生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう

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78話 狂気の目①

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 僕の目は赤く、爛々と輝き出す。
 その瞳はきっと霧の中の鬼にも伝わったはずだ。
 それを受けてか、鬼の動きが若干鈍くなる。恐怖で慄いているのがわかった。

「何だその目は」
「何だじゃないよ。お前を倒す、そう誓った目だよ」

 僕はナイフを取り出すと、人差し指と中指の間に挟んだ。
 それから投げるのではなく、身軽さを活かして木々の合間を抜けて弾みをつけ、僕は鬼に体当たりする。

「俺を倒す! この俺、オニビシを? 冗談だろ」
「冗談じゃないよ。それに、オニビシ? あぁ、聞いたことあるよ。その名前」

 僕はホズキ師匠から教わったことを思い出した。
 確か昔、同胞のいた国にオニビシと言う鬼がいたそうだ。
 しかしその鬼は、人との合いの子である、ホズキ師匠に敗北した。それ以来故郷に帰っていない、残念な鬼がいたそうだ。

「人間との間に生まれた鬼にまんまとやられて逃げていった、しょうもない鬼がいたとか」
「何だと! 馬鹿にするなぁ!」

 鬼の拳が飛んできた。
 それから乱れるように、金棒が振り下ろされるものの、僕はそれらを軽快にかわし、弾みをつける。
 すると、先に振り上げた左腕に金棒が激突する。
 手首から先がなくなった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 鬼が絶叫した。
 滲んだ色をした血が流れていた。僕はそれを見て、吐き気がしたが、赤く光る瞳には、狂気すら芽生えている。そんな僕の前で、そんな鈍い声は響かない。

「もっと鳴いてよ。せいぜい、鬼が泣くまでさ!」

 手に持ったナイフを突き立て、鬼の体に突き刺す。
 それを抜いてさらに突く。一回だとあまり出ない血も、何度も何度も同じところに刺されれば、自然とたくさん血が出てくる。僕のやっていることは、本当に危険で酷いことだった。

 スブッ! ズブッ!ーー

「ぐはっ!」
「まだまだ、恐怖に怯えて、殺された人たちに比べたら、こんな痛み、大したことないよ」

 僕の突き出したナイフは、正確に同じところだけを貫いていた。
 オニビシは、何度も何度も金棒を振るい上げ、振り下ろすものの、僕は身軽にそれをかわす。何度も何度も。鬼が疲れ果てるまで、僕は攻撃を交わし続け、その間もナイフを貫き続けた。

「くそっ。霧の中でちょこまかと!」
「そりゃそうだよ。でも、もう少しちゃんとやってもいいかもね」

 僕は、オニビシの背後をとった。
 それからベルトから取り出したワイヤー状の糸をオニビシの首から残った右腕に巻き付ける。
 その先に石をくくりつけ、近くの木の枝に引っ掛けた。

「ぬあっ!」
「動けば首が絞まる。動かなければ、永遠の痛みで苦しみ悶え、いつかはその腕が引きちぎれる。さぁ、どっちがいい?」

 鬼だった。
 誰よりも鬼よりも鬼らしく、僕の瞳は赤々と爛々に輝く。オニビシは苦い汁を舐めた。それから僕に残った力でこう囁く。

「鬼が!」
「鬼に言われる筋合いはないよ。とっとと消えろ」

 僕は残ったナイフの、折れた破片を穴の空いた腹に突き立てた。
 すると鬼の口から吐瀉物が吐かれた。
 僕の頭が臭い汁と、赤い血で真っ赤に染まる。白が赤に。その目は赤に。鬼の命は、儚く潰えるものの、死んだ人たちの魂は、消えやしない。
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