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第12話 フェンリルの赤ちゃんと約束の春
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10階層の深い森の中で出会ったフェンリルの赤ちゃんは、もうほとんど鳴き声もあげず、ぐったりと弱っていた。
優衣はその小さな命を抱え、不安と心配で胸がいっぱいだった。何とか助けたい一心で、彼女はすぐにダンジョン協会の中にある、従魔専用の医師のもとへ向かうことにした。
ダンジョン探索者の間には、魔物を使役し共に冒険する者も多い。テイマーという職業だ。
そのため、魔物の健康管理や治療を専門に行う「従魔専用病院」が設置されており、テイマーたち探索者にとってはなくてはならない存在だ。優衣もまた、この専門医の力を借りることで、フェンリルの赤ちゃんを救おうと決意していた。
獣医の診察室に入ると、白衣をまとった女性獣医が優しく優衣を迎えた。
小さなフェンリルの赤ちゃんを見て、彼女の目は驚きに輝いた。
「この子、まだ赤ちゃんなのに傷がひどいですね…しかもフェンリルの幼体なんて初めて見ます。一体どこで見つけたんですか?」
優衣は緊張しながらも答える。
「15階層の森の中です。倒れていて、もうほとんど動けてませんでした。」
獣医は慎重にフェンリルの体を診察しながら、説明を続ける。
「15階層ですか…。フェンリルはもっと深い階層に棲んでいる非常に強力な魔獣です。警戒心も強く、こちらから攻撃すれば人間を襲うこともありますが、何もしなければ近づいてきません。だから目撃例も非常に稀なんです。まだ毛は生えそろってないですが、この子の毛は白いですね。通常フェンリルは灰色の毛並みなのに。これは非常に珍しいです。」
「おそらく、他のフェンリルとは違うという理由で捨てられたのでしょう。白いというだけで他の魔獣に見つかりやすいですからね。自然界にはよくある事です。赤ちゃんでこんなに傷ついていて、親もいないなんて…」
優衣はその言葉に胸が締め付けられた。真っ白な毛並みが逆に親から見放されてしまった原因なんて。
獣医はため息をつき、しかし優しい声で言った。
「この子を貴方はどうしますか?」
その言葉に優衣は即答した。
「私が育てます!せっかく助けた命なので」
その言葉に獣医は優しくうなづく。
「わかりました。この子はまだ幼いですから、まずは栄養をしっかり取らせることが大切です。魔物用のミルクが必要になるでしょう。フェンリルは魔力も高いので、回復も早いはずです。しっかりケアをしてあげてください。」
優衣はその言葉に少しだけ安心し頷いた。
「ありがとうございます。頑張ります!」
獣医は小さな包帯や消毒液などで処置をしながら、必要なものを説明し細かく指導をしてくれた。
「哺乳瓶の使い方も教えますね。最初はうまく飲めなくても、根気よくやれば慣れてきます。まだ子どものうちは体温調整もできないので、温度管理も重要になってきます。温かくしてあげてくださいね。」
優衣はその日のうちに必要なものを買い揃え、早速安息の空間へと戻った。
赤ちゃんフェンリルはまだぐったりとしていたが、優衣の指に小さくチュッチュと吸い付く仕草を見せ、わずかに力を振り絞っていた。
「ごめんね、すぐにミルクを作るからね」
優衣は優しくその頭を撫でながら、慣れない手つきで魔物用のミルクを哺乳瓶に入れ、お湯を注ぎ適温まで冷ました。
そして、慎重に口元へ差し出すと、初めは戸惑っていた赤ちゃんフェンリルも、少しずつ飲み始めた。
その様子に優衣の胸は熱くなった。
「よかった……飲んでくれて。本当に良かった」
小さな体に栄養が行き渡っていくのを感じながら、優衣は静かに見守った。
「あなたも一人なんだね。私も一人なの。だから、大丈夫。一緒に頑張ろう。」
優しい声をかけながら、優衣はこれから続く長いケアの日々を思い描いた。傷を癒し、成長を見守り、いつかこの小さな命が強く美しいフェンリルに育つまで、決して離れず守り続けるのだと心に誓った。
