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上手くいかない恋の話
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「なぁ、正直ちょっと、きもくね?」
みんな上手くいかなきゃいいのにーー
口が滑った勢いで出た悪口のせいで、俺もアイツも大切な人を傷つけ、離れることになるなんて思いもしなかった。
後悔は尽きない。
ーーーーーーーー
「よう。ナオ、久しぶり」
「おう」
俺への対応はいつも塩対応。
直ぐに心がズキズキと傷む。
家が隣の俺たちは小学校からの幼馴染。
コイツと俺の妹カオリは良い感じらしい。
「カオリとは最近どうよ」
「何が…?」
「何って、ラブラブなのかって聞いてんだよ」
「お前には関係ない」
まただ、自分で聞いたくせに冷めた声にこっちを見向きもしない様子に、少し涙目になる。
「ひっでぇ…!」
おちゃらけてみせて何とか穏やかな雰囲気に戻そうとする。
「少なくとも結婚したらお兄様って呼べよな」
「……ハァ、何言ってんだか」
颯爽と歩くナオに俺は必死に追いつこうとした。
「やっほー!ナオおはよう!!」
「おはようさん」
微笑むナオにナオと同じクラスの友人ノアが走ってきて挨拶を交わす。
「あ、カケルくんだよね?おはよう!」
「おっす…」
朝から可愛らしいキラキラした笑顔にテンションがダダ下がりになった。
「じゃな、俺らこっちだから」
一言も話しかけてくれなかったくせに、別れの言葉を告げられる。
「あ、うん。またな」
楽しげに語らう2人の背中を見ながら、またつまらない悩みがまた増える。
ずーっとナオのことばっか考えてる気がする。
「あーもう!!やめやめ!」
ガラッと教室の扉を開けると、いつものハイテンションの俺に戻る!!
「おはっよう!!」
「カケルじゃん!おはよう!!」
教室の友人は気の合う奴らで毎日楽しい。ただナオとは別クラスだしタイプも違うから、全然絡みはない。
あいつを好きだと気づいたの妹が付き合いたいと言ってきた時からだった。
ーーーーーーーー
「ねぇカケル兄、私ナオくんと付き合いたいんだけど、協力してよ」
「はぁ?まだあいつのこと好きなのか?」
「そうなの!イケメンだし優しいし最高すぎ!」
「うぇー」
正直最初は理解できなかった。よく比較対象にされるし話しかけても冷たいし無視されるし…
「あれ?もしかして俺嫌われてる?」
「うーん、確かに~お兄じゃ役立たずか~、自分でアタックするっきゃない!」
「ひど!!」
思い立ったが吉日と言わんばかりに連絡を取るカオリ。コイツは本当に能天気だ。
どうせアタックしてもフラれるだろうと高を括っていたのもつかの間、カオリの出かける頻度がすぐに増えていった。
「おい、カオリ。上手くいったんかよ?」
「へへへ!お兄にはナイショ~!」
「何だと!?」
問いただそうとした瞬間、カオリはヒラリと抜け出す。
「じゃあ、ママ行ってきまーす」
「気をつけてねー」
ママンが微笑ましそうに妹を送り出す。
何だか面白くない。胸の奥がかすかに痛む。
「??」
数日後、カオリとナオが仲睦まじく帰り道を歩いてるのをみた。
俺には絶対見せない優しい笑顔でカオリを見つめる姿を見て、胸がざわつく。
「なんだ……?」
鉢合わせないよう別ルートで帰宅する。が、最悪なタイミングで玄関で出くわしてしまった。
「あれー?お兄早かったね!」
「おー、今日もナオと一緒か」
カオリは驚いた顔をし、ナオはすぐに無表情に戻る。
「じゃあまたな、カオリ」
なんだよ、なんで俺にだけ冷たいんだよ。少し泣きそうになりながら何でもないふりをする。
ーーーーーーーー
グダグダ悩んで、泣いてみたりもした。
そんなこんなでストレスで体調絶不調中。
ここ最近ご飯も食べられた気がしないし、頭も痛いし、なんだか頭がグワングワンする。でも無遅刻無欠席の元気マンの俺が休むわけにはいかない…!!
フラフラになりながら、何とか学校へ辿り着く。
「おい」
「えっ!」
急に後ろから声をかけられて驚き、振り向きざまにふらつく。
「うわっ」
制御の効きにくくなった体は倒れる…と思い目を瞑ったが、痛みはなかった。そっと目を開けると、ドアップのナオが目の前にいた。
「わっ!!…な、なお…?」
「お前具合悪いだろ、顔真っ赤だぞ、フラフラしてるし、もう帰れ」
「いや、大丈夫だから!どうしたんだよ、急に話しかけてきて」
きっと顔が真っ赤なのは、顔が近いナオに照れてしまったからだ。
「どうもないって!俺あっちだから、じゃあな!」
静止を聞かず走り出そうとする俺の腰を、ナオの腕が掴んだ。
「カケル」
諭すように久しぶりに呼ばれた声と、触れた感覚にどきりとする。
「…!な、何だよ」
「とりあえず頑張って帰るぞ。先生に行ってくるからここでちょっと座って待っとけ」
近くにあったちょうど日陰付きの休憩所に座らされ、そう告げられた。
なんか、ぼんやりしてきた…。あー、ナオが言った通りだったな。謝らないと…。
意識が遠のくと同時に、呼びかけられた気がした。
ーーーーーーーー
気がつくとベッドの上で寝ていた、久しぶりにしっかり眠れて、なんだかスッキリした感じだ。
「うーーん!」
伸びをしたのと同時にカオリが飲み物を持って入ってきた。
「あ!!お兄!気が付いたんだ!良かったぁ」
可愛い妹がとても心配した顔で近づいてくる。
「わりぃわりぃ!俺ナオと一緒にいた気がしたんだけど…意識なかったのになんとか帰ってきたんかな?」
「それは知らな~い!でも良かったぁ。
顔色もいいよ!」
少し不満げな顔をみせたが、すぐにいつものカオリに戻った。
「??」
夜遅くだったので念のため次の日まで休み、登校することにした。
後で知ったことだが、ナオが先生に事情を伝え、親にも連絡し、タクシーを呼んで一緒に帰ってくれたらしいと、母から聞いた。
「昔はいっつもナオちゃん、ナオちゃんてカケルベッタリだったもんね、カオリまでナオくんに嫉妬しちゃうくらい」
「そうだったけ??」
「そうよ~、カケル昔ワンパクな癖にすぐに体調崩しやすくて、親でも気付かない不良も、ナオくんがすぐ教えてくれてたの」
「へーそうだったっけ?」
初めて聞くようなエピソードに記憶を遡る。
「なんで、仲悪くなったんだっけ?」
「さぁ?分からないけど、カケルが怪我して帰ってきた時から、あんまり近寄らなくなっちゃったことがあったかな」
「え!もしかしてこの傷のとき?」
「そうよ~!土砂降りの中、血だらけのカケルをおんぶしてきたときは、本当に心臓止まるかと思ったんだから!…でも、ナオくんのせいじゃないし、助けてくれたからありがたかったんだけど、相当罪悪感があったのかもね」
俺の眉の上には深い傷がある、特に気にしてはなかったが、よく思い返すとナオはいつも話しかける時、目じゃなくてこの傷を見てた気がする。その時から、俺の体調を気遣ってくれてたのか…?
