小さなフェンリルと私の冒険時間 〜ぬくもりに包まれた毎日のはじまり〜

ちょこの

文字の大きさ
5 / 30

第5話 初めての換金

しおりを挟む
 翌朝。
 まだ少し眠気が残る中、優衣は昨日ダンジョンで手に入れた素材を大切に包んで持ち、渋谷ダンジョンの入り口近くにある「ダンジョン協会」渋谷支部へ向かった。
 朝の冷たい空気が肌に心地よく、背中に背負ったリュックが少し重く感じられる。

 政府公認のこの協会は、探索者たちの拠点として日々多くの人々が行き交っている。優衣が中に足を踏み入れると、正面には長く伸びたカウンターがあり、その背後に素材買取や依頼受付の担当者がずらりと並んでいた。
 壁一面には無数の依頼書が所狭しと貼り出されていて、色とりどりの紙に書かれた募集内容は「素材採取」「護衛依頼」「魔物討伐」など多岐にわたる。

 買取カウンターでは、昨日優衣が倒したスライムやゴブリンの素材、さらには魔石などが鑑定され、その価値に応じて金銭に換算される。依頼受付では、探索者たちが自分のレベルや得意分野に合わせて仕事を選べるように、難易度や報酬が明記されていた。

 室内には、鎧をまとい大剣を背負う男、ローブを翻し魔法書を片手にする女性、そして軽装でスピーディーに動き回る探索者たちが数人おり、依頼書をじっと見つめる者もいれば、軽く笑いあい談笑をする者もいる。
 熱気と緊張感が入り混じったこの場所は、まさに冒険の始まりを待つ人々のエネルギーで満ちていた。

 優衣は手にした素材をそっと見下ろす。昨日倒したスライムのぷるぷるとした半透明の体の一部、それに小さく切り取られたゴブリンの皮。どれも自分が初めて苦労して得た戦利品だと思うと、心がじんわりと温かくなる。

 それでも初めての換金という未知の行為に緊張し、手は少し震えていた。勇気を振り絞ってカウンターの前に立つと、背の高い受付の女性が優しく微笑み声をかけてくれた。

「おはようございます。初めての換金ですね?どんな素材をお持ちですか?」

 彼女はさらさらとストレートの髪を肩に流し、すらりとしたスレンダーな体型で、落ち着いた大人の雰囲気を漂わせている。柔らかな目元は親しみやすく、それだけで優衣の緊張が少し和らいだ。

 優衣は少し戸惑いながらも、用意した袋を差し出した。

「これが昨日集めたもので……換金の仕方がよくわからなくて」

「大丈夫ですよ」
 と受付のお姉さんは微笑みながら素材を一つひとつ丁寧に手に取り、確かめていく。

「まずはこちらで素材を鑑定して、今の相場を計算しますね。スライムの体液は希少価値があるので、思ったより高くなりますよ」

 優衣の胸は期待と不安でいっぱいだったが、その手際の良さに目を離せなかった。しばらくすると、お姉さんは計算を終え、穏やかな声で告げる。

「こちらで約1万円分になります。初めてにしては、なかなか良い成果ですよ」

 その言葉に優衣の顔は自然とほころんだ。生活に必要な金額に届くとは思っていなかったのだ。

「本当に……ありがとうございます! これで少しは生活が楽になります」

 お姉さんは優しく頷きながら、さらに付け加えた。

「これからも焦らず、自分のペースで頑張ってくださいね。無理は禁物です」

「はい、ありがとうございます。頑張ります」

 優衣の声には、これまでの苦労が少しだけ報われたという安堵と、新たな決意が混じっていた。

 周囲では他の探索者たちが次々と素材を持ち込み、活気あるやり取りが続く。彼らの顔にはそれぞれの物語が刻まれているのだろう。優衣はそんな中で、自分もここにいる一人の探索者なのだと改めて実感した。

 カウンターを離れ、握りしめた小銭をポケットにしまうと、胸の奥に小さな火が灯ったような温かさを感じた。ここから始まる自分の物語は、まだまだ続いていくのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

つまみ食いしたら死にそうになりました なぜか王族と親密に…毒を食べただけですけど

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私は貧しい家に生まれた お母さんが作ってくれたパイを始めて食べて食の楽しさを知った メイドとして働くことになれて少しすると美味しそうなパイが出される 王妃様への食事だと分かっていても食べたかった そんなパイに手を出したが最後、私は王族に気に入られるようになってしまった 私はつまみ食いしただけなんですけど…

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー
岩崎理(いわさきおさむ)40歳バツ2派遣社員。とっても巻き込まれ体質な主人公のチーレムストーリーです。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

処理中です...