外の風が窓を揺らし、柔らかな光が部屋の中に満ちていた。優衣とフェンリルの赤ちゃん、二人だけの静かな時間がゆっくりと流れていく。
優衣はその小さな命を抱え、不安と心配で胸がいっぱいだった。何とか助けたい一心で、彼女はすぐにダンジョン協会の中にある、従魔専用の医師のもとへ向かうことにした。
ダンジョン探索者の間には、魔物を使役し共に冒険する者も多い。テイマーという職業だ。
そのため、魔物の健康管理や治療を専門に行う「従魔専用病院」が設置されており、テイマーたち探索者にとってはなくてはならない存在だ。優衣もまた、この専門医の力を借りることで、フェンリルの赤ちゃんを救おうと決意していた。
獣医の診察室に入ると、白衣をまとった女性獣医が優しく優衣を迎えた。
小さなフェンリルの赤ちゃんを見て、彼女の目は驚きに輝いた。
「この子、まだ赤ちゃんなのに傷がひどいですね…しかもフェンリルの幼体なんて初めて見ます。一体どこで見つけたんですか?」
優衣は緊張しながらも答える。
「15階層の森の中です。倒れていて、もうほとんど動けてませんでした。」
獣医は慎重にフェンリルの体を診察しながら、説明を続ける。
「15階層ですか…。フェンリルはもっと深い階層に棲んでいる非常に強力な魔獣です。警戒心も強く、こちらから攻撃すれば人間を襲うこともありますが、何もしなければ近づいてきません。だから目撃例も非常に稀なんです。まだ毛は生えそろってないですが、この子の毛は白いですね。通常フェンリルは灰色の毛並みなのに。これは非常に珍しいです。」
「おそらく、他のフェンリルとは違うという理由で捨てられたのでしょう。白いというだけで他の魔獣に見つかりやすいですからね。自然界にはよくある事です。赤ちゃんでこんなに傷ついていて、親もいないなんて…」
優衣はその言葉に胸が締め付けられた。真っ白な毛並みが逆に親から見放されてしまった原因なんて。
獣医はため息をつき、しかし優しい声で言った。
「この子を貴方はどうしますか?」
その言葉に優衣は即答した。
「私が育てます!せっかく助けた命なので」
その言葉に獣医は優しくうなづく。
「わかりました。この子はまだ幼いですから、まずは栄養をしっかり取らせることが大切です。魔物用のミルクが必要になるでしょう。フェンリルは魔力も高いので、回復も早いはずです。しっかりケアをしてあげてください。」
優衣はその言葉に少しだけ安心し頷いた。
「ありがとうございます。頑張ります!」
獣医は小さな包帯や消毒液などで処置をしながら、必要なものを説明し細かく指導をしてくれた。
「哺乳瓶の使い方も教えますね。最初はうまく飲めなくても、根気よくやれば慣れてきます。まだ子どものうちは体温調整もできないので、温度管理も重要になってきます。温かくしてあげてくださいね。」
優衣はその日のうちに必要なものを買い揃え、早速安息の空間へと戻った。
赤ちゃんフェンリルはまだぐったりとしていたが、優衣の指に小さくチュッチュと吸い付く仕草を見せ、わずかに力を振り絞っていた。
「ごめんね、すぐにミルクを作るからね」
優衣は優しくその頭を撫でながら、慣れない手つきで魔物用のミルクを哺乳瓶に入れ、お湯を注ぎ適温まで冷ました。
そして、慎重に口元へ差し出すと、初めは戸惑っていた赤ちゃんフェンリルも、少しずつ飲み始めた。
その様子に優衣の胸は熱くなった。
「よかった……飲んでくれて。本当に良かった」
小さな体に栄養が行き渡っていくのを感じながら、優衣は静かに見守った。
「あなたも一人なんだね。私も一人なの。だから、大丈夫。一緒に頑張ろう。」
優しい声をかけながら、優衣はこれから続く長いケアの日々を思い描いた。傷を癒し、成長を見守り、いつかこの小さな命が強く美しいフェンリルに育つまで、決して離れず守り続けるのだと心に誓った。
外の風が窓を揺らし、柔らかな光が部屋の中に満ちていた。優衣とフェンリルの赤ちゃん、二人だけの静かな時間がゆっくりと流れていく。
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