申し訳ない気持ちと見てくれているナオがいることに胸が熱くなる。
「まぁでも今は嫉妬してたカオリといい感じそうじゃない?本当の兄弟になれるかもね?」
母の言葉にまた胸が痛くなる。
そっか…、俺じゃアイツを幸せにできないのか。同時に、俺、アイツのことめっちゃ好きだったんだって…自覚してしまった。
ーーーーーーーー
そして、ナオに会える朝や昼、時々放課後は話しかけられなくてもクラスの前を通って確認する。
大概は俺の友人の1人のレオのオモイビトであるノアと談笑している。
俺もあーやって一緒にいたいのに…。見なきゃ気付かなきゃいいのに、みんなに嫉妬してしまう。
そんな中、レオは上手く行ってるようで毎日のように愛妻弁当を自慢げに見せながら頬張っている。
「むかつくなぁ」
「何だよ。嫉妬は見苦しいぞー」
「くぅ、お前はいいよな、追わせてる側だから!おんなじ立場なのに俺は一方通行で泣けてくる」
「珍しいな、いつもはポジティブでうざいのに」
「ひでぇー、親友に何てこと言うんだ!」
「俺は襲わないように襲わないように、セーブかけるのに超頑張ってんの、ほんと苦労してるよ、朝から可愛く起こしてくれるんだぞ、最高すぎる」
「おいおい、惚気なんて聞いてねぇー」
ーーーーーーーー
率直に言うと、いろいろなことに焦りを感じていた。軽はずみで、お調子の延長線ーーー、それが冒頭での言葉の原因だった。
「お前さ、ノアの悪口言っただろ」
久しぶりに呼び止められて、言われた言葉。そう告げたナオの顔が怒りを露わにしている。
「え…?しらねぇよ、覚えてねぇし」
バレた恥ずかしさと、隠したい・嫌われたくない一心でシラを切る。
「な、なんかの勘違いじゃね?」
「聞いてたんだよ、ノアが教室に寄った時、特徴が全部お前だった」
「疑ってるのかよ!…別にいいし!本当のことだろ!男同士くっついて気持ち悪ぃ!いっつもくっついてきて金魚のフンかよって思っただけだ!」
「もう黙れ、お前最低だな」
「!」
軽蔑した冷めた目、本当に拒絶してるようだ。
「待って!悪い、口が滑っただけで…」
「どうでもいい、傷つけたことに変わりはない、謝ってこいよ」
取り返しがつかない、なんてこと言ったんだ俺は。
胸がズキズキと痛む。
もう、戻れない。
ーーーーーーーー
根性なしで、性格の歪んだ俺はその後、仲直りできず、仲は拗れたままで、高校を卒業した。
失恋のショックで、何をしても上手くいかず、何の気無しに始めたコンビニバイトで、適当に人生を生きている。卒業後すぐ就職しない状態に親に申し訳なさを感じ、都会に出て小さいボロボロのマンションで1人過ごす。昼過ぎに起きて、まだ生きてるのかと思いながら、悲劇のヒロインのようにダラダラと起きて、夜勤バイトで廃棄の弁当をもらって食べて帰って寝る。それをただ繰り返す。最近の独り言といえば、
「早くぽっくりいかねぇかなぁー」
ーーーーーー
そんな生活を送っていたある日、たまたま入ってきた客と目が合う。
「いらっしゃいませー……っ!」
上から下まで清楚なファッションに綺麗にセットされた髪、おまけに靴までピカピカだ。
そういえばコイツも都会くらしになったんだったけか。
「カケル」
久しぶりに聞いた声にまた胸が高鳴る感覚を思い出してしまう。
違う違う!おれは好きなんかじゃない、忘れろっ!!
頭の中で必死に抗う。
「カケル、久しぶり。…怖がるな」
レジする手が震えていることに始めて気がつく。
「少し話したいことがある、終わったら連絡くれ」
「えっ!あのっ…」
颯爽とレジを済ませ、俺がどうしたものかと思考してる間にメモを渡し帰っていく。
「もしかして、来てくれた…?」
深夜に胸の高鳴りは治らず、ぼんやりしたまま朝になっていた。
陽を浴びながら夢心地でアパートへ帰る。道すがらナオの姿を思い出す。
あれから、連絡も進路先も知らないまま別れた。風の噂で有名な大学に入学したと聞いた。
キラキラした大学生になったナオと自分との差に苦しむ。
「でも何で声かけてくれたんだろ」
あの軽はずみな言動の後、結局俺は謝らなかった。謝らなかったと言うより、もう何もかも終わってしまったと思い、性格の悪い俺は“憎まれる相手でもいいからナオの中に残っていたい”と思ってしまった。謝ったらもう俺はどうでもいいやつになってしまうのだから。
メールアドレスを登録し、連絡を取る。
素っ気ないメールでも繋がれたことが嬉しく感じてしまう。
"火曜日。19時集合。絶対遅れるな"
場所と空いている日程だけが書かれた、簡素なメールだった。アイツらしいと久しぶりに笑いが出る。
当日ーー
バイト終わりに、痩せて合わなくなってしまったが、1番マシな服を箪笥の奥から引っ張りだし、急いで駆けつけてきた。
「はぁっはぁ…悪りぃ!遅れた!」
そこには、少し張り詰めた表情のノアとナオが待っていた。
「ノ、ノアくんっ…!!?」
ナオの顔を驚いた拍子に見ると、真剣な面持ちで見つめてきた。
そういうことか。俺はとてつもない勘違いをしていたようだった。仲直りをしたかったんじゃない、謝らせたかっただけだったんだ。
もういい、意地張ったってナオは許しの場を何度も作ってくれることになるだけだろう。その度俺は胸が張り裂ける思いをしなければならないと言うことだ。
これっきり会わないようにしよう。
「ノアくん、久しぶりだね、もしかしてナオから何か聞いてたりする…?」
「その…ちょっとは…」
「ごめんっ!!!!俺ノアくんのこと傷つけてしまった!!謝りたかったけど、タイミング逃しちゃってごめん!!話のネタに出しちゃって、仲良い2人に嫉妬してた、」
「!!?ふふ、清々しいくらいの謝罪だね、ナオと仲良いのわかる気がする、カケルくんも多分だけど相当悩んでくれてたよね?時々僕のこと気まずそうに見てたの知ってるよ」
「え、あと、ごめん、俺気まずくて、もっと早く自分から言うべきだったのに…」
「もういいよ!大丈夫!あの後ちょっとレオと仲違いしちゃったけど、今は2人で楽しく暮らしてる、だからもう自分を責めなくていいよ…?」
とても悲しそうな慈愛のある瞳で見つめてくるノアくんに支えるように心配するナオがいる。
あ、俺アイツらは拗れないと思ってたから…。俺、まじで最低なことしたんだ。
涙目になりながら、現状までを簡単にエピソードとして、ノアくんは語らってくれた。一次会ですぐお開きとなった。
ノアくんは、もちろんレオが迎えに来ていた。
俺の痩せ方をみて驚愕した顔をしたレオであったが特に何も触れず去っていった。
ナオが送ると言ってくれたが、その日は恥ずかしさと罪悪感で断り直ぐに床につく。
数日、水や家にあったレトルト食品で生き延びる。バイトも無断欠勤で、おそらくクビだろう。窓の外を見ながら呑気にぼーとする。
風呂場に行くと、痩せっぽちの体が更に脇腹が浮き出るほど痩せてる事に気づく。
そんな日が続いていたある日。
ピンポーン。
鳴る筈のないの呼び鈴が鳴る。
誰だろ、どうせ何かの勧誘だろうと居留守を決め込む。
「カケル兄!!?ちょっと…?!居るのは分かってるのよ!!開けて!」
ドンドンと、近所迷惑になるほどドアを叩く。
何で居るんだ?
