一目でわかるよう提案しただけです。今までの蓄積のお陰ですよ」

「だが、見違える程判断しやすくなったのは違いない。アカツキ大佐、君の功績だ。さて、それでは現況を説明していこうか」

 不完全ながらも魔法無線装置の追加導入により、一部に関しては時代の先を行く中央指揮所として構築されているここを活用してマーチス侯爵は戦況を話し始めた。

「時間差で遅れているものの法国の状況が判明してきた。現在、法国東部ウィディーネ地方など一帯に魔物の大群が出現。数は推定だが、五万から七万だ。法国中央が混乱しているらしくてな、現れて四時間経過した今でも正確な数が分かっていない。我々が手に入れた最新報が二時間前のものだ」

「恐らくは伝令が魔物にやられたか、魔法無線装置がパンクしているのでしょう。装置の送信量には限界がありますから」

「前者の可能性もあり、後者もありうるな。話を戦況に戻そう。妖魔は推定五個師団相当から七個師団相当を投入してきたが、法国が東部に展開しているのは三個師団だ。その内、前線に近いのが二個師団。本来、魔物相手であれば相当な犠牲覚悟で対処は可能だがそうはいかんかもしれん」

「何があったんですか、マーチス大将閣下」

「どうやら報告によると魔物の中に上級魔物、オーク・コマンダーが数体確認されたらしい」

「オーク・コマンダー……。二百五十年前の文献で記されている指揮官職の魔物ですか……」

「大戦以降、一度も姿を表さなかった特殊個体ね……」

 コマンダーとは魔物の中でも特殊な個体に付与される特別呼称の一種で、こいつの場合は魔物を指揮する者という意味がある。最後に確認されたのは二百五十年前の大戦末期。以降一度も現れた事は無かった。
 故に人間より寿命の長いエルフですらオーク・コマンダーは最早文献上の扱いであり、今回の出現には驚愕を持って迎えられていた。単体で考えればアフターネーム持ちとはいえ他より強力な個体。だけで済むのだけれど、問題は。

「コマンダーが存在する事で、通常統率力がほとんど無い魔物達は群から軍へ変異する。ですよねマーチス大将閣下……」

「その通りだアカツキ大佐。オレも推定五万から七万の群れなら魔法能力者の多い法国なら対処可能だと考える。だが、五万から七万の軍隊となると話は別だ」

「なら、法国は……」

「我が国も宣戦布告された以上、下手に援軍は出せない。出したい所だが、強烈に嫌な予感がする……」

「嫌な予感……?」

「東部国境一帯には、先々月にようやく正式運用を開始した召喚士偵察飛行隊サモナーフライヤーズを出している。これも君の提案だったな。その偵察飛行隊からの報告が、無い」

 召喚士偵察飛行隊サモナーフライヤーズ
 そもそも召喚士とは魔法能力者の職種の一つだ。動物等を召喚する特殊職業で、魔法能力者の中でも割合はかなり少ない。それでも軍として機能する程度の数はいる。
 その召喚士の中でも、空を飛べる動物を召喚可能な者がいる。普通にいるそれらより明らかに大きいカラスやツバメの他、鷹や鷲、フクロウなどと様々だ。数は希少だが中には小さいドラゴンのような動物、ミニマムドラゴンをサモンする魔法能力者もいる。
 これらは召喚される特殊仕様の為に、同類に比べて能力が高い。さらには召喚士とサモンされた動物とで視覚の共有は原理は詳しく知らないけれど思念会話が可能だという。僕はここに目をつけたんだ。
 元々個々で配置されていた彼ら召喚士を東部国境部隊に一個飛行隊三十六名を六個飛行隊組織し配置。有事における上空からの強行偵察を敢行出来るように、僕はマーチス侯爵に提案していた。
 つまり、空軍が存在しないこの世界で初の空軍に類似する組織の設立をしたわけだ。
 空を飛ぶものが現況で確認されていないのならばこちらの独壇場になる。これまで個々での偵察しか出来なかった形を、飛行隊として組織化する事で実現可能とした。
 魔法能力者の魔力とサモンした動物の能力に依存する為ばらつきはあるものの、索敵距離は最大約三百キーラ。陸上の情報網に加えて航空索敵網の構築。限定的ながらも第一次世界大戦水準にまで高めたこのシステム。
 だがしかし、その索敵からまだ報告が無いという。マーチス侯爵の不安も最もだった。

「偵察飛行隊を出したのはいつですか?」

「先発隊が三時間前、本隊も二時間だ。索敵距離は百キーラを越えているはずだが……」

「撃墜された、という訳でもありませんよね……。それなら連絡がもう入るはず……」

「となると、宣戦布告しておいて連合王国には何も無しとなる訳だが……」

「人類諸国全体に吹っかけておいて、それは無いわよね……。ましてやこの国は軍事力なら既に頭一つ抜けているわ」

「リイナ少佐の言う通りです」

「確実に先にいるな……。百キーラ以上向こうならばまだ準備も出来るのが唯一の幸いか……」

 マーチス侯爵は地図を睨みながら言う。本来ならば来月から敵地上空から地理を把握する運用を取ろうとしていたから、ほぼいきなりの実戦投入は彼にとっても不本意だろう。僕だってそうなんだから。

「マ、マーチス大将閣下! 第二飛行隊第一飛行中隊所属召喚士所在の部隊魔法無線装置から受信!」

「読み上げろ!」

 中々入らない敵情報にやきもきしていると、召喚士からの通信が届く。すぐさまマーチス侯爵は命令をした。
 通信要因は震える声で、伝達された内容を読み始める。

「読み上げます! 我、国境より約百十五キーラ付近にて妖魔帝国側とおぼしき魔物の大軍見つけたり。膨大なりて正確な数は不明。ただし、確実に万単位を認むる。魔物群は、統率の取れた行動で西進。推定時速、四キーラ。ですっっ!」
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