6 / 102
2
2-2
しおりを挟む
清水の邸に着いた時、ちょうど門から一人の娘が出てくるところだった。明野領五代家老家の一つである佐竹家の菊乃姫だ。雅勝と目が合うとにっこり微笑んで会釈してくる。彼女はこの邸の当主――清水忠雅の許嫁なので、雅勝ともそれなりに馴染みはあった。
「お久しぶりです。菊乃様。――忠雅の奴は中ですか?」
「ええ、父のところによい鰆が届いたので、今日はおすそ分けに。厨にお渡してきましたので、ぜひ雅勝様も召し上がって下さい」
その名の通り、菊の花を思わせるような清楚で可憐な女性だ。明野領の人間の大半は影衆など人間だと思っていないが、雅勝を忠雅の友と認め敬意を持って接してくれる数少ない人間でもあった。
その可憐な女性の帰りを見送りもせず、許嫁の男は何をやっているのか。勝手知ったる友の書院に足を踏み入れて、雅勝は声を張り上げた。
「おい、忠雅、いいのか、見送らなくて。菊乃様、帰ったぞ」
「――ああ、そういや来てたみたいだな。なんか魚のおすそ分けとか言ってたから、厨に通すように言っといた」
書物の山に埋もれていた忠雅が顔を上げる。その発言から推察するに菊乃と顔を合わせてもいないらしい。
友の許嫁に懸想するつもりはない雅勝の目から見ても可愛らしい娘だと思うし、彼女の側は明らかに忠雅に好意を抱いているのだが、その可愛らしい許嫁の想いをこの男はいつも清々しく無視している。
生家が困窮し影衆に売られた雅勝自身の生い立ちは珍しくもなんともないが、次席家老の息子に生まれながら、影衆に追いやられた忠雅の人生は珍しいことこの上ない。忠雅は多くを語らないし、雅勝もあえて聞いたことはないが、先代の妾だった母親の死後、この邸の片隅で、影衆の見習い――影子の生活の方がまだましだと思うほど、悲惨な幼少期を送ってきたらしい。酒に酔った時など何かの拍子に、ぽつりと零れる忠雅の幼少期の話は、つき合いの長い雅勝でも眉をひそめたくなるほど陰惨なものばかりだった。
――この世の仕組みが間違っているのなら、仕組みそのものを変えてやる。
かつて友はそう言って、影の世界を抜けていった。三年前、六人いた兄のすべてが夭折し、清水家の跡取りとして迎えられた時のことだ。
――影は二十歳まで生きられぬ。
それは影衆の中で、もはや不文律となっている言い伝えだった。現実に現在の影衆の最年長は十九歳の雅勝で、その上の世代は一人も生きていない。数年前まで、最強の影とまで言われた剣の遣い手の男が一人生き残っていたが、彼さえも十八の歳に犬脇峠の山賊との闘いで死んだ。
傷を負ってもまともな手当を受けられず、病になっても薬さえ与えられず、体を労わる暇もなく戦闘に駆り出されれば、若くして擦り切れるのも無理はない。忠雅はその仕組みを変えると言って、実際に、影の任務の間に休みを入れ、清水家の私財を褒美として与え、影衆達が自分で薬や寝床を贖うことを許した。
甲斐あって、年が明ければ雅勝が二十歳。その下には今年十六歳の雅明、雅道、雅規の三人がいて、その下の世代はまだ大分生き残っているから、あと何年か経てばそんな定説も消えてなくなるだろう。
「そうだ、お前が言っていた娘の素性調べたぞ。おるいとか言ったか。本人の言っていたことに嘘はない。本領の元忍び里の娘で、母親が昔川口の邸に下働きで務めていたそうだ。――疑わしいか?」
「……いや、別にそういうわけではない」
陣屋の奥が襲撃されたあの日、炎は堀の中から上がった。中に手引きしている人間がいるのは明らかったが、るいはあの時、全身全霊で千代丸君を守ろうとしていた。雅勝でさえ間一髪だったのあの状況で、るいが襲撃を手引きしたとは思えない。ただその後、やけにこちらに踏み込んでくる感じが、訝しくて忠雅に素性を洗うよう頼んだのだ。本人に言に嘘がないのなら、きっと単なる変わり者なのだろう。