「カオリ…?」
「カケル兄ー!!うわぁーん、何でこんなに痩せてんのよぉ、電話にも出ないし、バ先からも連絡来たんだよ?!死んじゃったかと思ったぁー」
恥じらいもなく玄関先で泣き始めるカオリをそっと抱きしめる。
「ごめんごめん、ちょっと電波悪くてさ、しばらく体調悪くて寝込んでて…」
「"電波悪い"は嘘ね、私お兄の嘘なんて直ぐわかるんだから、もぅっ!!」
ポロポロと泣きながら縋り付くカオリに悲しませてしまったことを申し訳なく感じる。
「大丈夫だって、なんとかなるから心配すんな、せっかく来てもらって手持ちなくてご飯とか奢れないけど…ごめんな」
「そんなことどうでもいい!!お兄こそちゃんとご飯食べてよ!」
すごく心配しているようだ。眉毛がへの字になっている。
「しっかりしてよお兄!死んじゃうよ?!」
「大丈夫、そう簡単に人は死なないよ」
身体を起こすのがきつくて、横になる。悪いなカオリ、俺はお前の彼氏のことが好きなんだ、兄が醜くてごめんなーーー。
「本当は嫌だけどっ…絶対幸せになってくれないと許さないからっ!」
「なんだその負けヒロインみたいなセリフ」
不思議に思って振り返ると、カオリはもういなくなっていた。玄関にはポカリや栄養食品が置いてあった。本当にできた妹だ。
その日の夜、また呼び鈴が鳴った。カオリだろうと危機感なくドアを開ける。
「っ?!え!ナオ?何で家知ってるんだ?!」
「カオリに聞いた、お前が緊急事態だって」
痺れを切らしたカオリがナオをカケルの家に呼び出したようだ。
「あー、悪いな、アイツ心配性で、どうってことないからさ」
そのまま気まずく感じ、追い返そうとするも止められる。
「中、入らせて。この前は強制して悪かった。やり直しさせてくれ」
よく見ると酒とつまみを袋に沢山買ってきたようだった。どうしようかと迷っていると、困ったように心配している表情のナオがいた。
ーーーーあれ?なんか昔見たことある顔だ。
懐かしいナオの心配する顔にテンションが少し上がる。少しこの間のことで、やり過ぎたと後悔があったようだ。
「こんな所で良ければ」
「ああ、ありがとう」
ホッとしたような顔のナオ。ビールを開け、乾杯する。
酒には強い方であったが、明日は朝から講義だからすぐ帰ると言われて、急ぐように酒をあおる。
細すぎると心配されたけど、しばらく体調不良だったと伝えるとカオリが置いていったレトルトのお粥を急いで温めて、持ってきてくれた。
「悪りぃ、体に優しいやつ買ってくれば良かった、お前直ぐ体調崩すから」
「はは、何だよ、それは小さい時だけだ!」
「今も変わらねぇだろ」
酒とお粥の組み合わせに可笑しくて笑えてくる。久しぶりに美味しいと思える食事だった。
少し夜が深くなってきた頃、食べたゴミの始末を始めるナオに急な寂しさを覚える。
ふと、悪い考えがよぎる。もしかしたら安心したかったから来ただけかもしれない。本当にもう2度と会えないかもしれない。
なら……1度だけでいい、蔑まれても、疎まれても、2度と会えなくなっても、それでも。身体だけでもいい。大好きなやつとセックスを一度だけしてみたい。そしたら、もう後悔なく終われるかもしれない。
何一つ上手くいかなかった人生オワリにしようか。
暗く澱んだ目でナオを見つめる。
泥酔を言い訳に、ナオを押し倒した。
「なぁ、ナオお願い、最近誰も相手してくれなくて、一回だけで良いからそういうことシよ?」
悲しげに、でも上目遣いで、出来るだけ可愛いと思ってもらえるように。初めてなのに、口説き文句で煽ってみる。
「は?」
「いいだろー、一回くらい!頼むよ、もう2度と会わないようにするから!カオリにも会わないから、お願い!!」
「お前さ、マジで…」
今にも怒り出しそうなナオに必死に食い下がる。久しぶりの酒で、頭がぼんやりしてよく分からなくなってくる。何だか、うまくいかないことばっかりで、涙が溢れてきた。
「お願いだよぉ…ひっく…怒んないで…っ、ひぐ……っ」
とうとうボロ泣きする俺にナオは無言で、優しく頭を撫でてくれた。
「ごめ…っ、ずるい…よなっ、うっ…ぅ、もういなくなるようにするっ…!」
「何でそうなる」
「だってぇ…俺嫌われてんじゃんっ、ふっ…でも、ナオのこと好きで好きでっ…もう苦しくて堪んない…!」
「…カオリと付き合ってる俺とエッチしたいんだ?セフレ?浮気?」
「意地悪言うなよっ…、俺だって惨めなことくらい分かってるけど、もう、エッチ出来たら…」
「出来たら?」
「もうこの世からいなくなりたい…と思って…」
「はぁ??!謝って反省したかと思えばそれかよ!お前どうしょうもない奴だな!!」
ぐぅの音も出ない。でも本当のことで…
大分衰弱してる自分に気づいた。
少し冷静さを取り戻し告げる。
「ごめん、こんなこと言うつもりじゃなかった…もうこれ以上、嫌なとこ見せたくない…帰ってくれ…頭冷やしたい…」
少し時間が経ち、落ち着きを取り戻した。泣き尽くした頬に、乾いた涙の跡だけが残っていた。
「そうかよ、じゃあな」
冷たい表情と声にビクッと震える。
やっぱりだめだった。慣れないことするんじゃなかった、思考がぐるぐると同じ痛みに戻っては、また抜け出せなくなる。
パタンと閉まるドアを横目に身辺整理を始める。これ以上迷惑かけてはいけない。家族にもナオにも。とにかく消えてしまいたいと思った。だけど、後のことも考えて自暴自棄にならずにちゃんとしよう。
「なんだったっけな、“飛ぶ鳥跡を濁さず”だっけ? あ、“終わりよければすべてよし”か!」
「……全然終わりよくねぇ…」
馬鹿なこと考えながら部屋を片す。あの頃に戻れたらやり直せてたのかなとか、何で勢い任せに言ってしまったんだろうとか…
やるせない気持ちが止まらない。
また溢れ出す涙、止まる気は無かったらしい。水を飲もうと立ち上がった瞬間、
「うわっ!!」
バタンと倒れた。
「いてて」
足に力が入らなかったのか立ちくらみか、起きあがろうとしたその時。
ガチャ!ドアが開く。
「ったく!!何してんだよっ!ほっとけないだろ!!」
言葉とは裏腹にすごく心配した様子のイケメンが目の前にいる。
「あ、れ?ナオなんで…?」
「お前が変なこと言うから心配して戻ってきたんだよ!」
「しんぱい…?ナオが…?おれ、ごめ、また迷惑かけてんのか…早くいなくならなきゃだな…「だからっ!!」」
「それだよ!やめろよ居なくなるとか言うの!何でそんなにマイナスに考えんだよ、生きてれば楽しいこともあんだよ、自分で考えて楽しみみつけろ!誰かに縋るな、自分のこと大事にして自分のために生きろ!人のことなんかもう気にすんな、ノアの件だってノアも傷ついた心は完全には治らなねぇけど、あいつもあいつで抱えながら生きてんだ、謝って反省してもう後には戻れねぇんだから前向いて生きろ!!」
そうか、ナオは俺に前向いて欲しかったのか。幼馴染が自分のせいで命を断つことが許せなかったんだな。申し訳ない、自分の立場でしか考えてなかった。反省反省、ここは前向いてる感じで話し合わせとくか。
「そうだな、そうするよ!ありがとな、酒の勢いで変なこと言って悪りぃ忘れてくれ、この片付けは変に見えるかもだけど、新居に引っ越す予定なんだ、だから、その…えっと気にしないで」
何とかかんとか言葉になった。偉い俺、よく頑張ったな。
「今この経済状態で引越しすんのか?
