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第11話 森の奥で出会った小さな命
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休息をたっぷりとって、心も体もすっかり元気になって初めての週末。
窓の外には春のやわらかな陽光が差し込み、庭の木々がそよ風に揺れていた。
静かな朝の空気に包まれながら、優衣は胸の奥に新たな決意を秘めていた。
「今日から春休みか……」
学校の喧騒から少し離れ、自由な時間がたっぷりとある。そんな日々の始まりに、優衣はこれまで以上に自分の力を試したいと願っていた。
だから、朝食を軽く済ませると、いつものように準備を整え、ダンジョンへと向かうことにした。
足取りは軽く、ダンジョンの入り口へと続く薄暗い洞窟を抜けていく。足元にはわずかな光が反射し、湿った岩肌からは冷たい空気が流れ出ている。
今回はレベルも上がった事だし、もっと先に進もうと決意していた優衣。
慎重に進む中、徐々に空気は変わり、湿気を含んだ森の匂いが鼻をくすぐりはじめた。
「ここが……15階層か」
これまで何度も挑んできた階層とは異なり、そこにはまるで生きた世界が広がっていた。鬱蒼とした木々が高くそびえ、枝葉は重なり合って太陽の光を遮り、森の奥は薄暗く、静まり返っている。
落ち葉が風にそよぎ、湿った土の匂いが鼻を撫でる。遠くの方からは地上では聞いたことのない動物の鳴き声や、時折木の枝が折れる音が聞こえてきて、自然の息吹を感じさせた。
優衣は魔力を手のひらに集めながら、足音をなるべく立てないように静かに進む。森の中は危険が潜んでいるが、その分だけ貴重な素材や生き物にも出会える場所だ。
そんな中、ふとどこからともなくかすかな鳴き声が聞こえた。
「キューン、キューン……」
その声はか弱く、そして必死に助けを求めているようだった。優衣は立ち止まり、耳を澄ませる。
「……今の声、何かの子ども?」
声のする方へと、慎重に足を運ぶ。木々の間から差し込むわずかな光が揺らめき、落ち葉がふかふかの絨毯のように優しく踏みしめられる。
やがて視界が開け、そこには小さな生き物がいた。それは、まるでまだ目も開いていない、生まれたばかりの子犬のようだった。
白くふわふわした体毛はまだ十分に生えそろっておらず、小さな体を震わせながら、「キューン、キューン」と鳴いている。
優衣の胸はぎゅっと締め付けられた。こんなに小さくて弱い命が、どうしてこんな森の奥でひとりぼっちでいるのだろう。周囲を見渡すが、親の姿はどこにもない。
「大丈夫……怖くないよ」
優衣はゆっくりと膝をつき、震える子犬に手を伸ばす。
しかし、子犬は怯えて必死に隠れようとする。怪我の痕がその体に残っており、痛みもあるのだろう。見ているだけで胸が締め付けられ、涙がじんわりとこぼれそうになる。
優衣はすぐに「鑑定スキル」を使った。魔力を掌に集め、子犬の体に優しくかざす。
「フェンリル……生まれたばかりの子みたい」
魔物の名が浮かび上がった。フェンリルはダンジョンに生息する狼の一種で、通常は警戒心が強い。
しかしこの子はまだ幼く、まるでただの生き物の赤ちゃんのように無垢で純粋だった。
「こんなに小さいのに……」
優衣はそっと声を漏らし、恐怖に震える小さな命を抱き上げる。自分の胸にその体をそっと寄せると、子犬は次第に落ち着きを取り戻し、かすかな体温が伝わってきた。
「大丈夫、もう怖くないよ。私が助けてあげるからね」
優衣の温かい声に包まれ、フェンリルの小さな体は少しずつ震えが収まっていく。まるでその瞬間、彼女とフェンリルの間に強い絆が生まれたようだった。
その時、ふと背後から葉擦れの音が聞こえ、優衣は身構えた。しかし、振り返るとそこには誰もいなかった。どうやら自然の風の音だったようだ。
優衣はそっとフェンリルを抱き上げ、思い切って立ち上がった。
「よし、一度ここを出て怪我を見てもらおうね。」