「内通者はわかった。高橋の若当主だ。こないだ本領の高橋の当主が死んだばかりだからな。藩に恩を売って、よほど本家の当主の座が欲しかったと見える」
言って、若き家老殿は読んでいた文書を投げて寄越した。
何しろ主である武智家が本家と分家で別れて争っているのである。家臣の家も本領と飛び地領で別れていて、同族同士でのいがみあいが延々と続いている。ちなみに雅勝の生家である樋口家も、本領で藩主に仕えた下級武士の家だった。父が死んだ後、貧で貧を洗うような生活を三年続け、明野領に売られてきたのだが、雅勝が知る限り、本領のどの武士の家よりも明野領の武家の方がはるかに裕福だった。腹が膨れるわけでなく、一文の足しになるでもないのに、どうしてこの地の人々はそれほどまでに本領に憧れるのだろう。
「それで、沙汰は?」
「本人は切腹。妻女が本領の高橋家の縁戚でな。藩からは妻と娘を返すように言ってきた」
家臣の身で、内部から敵を手引きし嫡子の命を狙ったのだ。これは立派な謀反だし、謀反の罪は一族郎党すべて処刑と相場は決まっている。それが妻子を助命せよとは、さすがに都合が良すぎるのではないかと雅勝も思う。
「始末を頼む」
「――わかった」
またか。声にならない呟きが胸の奥に淀んで消えて行く。
謀反者の妻子を生かして本領に返しては、今後また、同じことが起こる可能性が高い。本領の手前、正式に処刑できないのであれば陰で消えてもらうしかない。
山賊やならず者の成敗ならともかく、無抵抗の女子供を手にかけることに心が痛まないといえば嘘にはなる。その痛みをやり過ごすことにも――もう慣れた
口の中に苦い味がする。先ほどまでわずかにあった、旬の鰆を楽しみにする気が春の雪のよう消えた。
和尚のとんでもない誤解は、即座に否定したるいと雅勝の言によって退けられた。それでもまだわずかに訝しそうにしていたが、しかし何でまた、あんな途方もない誤解をしたりしたのだろう。
赤子を背負ったるいが陣屋の奥座敷に帰り着いた時、既に御見の方と赤子の母親との話は終わっていた。
母親は本領にある高橋家の縁者で、明野領に来た後しばらく、この陣屋で御見の方に仕えて働いていたという。年のころはるいより二つ、三つ年上か。るいが背負っていた子どもを手渡すと縋るように抱きしめて、何度も何度も礼を言った。
法勝寺にいた子ども好きの隠密のおかげで、ただの遣いのはずがずいぶんと時間がたってしまった。残っていた仕事を片付ける為に中庭に出た時、井戸端で洗いものをしていた侍女達の会話が耳に入ってきた。
「……まだあんなにお若いのに。高橋様もお気の毒に」
「本当に、お子だってまだ一歳でしょう。ご夫君が切腹なんて、この先、どうされるのやら」
「――何があったのですか?」
覗き込んだるいを見て、年長の侍女が話してくれたのは忘れもしない、あの初春の夜の襲撃のことだった。陣屋の奥に火をつけて、嫡子千代丸君の命を狙ったあの襲撃は、内側から手引きされたものだった。明らかになった内通者は家督を継いだばかりの高橋家の当主――あの赤子の父親であり母親の夫である人物である。
自分自身が斬られそうになったからいうわけではないが、襲撃を手引きした夫の切腹は致し方ないとるいも思う。妻子が助命されただけでも奇跡のようなものだが、我が子を縋るように抱きしめていたあの若い女性は、この先の人生をどうやって生きていくのだろう。――会ったこともない高橋の当主という人物が憎らしく感じられて来る。
「――るい、話がある。部屋に来られるか?」
「……お方様」