…ふーん、で、次の家の場所どこ?」
「えっ!えっーと…ハッ!個人情報ですーナイショ~」
そんなところあるわけない、終わりを求めてるんだから。
「どうせ決まってないんだろ、俺のとこ来い」
「え!!何で?!嫌だよ」
「いいから。どうせ良からぬこと考えてんだろ、一回だけさせてって言うくらい、お前俺のこと好きなんだろ?良いだろそしたら」
「だ、だめっ…また迷惑かけるだろうし…好きだから嫌なんだよ…きもい…だろっ…男好きなやつと一緒だと…」
「そうやってまた自分責めてんのか?お前自身に言ってたんだろ?あの言葉」
まただ。心を見透かされてる気がする。目を合わせられない、もうこの話は終わりたい…。
「どうでもいいだろっ!!こんなめんどくさいやつ、好きでもない癖にっ…もう…これ以上惨めにさせるなっ…」
ぽろぽろとまた涙が溢れ出す、一生分出てんじゃないか?涙って、こんなに出て大丈夫なのか?悔しくて、雑に目を擦る。擦る手をぎゅっと握られ止められる。
「本当にお前泣き虫だな、お前によく似ててノアもほっとけなかったんだよな」
「??何がいいたいんだよ?」
「もう観念する。カケル、俺も好きだよ。ほっとけなくてカオリに頼み込むくらいにはな」
止められた手と反対の手で、こぼれ落ちる涙をすくいながら、告げられたその言葉に驚愕を覚える。
「なんで?どこをどうしたら好きになる?てか、カオリと付き合ってるんじゃ…?」
「付き合ってねぇ、お前のその変な思考回路も泣き虫なところも、アホなところも愛してるよ」
「?悪口ばっかいってない?好きになるとこ無いじゃん!!」
「もうめんどくさくなった、いつまで経っても鈍感で気づかねぇしカオリと付き合ってるとか勘違いしてるし、駆け引き疲れた、どんなとこも愛してるって言ってんだよ」
「どうなってんだ?…さっき、俺の全身全霊の攻めた言葉無視した癖に何言ってんだよ!」
「あーあれ?よく我慢したと思うわ、無茶苦茶に犯したろかと思った、けど俺は両思い確定じゃないと決まり悪りぃんだよ、それこそカオリに…はぁ…またドヤされる」
涙を拭う手がそのまま眉上の傷に触れる。優しく撫でられゾクゾクする。顔が近づき傷を舐められる。
「やぁっ、変な感じする、からやめろっ!」
ため息を吐きながら、俺を膝の上に乗せ抱きしめ始めるナオにドギマギしてしまう。
「ナ、ナンデスカコレハ」
「お前に懐かれてる小学生の頃からずっと好きだった。カオリにはだいぶ俺がお前を独占するから恨まれたなぁ…」
「小学生の時から?」
「ああ、中学前にはちょいちょい手出してたんだけどお前気づかねえからちょうどよかった」
「ええ!確かに触り方エロかった気がする…気持ちよかったから、特に何も言わなかったけど…」
またため息を吐きながら顔や首元にキスを落とす。
「だから、カオリにずっと脅されてたんだよ、アイツかなりのブラコンだろ?カオル兄がちゃんと自覚してちゃんと好きだって俺に言わない限り絶対に手を出すなと、手を出そうものなら社会的に抹殺するって、この傷作って帰ってきたときに釘刺されたんだよ」
「なんだよそれ!」
「この傷は、お前覚えてねぇけど、お前が可愛すぎてちょっといつも以上にちょっかいかけ過ぎた日に照れたお前が逃げた時にすっ転んで頭怪我したんだよ、それからずっとカオリはお前を俺と言う魔の手から遠ざけてたってワケ」
話の途中ずっとおさわりが止まらない。
傷の周りを舐め回すナオ。変態だっ!!
「…お前も大概シスコンで、お前に告白されようにも、俺言葉での駆け引きとかした事ねぇし、逐一妹に報告するから身体からの絡みもアウトだし、放課後はカオリが邪魔してくるし、後半はあんな事になるし…」
だからあんなにカオリと一緒にいる所発見したのか。どんだけ俺を守り抜いてるんだカオリは。
「前半は知らなかったけど、あのナオに怒られた後…冷たい目で見られるの辛くて、これはもう取り返しつかねぇと思ってっ…」
「俺も悪かった、カケルのこと支配したくなり過ぎてた、カケルはカケルなのに」
カケルと呼ばれるたびに反応してしまう、嬉しい。
「この間は急ぎ過ぎた、悪い。グダグダ考え込むから早く決着つけてカケルを甘やかしたかった。でも、こんなに弱ってるとは思わなくて、ちょっと痩せたなくらいだと思ってた。服も着てたから気づかなかったけど、こんなに痩せてるなんて。」
シャツを捲り手が伸びてくる。脇腹をすっと撫でる。
「あっ…んン」
気持ちよくて、ゾクゾクして声が漏れてしまう。必死に声を抑える。
「でも謝ればおっけいて事じゃねぇけど、過ちを認めて欲しかったんだよ、カケル自身も許してあげて欲しかった。じゃねぇと俺たち上手くいかないだろ?キモいって思ってるんじゃ」
「ごめん、ノアくんだけじゃなくて、俺自身もナオのことも傷つけてたってことだよな…ごめんっ、キモいなんて思ってない…本当は羨ましかっただけなのに」
「もういいよ、分かってくれれば」
近距離で絡み合う視線。
「キスしてもいいか…?」
やっと出た言葉、頷かれると同時に触れる程度のキスを交わす。
「ふっ…嬉しい、俺幸せだんぅっ?!あっ…ンゥ…やらぁ…くるしっ…」
ナオの顔が再度近づき舌が絡められる。驚きを隠せず、息がしにくく悶える。責め立てられるように、性急に背筋をなぞらるように、片方の手は胸元にやんわり触れられる。
「っ!!」
これほどまでに気持ちいいのか、好きな人とのキスは。
「誰にも渡さない、本当にムカついたんだけど、とりあえずカケルの初めて奪ったやつ殺してきていい?」
その言葉に数時間前の自分の言葉が蘇る。
「あ、あれは、言葉の綾っていうか、はっ、初めてだよっ!悪いか!」
顔を真っ赤にして伝える、伝えながらも手は止めてもらえず。
結局はーーー
「や、優しくしてくれっ…あんっ!!」
「可愛い、気持ちいい?」
こいつ、こんなに甘々だったのか…?!あの無表情で無口なところしか見せなかったくせに…
「ずるいだろー!なんで甘やかすんだよぉ、そんなんされたらっ、俺もう…」
「どうされたい?」
「っ……!」
恋人となったナオは、ドSの沼男でーー
とにかく、今幸せです。
end
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
実は前作に登場したナオくんの恋物語でした。
健気な子が心折れながらも、最後には溺愛されるのが大好きです。
辛い日々を書くのが心苦しく、書く手が止まってしまい、思いが通じ合うところ~少しの甘々シーンを先に書いてしまったので、内容辻褄が合わない箇所があったかもしれません。申し訳ないです、お許しください。
m(_ _)m
ここまで読んでくださったことに本当に感謝しています、ありがとうございました!