小さな生命と共に歩き出す優衣の背中には、これから訪れる新たな冒険の予感が静かに灯っていた。
窓の外には春のやわらかな陽光が差し込み、庭の木々がそよ風に揺れていた。
静かな朝の空気に包まれながら、優衣は胸の奥に新たな決意を秘めていた。
「今日から春休みか……」
学校の喧騒から少し離れ、自由な時間がたっぷりとある。そんな日々の始まりに、優衣はこれまで以上に自分の力を試したいと願っていた。
だから、朝食を軽く済ませると、いつものように準備を整え、ダンジョンへと向かうことにした。
足取りは軽く、ダンジョンの入り口へと続く薄暗い洞窟を抜けていく。足元にはわずかな光が反射し、湿った岩肌からは冷たい空気が流れ出ている。
今回はレベルも上がった事だし、もっと先に進もうと決意していた優衣。
慎重に進む中、徐々に空気は変わり、湿気を含んだ森の匂いが鼻をくすぐりはじめた。
「ここが……15階層か」
これまで何度も挑んできた階層とは異なり、そこにはまるで生きた世界が広がっていた。鬱蒼とした木々が高くそびえ、枝葉は重なり合って太陽の光を遮り、森の奥は薄暗く、静まり返っている。
落ち葉が風にそよぎ、湿った土の匂いが鼻を撫でる。遠くの方からは地上では聞いたことのない動物の鳴き声や、時折木の枝が折れる音が聞こえてきて、自然の息吹を感じさせた。
優衣は魔力を手のひらに集めながら、足音をなるべく立てないように静かに進む。森の中は危険が潜んでいるが、その分だけ貴重な素材や生き物にも出会える場所だ。
そんな中、ふとどこからともなくかすかな鳴き声が聞こえた。
「キューン、キューン……」
その声はか弱く、そして必死に助けを求めているようだった。優衣は立ち止まり、耳を澄ませる。
「……今の声、何かの子ども?」
声のする方へと、慎重に足を運ぶ。木々の間から差し込むわずかな光が揺らめき、落ち葉がふかふかの絨毯のように優しく踏みしめられる。
やがて視界が開け、そこには小さな生き物がいた。それは、まるでまだ目も開いていない、生まれたばかりの子犬のようだった。
白くふわふわした体毛はまだ十分に生えそろっておらず、小さな体を震わせながら、「キューン、キューン」と鳴いている。
優衣の胸はぎゅっと締め付けられた。こんなに小さくて弱い命が、どうしてこんな森の奥でひとりぼっちでいるのだろう。周囲を見渡すが、親の姿はどこにもない。
「大丈夫……怖くないよ」
優衣はゆっくりと膝をつき、震える子犬に手を伸ばす。
しかし、子犬は怯えて必死に隠れようとする。怪我の痕がその体に残っており、痛みもあるのだろう。見ているだけで胸が締め付けられ、涙がじんわりとこぼれそうになる。
優衣はすぐに「鑑定スキル」を使った。魔力を掌に集め、子犬の体に優しくかざす。
「フェンリル……生まれたばかりの子みたい」
魔物の名が浮かび上がった。フェンリルはダンジョンに生息する狼の一種で、通常は警戒心が強い。
しかしこの子はまだ幼く、まるでただの生き物の赤ちゃんのように無垢で純粋だった。
「こんなに小さいのに……」
優衣はそっと声を漏らし、恐怖に震える小さな命を抱き上げる。自分の胸にその体をそっと寄せると、子犬は次第に落ち着きを取り戻し、かすかな体温が伝わってきた。
「大丈夫、もう怖くないよ。私が助けてあげるからね」
優衣の温かい声に包まれ、フェンリルの小さな体は少しずつ震えが収まっていく。まるでその瞬間、彼女とフェンリルの間に強い絆が生まれたようだった。
その時、ふと背後から葉擦れの音が聞こえ、優衣は身構えた。しかし、振り返るとそこには誰もいなかった。どうやら自然の風の音だったようだ。
優衣はそっとフェンリルを抱き上げ、思い切って立ち上がった。
「よし、一度ここを出て怪我を見てもらおうね。」
小さな生命と共に歩き出す優衣の背中には、これから訪れる新たな冒険の予感が静かに灯っていた。
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