気持ちが地の底まで沈んで行くのを感じた時、背後に芳香が漂った。御見の方は明野領で最も身分が高い女性であるが、気楽に庭に出て散策して、井戸端会議中の侍女にも声をかける気安い女性でもある。千代丸君が生まれた時には、自らの乳を与え、襁褓も変えたらしい。家来からの信頼も厚い正室は、この時、その柳眉を悩まし気に寄せていた。
「高橋様の奥方とお子を迎えの手にお渡しする役目……でございますか?」
御見の方の居室で告げられたのは、先ほど話題に上った哀れな母子のことだ。妻女は本領の出身なので、夫の切腹後、高橋家の本家から実家に戻す為の迎えがやって来ると言う。母子が無事に明野領から出立するところを、るいに見届けてほしいと御見の方は言った。
「本領からの正式な達し故、滅多なことはないと思うが――嫌な予感がする」
母親が子を殺して自害するか。もしくは妻子の助命に納得しない明野領の人間が、彼女たちを葬らんとするか。
謀反人の家族を正室が積極的にかばうことはできない。御見の方にできるのは、あの二人が無事に本領に帰りつけるよう見守ることだけだ。その点、るいならば最低限自分の身は守れるし、低い塀なら乗り越えられる。哀れな母子を無事に迎えの手に渡すくらいのことはできるだろう。
「――わかりました」
るいが応えた後も、御見の方の憂い顔は晴れなかった
「お久しぶりです。菊乃様。――忠雅の奴は中ですか?」
「ええ、父のところによい鰆が届いたので、今日はおすそ分けに。厨にお渡してきましたので、ぜひ雅勝様も召し上がって下さい」
その名の通り、菊の花を思わせるような清楚で可憐な女性だ。明野領の人間の大半は影衆など人間だと思っていないが、雅勝を忠雅の友と認め敬意を持って接してくれる数少ない人間でもあった。
その可憐な女性の帰りを見送りもせず、許嫁の男は何をやっているのか。勝手知ったる友の書院に足を踏み入れて、雅勝は声を張り上げた。
「おい、忠雅、いいのか、見送らなくて。菊乃様、帰ったぞ」
「――ああ、そういや来てたみたいだな。なんか魚のおすそ分けとか言ってたから、厨に通すように言っといた」
書物の山に埋もれていた忠雅が顔を上げる。その発言から推察するに菊乃と顔を合わせてもいないらしい。
友の許嫁に懸想するつもりはない雅勝の目から見ても可愛らしい娘だと思うし、彼女の側は明らかに忠雅に好意を抱いているのだが、その可愛らしい許嫁の想いをこの男はいつも清々しく無視している。
生家が困窮し影衆に売られた雅勝自身の生い立ちは珍しくもなんともないが、次席家老の息子に生まれながら、影衆に追いやられた忠雅の人生は珍しいことこの上ない。忠雅は多くを語らないし、雅勝もあえて聞いたことはないが、先代の妾だった母親の死後、この邸の片隅で、影衆の見習い――影子の生活の方がまだましだと思うほど、悲惨な幼少期を送ってきたらしい。酒に酔った時など何かの拍子に、ぽつりと零れる忠雅の幼少期の話は、つき合いの長い雅勝でも眉をひそめたくなるほど陰惨なものばかりだった。
――この世の仕組みが間違っているのなら、仕組みそのものを変えてやる。
かつて友はそう言って、影の世界を抜けていった。三年前、六人いた兄のすべてが夭折し、清水家の跡取りとして迎えられた時のことだ。
――影は二十歳まで生きられぬ。
それは影衆の中で、もはや不文律となっている言い伝えだった。現実に現在の影衆の最年長は十九歳の雅勝で、その上の世代は一人も生きていない。数年前まで、最強の影とまで言われた剣の遣い手の男が一人生き残っていたが、彼さえも十八の歳に犬脇峠の山賊との闘いで死んだ。
傷を負ってもまともな手当を受けられず、病になっても薬さえ与えられず、体を労わる暇もなく戦闘に駆り出されれば、若くして擦り切れるのも無理はない。忠雅はその仕組みを変えると言って、実際に、影の任務の間に休みを入れ、清水家の私財を褒美として与え、影衆達が自分で薬や寝床を贖うことを許した。