みんな上手くいかなきゃいいのにーー
口が滑った勢いで出た悪口のせいで、俺もアイツも大切な人を傷つけ、離れることになるなんて思いもしなかった。
後悔は尽きない。
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「よう。ナオ、久しぶり」
「おう」
俺への対応はいつも塩対応。
直ぐに心がズキズキと傷む。
家が隣の俺たちは小学校からの幼馴染。
コイツと俺の妹カオリは良い感じらしい。
「カオリとは最近どうよ」
「何が…?」
「何って、ラブラブなのかって聞いてんだよ」
「お前には関係ない」
まただ、自分で聞いたくせに冷めた声にこっちを見向きもしない様子に、少し涙目になる。
「ひっでぇ…!」
おちゃらけてみせて何とか穏やかな雰囲気に戻そうとする。
「少なくとも結婚したらお兄様って呼べよな」
「……ハァ、何言ってんだか」
颯爽と歩くナオに俺は必死に追いつこうとした。
「やっほー!ナオおはよう!!」
「おはようさん」
微笑むナオにナオと同じクラスの友人ノアが走ってきて挨拶を交わす。
「あ、カケルくんだよね?おはよう!」
「おっす…」
朝から可愛らしいキラキラした笑顔にテンションがダダ下がりになった。
「じゃな、俺らこっちだから」
一言も話しかけてくれなかったくせに、別れの言葉を告げられる。
「あ、うん。またな」
楽しげに語らう2人の背中を見ながら、またつまらない悩みがまた増える。
ずーっとナオのことばっか考えてる気がする。
「あーもう!!やめやめ!」
ガラッと教室の扉を開けると、いつものハイテンションの俺に戻る!!
「おはっよう!!」
「カケルじゃん!おはよう!!」
教室の友人は気の合う奴らで毎日楽しい。ただナオとは別クラスだしタイプも違うから、全然絡みはない。
あいつを好きだと気づいたの妹が付き合いたいと言ってきた時からだった。
ーーーーーーーー
「ねぇカケル兄、私ナオくんと付き合いたいんだけど、協力してよ」
「はぁ?まだあいつのこと好きなのか?」
「そうなの!イケメンだし優しいし最高すぎ!」
「うぇー」
正直最初は理解できなかった。よく比較対象にされるし話しかけても冷たいし無視されるし…
「あれ?もしかして俺嫌われてる?」
「うーん、確かに~お兄じゃ役立たずか~、自分でアタックするっきゃない!」
「ひど!!」
思い立ったが吉日と言わんばかりに連絡を取るカオリ。コイツは本当に能天気だ。
どうせアタックしてもフラれるだろうと高を括っていたのもつかの間、カオリの出かける頻度がすぐに増えていった。
「おい、カオリ。上手くいったんかよ?」
「へへへ!お兄にはナイショ~!」
「何だと!?」
問いただそうとした瞬間、カオリはヒラリと抜け出す。
「じゃあ、ママ行ってきまーす」
「気をつけてねー」
ママンが微笑ましそうに妹を送り出す。
何だか面白くない。胸の奥がかすかに痛む。
「??」
数日後、カオリとナオが仲睦まじく帰り道を歩いてるのをみた。
俺には絶対見せない優しい笑顔でカオリを見つめる姿を見て、胸がざわつく。
「なんだ……?」
鉢合わせないよう別ルートで帰宅する。が、最悪なタイミングで玄関で出くわしてしまった。
「あれー?お兄早かったね!」
「おー、今日もナオと一緒か」
カオリは驚いた顔をし、ナオはすぐに無表情に戻る。
「じゃあまたな、カオリ」
なんだよ、なんで俺にだけ冷たいんだよ。少し泣きそうになりながら何でもないふりをする。
ーーーーーーーー
グダグダ悩んで、泣いてみたりもした。
そんなこんなでストレスで体調絶不調中。
ここ最近ご飯も食べられた気がしないし、頭も痛いし、なんだか頭がグワングワンする。でも無遅刻無欠席の元気マンの俺が休むわけにはいかない…!!
フラフラになりながら、何とか学校へ辿り着く。
「おい」
「えっ!」
急に後ろから声をかけられて驚き、振り向きざまにふらつく。
「うわっ」
制御の効きにくくなった体は倒れる…と思い目を瞑ったが、痛みはなかった。そっと目を開けると、ドアップのナオが目の前にいた。
「わっ!!…な、なお…?」
「お前具合悪いだろ、顔真っ赤だぞ、フラフラしてるし、もう帰れ」
「いや、大丈夫だから!どうしたんだよ、急に話しかけてきて」
きっと顔が真っ赤なのは、顔が近いナオに照れてしまったからだ。
「どうもないって!俺あっちだから、じゃあな!」
静止を聞かず走り出そうとする俺の腰を、ナオの腕が掴んだ。
「カケル」
諭すように久しぶりに呼ばれた声と、触れた感覚にどきりとする。
「…!な、何だよ」
「とりあえず頑張って帰るぞ。先生に行ってくるからここでちょっと座って待っとけ」
近くにあったちょうど日陰付きの休憩所に座らされ、そう告げられた。
なんか、ぼんやりしてきた…。あー、ナオが言った通りだったな。謝らないと…。
意識が遠のくと同時に、呼びかけられた気がした。
ーーーーーーーー
気がつくとベッドの上で寝ていた、久しぶりにしっかり眠れて、なんだかスッキリした感じだ。
「うーーん!」
伸びをしたのと同時にカオリが飲み物を持って入ってきた。
「あ!!お兄!気が付いたんだ!良かったぁ」
可愛い妹がとても心配した顔で近づいてくる。
「わりぃわりぃ!俺ナオと一緒にいた気がしたんだけど…意識なかったのになんとか帰ってきたんかな?」
「それは知らな~い!でも良かったぁ。
顔色もいいよ!」
少し不満げな顔をみせたが、すぐにいつものカオリに戻った。
「??」
夜遅くだったので念のため次の日まで休み、登校することにした。
後で知ったことだが、ナオが先生に事情を伝え、親にも連絡し、タクシーを呼んで一緒に帰ってくれたらしいと、母から聞いた。
「昔はいっつもナオちゃん、ナオちゃんてカケルベッタリだったもんね、カオリまでナオくんに嫉妬しちゃうくらい」
「そうだったけ??」
「そうよ~、カケル昔ワンパクな癖にすぐに体調崩しやすくて、親でも気付かない不良も、ナオくんがすぐ教えてくれてたの」
「へーそうだったっけ?」
初めて聞くようなエピソードに記憶を遡る。
「なんで、仲悪くなったんだっけ?」
「さぁ?分からないけど、カケルが怪我して帰ってきた時から、あんまり近寄らなくなっちゃったことがあったかな」
「え!もしかしてこの傷のとき?」
「そうよ~!土砂降りの中、血だらけのカケルをおんぶしてきたときは、本当に心臓止まるかと思ったんだから!…でも、ナオくんのせいじゃないし、助けてくれたからありがたかったんだけど、相当罪悪感があったのかもね」
俺の眉の上には深い傷がある、特に気にしてはなかったが、よく思い返すとナオはいつも話しかける時、目じゃなくてこの傷を見てた気がする。その時から、俺の体調を気遣ってくれてたのか…?
申し訳ない気持ちと見てくれているナオがいることに胸が熱くなる。
「まぁでも今は嫉妬してたカオリといい感じそうじゃない?本当の兄弟になれるかもね?」
母の言葉にまた胸が痛くなる。
そっか…、俺じゃアイツを幸せにできないのか。同時に、俺、アイツのことめっちゃ好きだったんだって…自覚してしまった。
ーーーーーーーー
そして、ナオに会える朝や昼、時々放課後は話しかけられなくてもクラスの前を通って確認する。
大概は俺の友人の1人のレオのオモイビトであるノアと談笑している。
俺もあーやって一緒にいたいのに…。見なきゃ気付かなきゃいいのに、みんなに嫉妬してしまう。
そんな中、レオは上手く行ってるようで毎日のように愛妻弁当を自慢げに見せながら頬張っている。
「むかつくなぁ」
「何だよ。嫉妬は見苦しいぞー」
「くぅ、お前はいいよな、追わせてる側だから!おんなじ立場なのに俺は一方通行で泣けてくる」
「珍しいな、いつもはポジティブでうざいのに」
「ひでぇー、親友に何てこと言うんだ!」
「俺は襲わないように襲わないように、セーブかけるのに超頑張ってんの、ほんと苦労してるよ、朝から可愛く起こしてくれるんだぞ、最高すぎる」
「おいおい、惚気なんて聞いてねぇー」
ーーーーーーーー
率直に言うと、いろいろなことに焦りを感じていた。軽はずみで、お調子の延長線ーーー、それが冒頭での言葉の原因だった。
「お前さ、ノアの悪口言っただろ」
久しぶりに呼び止められて、言われた言葉。そう告げたナオの顔が怒りを露わにしている。
「え…?しらねぇよ、覚えてねぇし」
バレた恥ずかしさと、隠したい・嫌われたくない一心でシラを切る。
「な、なんかの勘違いじゃね?」
「聞いてたんだよ、ノアが教室に寄った時、特徴が全部お前だった」
「疑ってるのかよ!…別にいいし!本当のことだろ!男同士くっついて気持ち悪ぃ!いっつもくっついてきて金魚のフンかよって思っただけだ!」
「もう黙れ、お前最低だな」
「!」
軽蔑した冷めた目、本当に拒絶してるようだ。
「待って!悪い、口が滑っただけで…」
「どうでもいい、傷つけたことに変わりはない、謝ってこいよ」
取り返しがつかない、なんてこと言ったんだ俺は。
胸がズキズキと痛む。
もう、戻れない。
ーーーーーーーー
根性なしで、性格の歪んだ俺はその後、仲直りできず、仲は拗れたままで、高校を卒業した。
失恋のショックで、何をしても上手くいかず、何の気無しに始めたコンビニバイトで、適当に人生を生きている。卒業後すぐ就職しない状態に親に申し訳なさを感じ、都会に出て小さいボロボロのマンションで1人過ごす。昼過ぎに起きて、まだ生きてるのかと思いながら、悲劇のヒロインのようにダラダラと起きて、夜勤バイトで廃棄の弁当をもらって食べて帰って寝る。それをただ繰り返す。最近の独り言といえば、
「早くぽっくりいかねぇかなぁー」
ーーーーーー
そんな生活を送っていたある日、たまたま入ってきた客と目が合う。
「いらっしゃいませー……っ!」
上から下まで清楚なファッションに綺麗にセットされた髪、おまけに靴までピカピカだ。
そういえばコイツも都会くらしになったんだったけか。
「カケル」
久しぶりに聞いた声にまた胸が高鳴る感覚を思い出してしまう。
違う違う!おれは好きなんかじゃない、忘れろっ!!
頭の中で必死に抗う。
「カケル、久しぶり。…怖がるな」
レジする手が震えていることに始めて気がつく。
「少し話したいことがある、終わったら連絡くれ」
「えっ!あのっ…」
颯爽とレジを済ませ、俺がどうしたものかと思考してる間にメモを渡し帰っていく。
「もしかして、来てくれた…?」
深夜に胸の高鳴りは治らず、ぼんやりしたまま朝になっていた。
陽を浴びながら夢心地でアパートへ帰る。道すがらナオの姿を思い出す。
あれから、連絡も進路先も知らないまま別れた。風の噂で有名な大学に入学したと聞いた。
キラキラした大学生になったナオと自分との差に苦しむ。
「でも何で声かけてくれたんだろ」
あの軽はずみな言動の後、結局俺は謝らなかった。謝らなかったと言うより、もう何もかも終わってしまったと思い、性格の悪い俺は“憎まれる相手でもいいからナオの中に残っていたい”と思ってしまった。謝ったらもう俺はどうでもいいやつになってしまうのだから。
メールアドレスを登録し、連絡を取る。
素っ気ないメールでも繋がれたことが嬉しく感じてしまう。
"火曜日。19時集合。絶対遅れるな"
場所と空いている日程だけが書かれた、簡素なメールだった。アイツらしいと久しぶりに笑いが出る。
当日ーー
バイト終わりに、痩せて合わなくなってしまったが、1番マシな服を箪笥の奥から引っ張りだし、急いで駆けつけてきた。
「はぁっはぁ…悪りぃ!遅れた!」
そこには、少し張り詰めた表情のノアとナオが待っていた。
「ノ、ノアくんっ…!!?」
ナオの顔を驚いた拍子に見ると、真剣な面持ちで見つめてきた。
そういうことか。俺はとてつもない勘違いをしていたようだった。仲直りをしたかったんじゃない、謝らせたかっただけだったんだ。
もういい、意地張ったってナオは許しの場を何度も作ってくれることになるだけだろう。その度俺は胸が張り裂ける思いをしなければならないと言うことだ。
これっきり会わないようにしよう。
「ノアくん、久しぶりだね、もしかしてナオから何か聞いてたりする…?」
「その…ちょっとは…」
「ごめんっ!!!!俺ノアくんのこと傷つけてしまった!!謝りたかったけど、タイミング逃しちゃってごめん!!話のネタに出しちゃって、仲良い2人に嫉妬してた、」
「!!?ふふ、清々しいくらいの謝罪だね、ナオと仲良いのわかる気がする、カケルくんも多分だけど相当悩んでくれてたよね?時々僕のこと気まずそうに見てたの知ってるよ」
「え、あと、ごめん、俺気まずくて、もっと早く自分から言うべきだったのに…」
「もういいよ!大丈夫!あの後ちょっとレオと仲違いしちゃったけど、今は2人で楽しく暮らしてる、だからもう自分を責めなくていいよ…?」
とても悲しそうな慈愛のある瞳で見つめてくるノアくんに支えるように心配するナオがいる。
あ、俺アイツらは拗れないと思ってたから…。俺、まじで最低なことしたんだ。
涙目になりながら、現状までを簡単にエピソードとして、ノアくんは語らってくれた。一次会ですぐお開きとなった。
ノアくんは、もちろんレオが迎えに来ていた。
俺の痩せ方をみて驚愕した顔をしたレオであったが特に何も触れず去っていった。
ナオが送ると言ってくれたが、その日は恥ずかしさと罪悪感で断り直ぐに床につく。
数日、水や家にあったレトルト食品で生き延びる。バイトも無断欠勤で、おそらくクビだろう。窓の外を見ながら呑気にぼーとする。
風呂場に行くと、痩せっぽちの体が更に脇腹が浮き出るほど痩せてる事に気づく。
そんな日が続いていたある日。
ピンポーン。
鳴る筈のないの呼び鈴が鳴る。
誰だろ、どうせ何かの勧誘だろうと居留守を決め込む。
「カケル兄!!?ちょっと…?!居るのは分かってるのよ!!開けて!」
ドンドンと、近所迷惑になるほどドアを叩く。
何で居るんだ?
「カオリ…?」
「カケル兄ー!!うわぁーん、何でこんなに痩せてんのよぉ、電話にも出ないし、バ先からも連絡来たんだよ?!死んじゃったかと思ったぁー」
恥じらいもなく玄関先で泣き始めるカオリをそっと抱きしめる。
「ごめんごめん、ちょっと電波悪くてさ、しばらく体調悪くて寝込んでて…」
「"電波悪い"は嘘ね、私お兄の嘘なんて直ぐわかるんだから、もぅっ!!」
ポロポロと泣きながら縋り付くカオリに悲しませてしまったことを申し訳なく感じる。
「大丈夫だって、なんとかなるから心配すんな、せっかく来てもらって手持ちなくてご飯とか奢れないけど…ごめんな」
「そんなことどうでもいい!!お兄こそちゃんとご飯食べてよ!」
すごく心配しているようだ。眉毛がへの字になっている。
「しっかりしてよお兄!死んじゃうよ?!」
「大丈夫、そう簡単に人は死なないよ」
身体を起こすのがきつくて、横になる。悪いなカオリ、俺はお前の彼氏のことが好きなんだ、兄が醜くてごめんなーーー。
「本当は嫌だけどっ…絶対幸せになってくれないと許さないからっ!」
「なんだその負けヒロインみたいなセリフ」
不思議に思って振り返ると、カオリはもういなくなっていた。玄関にはポカリや栄養食品が置いてあった。本当にできた妹だ。
その日の夜、また呼び鈴が鳴った。カオリだろうと危機感なくドアを開ける。
「っ?!え!ナオ?何で家知ってるんだ?!」
「カオリに聞いた、お前が緊急事態だって」
痺れを切らしたカオリがナオをカケルの家に呼び出したようだ。
「あー、悪いな、アイツ心配性で、どうってことないからさ」
そのまま気まずく感じ、追い返そうとするも止められる。
「中、入らせて。この前は強制して悪かった。やり直しさせてくれ」
よく見ると酒とつまみを袋に沢山買ってきたようだった。どうしようかと迷っていると、困ったように心配している表情のナオがいた。
ーーーーあれ?なんか昔見たことある顔だ。
懐かしいナオの心配する顔にテンションが少し上がる。少しこの間のことで、やり過ぎたと後悔があったようだ。
「こんな所で良ければ」
「ああ、ありがとう」
ホッとしたような顔のナオ。ビールを開け、乾杯する。
酒には強い方であったが、明日は朝から講義だからすぐ帰ると言われて、急ぐように酒をあおる。
細すぎると心配されたけど、しばらく体調不良だったと伝えるとカオリが置いていったレトルトのお粥を急いで温めて、持ってきてくれた。
「悪りぃ、体に優しいやつ買ってくれば良かった、お前直ぐ体調崩すから」
「はは、何だよ、それは小さい時だけだ!」
「今も変わらねぇだろ」
酒とお粥の組み合わせに可笑しくて笑えてくる。久しぶりに美味しいと思える食事だった。
少し夜が深くなってきた頃、食べたゴミの始末を始めるナオに急な寂しさを覚える。
ふと、悪い考えがよぎる。もしかしたら安心したかったから来ただけかもしれない。本当にもう2度と会えないかもしれない。
なら……1度だけでいい、蔑まれても、疎まれても、2度と会えなくなっても、それでも。身体だけでもいい。大好きなやつとセックスを一度だけしてみたい。そしたら、もう後悔なく終われるかもしれない。
何一つ上手くいかなかった人生オワリにしようか。
暗く澱んだ目でナオを見つめる。
泥酔を言い訳に、ナオを押し倒した。
「なぁ、ナオお願い、最近誰も相手してくれなくて、一回だけで良いからそういうことシよ?」
悲しげに、でも上目遣いで、出来るだけ可愛いと思ってもらえるように。初めてなのに、口説き文句で煽ってみる。
「は?」
「いいだろー、一回くらい!頼むよ、もう2度と会わないようにするから!カオリにも会わないから、お願い!!」
「お前さ、マジで…」
今にも怒り出しそうなナオに必死に食い下がる。久しぶりの酒で、頭がぼんやりしてよく分からなくなってくる。何だか、うまくいかないことばっかりで、涙が溢れてきた。
「お願いだよぉ…ひっく…怒んないで…っ、ひぐ……っ」
とうとうボロ泣きする俺にナオは無言で、優しく頭を撫でてくれた。
「ごめ…っ、ずるい…よなっ、うっ…ぅ、もういなくなるようにするっ…!」
「何でそうなる」
「だってぇ…俺嫌われてんじゃんっ、ふっ…でも、ナオのこと好きで好きでっ…もう苦しくて堪んない…!」
「…カオリと付き合ってる俺とエッチしたいんだ?セフレ?浮気?」
「意地悪言うなよっ…、俺だって惨めなことくらい分かってるけど、もう、エッチ出来たら…」
「出来たら?」
「もうこの世からいなくなりたい…と思って…」
「はぁ??!謝って反省したかと思えばそれかよ!お前どうしょうもない奴だな!!」
ぐぅの音も出ない。でも本当のことで…
大分衰弱してる自分に気づいた。
少し冷静さを取り戻し告げる。
「ごめん、こんなこと言うつもりじゃなかった…もうこれ以上、嫌なとこ見せたくない…帰ってくれ…頭冷やしたい…」
少し時間が経ち、落ち着きを取り戻した。泣き尽くした頬に、乾いた涙の跡だけが残っていた。
「そうかよ、じゃあな」
冷たい表情と声にビクッと震える。
やっぱりだめだった。慣れないことするんじゃなかった、思考がぐるぐると同じ痛みに戻っては、また抜け出せなくなる。
パタンと閉まるドアを横目に身辺整理を始める。これ以上迷惑かけてはいけない。家族にもナオにも。とにかく消えてしまいたいと思った。だけど、後のことも考えて自暴自棄にならずにちゃんとしよう。
「なんだったっけな、“飛ぶ鳥跡を濁さず”だっけ? あ、“終わりよければすべてよし”か!」
「……全然終わりよくねぇ…」
馬鹿なこと考えながら部屋を片す。あの頃に戻れたらやり直せてたのかなとか、何で勢い任せに言ってしまったんだろうとか…
やるせない気持ちが止まらない。
また溢れ出す涙、止まる気は無かったらしい。水を飲もうと立ち上がった瞬間、
「うわっ!!」
バタンと倒れた。
「いてて」
足に力が入らなかったのか立ちくらみか、起きあがろうとしたその時。
ガチャ!ドアが開く。
「ったく!!何してんだよっ!ほっとけないだろ!!」
言葉とは裏腹にすごく心配した様子のイケメンが目の前にいる。
「あ、れ?ナオなんで…?」
「お前が変なこと言うから心配して戻ってきたんだよ!」
「しんぱい…?ナオが…?おれ、ごめ、また迷惑かけてんのか…早くいなくならなきゃだな…「だからっ!!」」
「それだよ!やめろよ居なくなるとか言うの!何でそんなにマイナスに考えんだよ、生きてれば楽しいこともあんだよ、自分で考えて楽しみみつけろ!誰かに縋るな、自分のこと大事にして自分のために生きろ!人のことなんかもう気にすんな、ノアの件だってノアも傷ついた心は完全には治らなねぇけど、あいつもあいつで抱えながら生きてんだ、謝って反省してもう後には戻れねぇんだから前向いて生きろ!!」
そうか、ナオは俺に前向いて欲しかったのか。幼馴染が自分のせいで命を断つことが許せなかったんだな。申し訳ない、自分の立場でしか考えてなかった。反省反省、ここは前向いてる感じで話し合わせとくか。
「そうだな、そうするよ!ありがとな、酒の勢いで変なこと言って悪りぃ忘れてくれ、この片付けは変に見えるかもだけど、新居に引っ越す予定なんだ、だから、その…えっと気にしないで」
何とかかんとか言葉になった。偉い俺、よく頑張ったな。
「今この経済状態で引越しすんのか?
…ふーん、で、次の家の場所どこ?」
「えっ!えっーと…ハッ!個人情報ですーナイショ~」
そんなところあるわけない、終わりを求めてるんだから。
「どうせ決まってないんだろ、俺のとこ来い」
「え!!何で?!嫌だよ」
「いいから。どうせ良からぬこと考えてんだろ、一回だけさせてって言うくらい、お前俺のこと好きなんだろ?良いだろそしたら」
「だ、だめっ…また迷惑かけるだろうし…好きだから嫌なんだよ…きもい…だろっ…男好きなやつと一緒だと…」
「そうやってまた自分責めてんのか?お前自身に言ってたんだろ?あの言葉」
まただ。心を見透かされてる気がする。目を合わせられない、もうこの話は終わりたい…。
「どうでもいいだろっ!!こんなめんどくさいやつ、好きでもない癖にっ…もう…これ以上惨めにさせるなっ…」
ぽろぽろとまた涙が溢れ出す、一生分出てんじゃないか?涙って、こんなに出て大丈夫なのか?悔しくて、雑に目を擦る。擦る手をぎゅっと握られ止められる。
「本当にお前泣き虫だな、お前によく似ててノアもほっとけなかったんだよな」
「??何がいいたいんだよ?」
「もう観念する。カケル、俺も好きだよ。ほっとけなくてカオリに頼み込むくらいにはな」
止められた手と反対の手で、こぼれ落ちる涙をすくいながら、告げられたその言葉に驚愕を覚える。
「なんで?どこをどうしたら好きになる?てか、カオリと付き合ってるんじゃ…?」
「付き合ってねぇ、お前のその変な思考回路も泣き虫なところも、アホなところも愛してるよ」
「?悪口ばっかいってない?好きになるとこ無いじゃん!!」
「もうめんどくさくなった、いつまで経っても鈍感で気づかねぇしカオリと付き合ってるとか勘違いしてるし、駆け引き疲れた、どんなとこも愛してるって言ってんだよ」
「どうなってんだ?…さっき、俺の全身全霊の攻めた言葉無視した癖に何言ってんだよ!」
「あーあれ?よく我慢したと思うわ、無茶苦茶に犯したろかと思った、けど俺は両思い確定じゃないと決まり悪りぃんだよ、それこそカオリに…はぁ…またドヤされる」
涙を拭う手がそのまま眉上の傷に触れる。優しく撫でられゾクゾクする。顔が近づき傷を舐められる。
「やぁっ、変な感じする、からやめろっ!」
ため息を吐きながら、俺を膝の上に乗せ抱きしめ始めるナオにドギマギしてしまう。
「ナ、ナンデスカコレハ」
「お前に懐かれてる小学生の頃からずっと好きだった。カオリにはだいぶ俺がお前を独占するから恨まれたなぁ…」
「小学生の時から?」
「ああ、中学前にはちょいちょい手出してたんだけどお前気づかねえからちょうどよかった」
「ええ!確かに触り方エロかった気がする…気持ちよかったから、特に何も言わなかったけど…」
またため息を吐きながら顔や首元にキスを落とす。
「だから、カオリにずっと脅されてたんだよ、アイツかなりのブラコンだろ?カオル兄がちゃんと自覚してちゃんと好きだって俺に言わない限り絶対に手を出すなと、手を出そうものなら社会的に抹殺するって、この傷作って帰ってきたときに釘刺されたんだよ」
「なんだよそれ!」
「この傷は、お前覚えてねぇけど、お前が可愛すぎてちょっといつも以上にちょっかいかけ過ぎた日に照れたお前が逃げた時にすっ転んで頭怪我したんだよ、それからずっとカオリはお前を俺と言う魔の手から遠ざけてたってワケ」
話の途中ずっとおさわりが止まらない。
傷の周りを舐め回すナオ。変態だっ!!
「…お前も大概シスコンで、お前に告白されようにも、俺言葉での駆け引きとかした事ねぇし、逐一妹に報告するから身体からの絡みもアウトだし、放課後はカオリが邪魔してくるし、後半はあんな事になるし…」
だからあんなにカオリと一緒にいる所発見したのか。どんだけ俺を守り抜いてるんだカオリは。
「前半は知らなかったけど、あのナオに怒られた後…冷たい目で見られるの辛くて、これはもう取り返しつかねぇと思ってっ…」
「俺も悪かった、カケルのこと支配したくなり過ぎてた、カケルはカケルなのに」
カケルと呼ばれるたびに反応してしまう、嬉しい。
「この間は急ぎ過ぎた、悪い。グダグダ考え込むから早く決着つけてカケルを甘やかしたかった。でも、こんなに弱ってるとは思わなくて、ちょっと痩せたなくらいだと思ってた。服も着てたから気づかなかったけど、こんなに痩せてるなんて。」
シャツを捲り手が伸びてくる。脇腹をすっと撫でる。
「あっ…んン」
気持ちよくて、ゾクゾクして声が漏れてしまう。必死に声を抑える。
「でも謝ればおっけいて事じゃねぇけど、過ちを認めて欲しかったんだよ、カケル自身も許してあげて欲しかった。じゃねぇと俺たち上手くいかないだろ?キモいって思ってるんじゃ」
「ごめん、ノアくんだけじゃなくて、俺自身もナオのことも傷つけてたってことだよな…ごめんっ、キモいなんて思ってない…本当は羨ましかっただけなのに」
「もういいよ、分かってくれれば」
近距離で絡み合う視線。
「キスしてもいいか…?」
やっと出た言葉、頷かれると同時に触れる程度のキスを交わす。
「ふっ…嬉しい、俺幸せだんぅっ?!あっ…ンゥ…やらぁ…くるしっ…」
ナオの顔が再度近づき舌が絡められる。驚きを隠せず、息がしにくく悶える。責め立てられるように、性急に背筋をなぞらるように、片方の手は胸元にやんわり触れられる。
「っ!!」
これほどまでに気持ちいいのか、好きな人とのキスは。
「誰にも渡さない、本当にムカついたんだけど、とりあえずカケルの初めて奪ったやつ殺してきていい?」
その言葉に数時間前の自分の言葉が蘇る。
「あ、あれは、言葉の綾っていうか、はっ、初めてだよっ!悪いか!」
顔を真っ赤にして伝える、伝えながらも手は止めてもらえず。
結局はーーー
「や、優しくしてくれっ…あんっ!!」
「可愛い、気持ちいい?」
こいつ、こんなに甘々だったのか…?!あの無表情で無口なところしか見せなかったくせに…
「ずるいだろー!なんで甘やかすんだよぉ、そんなんされたらっ、俺もう…」
「どうされたい?」
「っ……!」
恋人となったナオは、ドSの沼男でーー
とにかく、今幸せです。
end
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
実は前作に登場したナオくんの恋物語でした。
健気な子が心折れながらも、最後には溺愛されるのが大好きです。
辛い日々を書くのが心苦しく、書く手が止まってしまい、思いが通じ合うところ~少しの甘々シーンを先に書いてしまったので、内容辻褄が合わない箇所があったかもしれません。申し訳ないです、お許しください。
m(_ _)m
ここまで読んでくださったことに本当に感謝しています、ありがとうございました!
4
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