甲斐あって、年が明ければ雅勝が二十歳。その下には今年十六歳の雅明、雅道、雅規の三人がいて、その下の世代はまだ大分生き残っているから、あと何年か経てばそんな定説も消えてなくなるだろう。
「そうだ、お前が言っていた娘の素性調べたぞ。おるいとか言ったか。本人の言っていたことに嘘はない。本領の元忍び里の娘で、母親が昔川口の邸に下働きで務めていたそうだ。――疑わしいか?」
「……いや、別にそういうわけではない」
陣屋の奥が襲撃されたあの日、炎は堀の中から上がった。中に手引きしている人間がいるのは明らかったが、るいはあの時、全身全霊で千代丸君を守ろうとしていた。雅勝でさえ間一髪だったのあの状況で、るいが襲撃を手引きしたとは思えない。ただその後、やけにこちらに踏み込んでくる感じが、訝しくて忠雅に素性を洗うよう頼んだのだ。本人に言に嘘がないのなら、きっと単なる変わり者なのだろう。
「内通者はわかった。高橋の若当主だ。こないだ本領の高橋の当主が死んだばかりだからな。藩に恩を売って、よほど本家の当主の座が欲しかったと見える」
言って、若き家老殿は読んでいた文書を投げて寄越した。
何しろ主である武智家が本家と分家で別れて争っているのである。家臣の家も本領と飛び地領で別れていて、同族同士でのいがみあいが延々と続いている。ちなみに雅勝の生家である樋口家も、本領で藩主に仕えた下級武士の家だった。父が死んだ後、貧で貧を洗うような生活を三年続け、明野領に売られてきたのだが、雅勝が知る限り、本領のどの武士の家よりも明野領の武家の方がはるかに裕福だった。腹が膨れるわけでなく、一文の足しになるでもないのに、どうしてこの地の人々はそれほどまでに本領に憧れるのだろう。
「それで、沙汰は?」
「本人は切腹。妻女が本領の高橋家の縁戚でな。藩からは妻と娘を返すように言ってきた」
家臣の身で、内部から敵を手引きし嫡子の命を狙ったのだ。これは立派な謀反だし、謀反の罪は一族郎党すべて処刑と相場は決まっている。それが妻子を助命せよとは、さすがに都合が良すぎるのではないかと雅勝も思う。
「始末を頼む」
「――わかった」
またか。声にならない呟きが胸の奥に淀んで消えて行く。
謀反者の妻子を生かして本領に返しては、今後また、同じことが起こる可能性が高い。本領の手前、正式に処刑できないのであれば陰で消えてもらうしかない。
山賊やならず者の成敗ならともかく、無抵抗の女子供を手にかけることに心が痛まないといえば嘘にはなる。その痛みをやり過ごすことにも――もう慣れた
口の中に苦い味がする。先ほどまでわずかにあった、旬の鰆を楽しみにする気が春の雪のよう消えた。
和尚のとんでもない誤解は、即座に否定したるいと雅勝の言によって退けられた。それでもまだわずかに訝しそうにしていたが、しかし何でまた、あんな途方もない誤解をしたりしたのだろう。
赤子を背負ったるいが陣屋の奥座敷に帰り着いた時、既に御見の方と赤子の母親との話は終わっていた。
母親は本領にある高橋家の縁者で、明野領に来た後しばらく、この陣屋で御見の方に仕えて働いていたという。年のころはるいより二つ、三つ年上か。るいが背負っていた子どもを手渡すと縋るように抱きしめて、何度も何度も礼を言った。
法勝寺にいた子ども好きの隠密のおかげで、ただの遣いのはずがずいぶんと時間がたってしまった。残っていた仕事を片付ける為に中庭に出た時、井戸端で洗いものをしていた侍女達の会話が耳に入ってきた。
「……まだあんなにお若いのに。高橋様もお気の毒に」
「本当に、お子だってまだ一歳でしょう。ご夫君が切腹なんて、この先、どうされるのやら」
「――何があったのですか?」
覗き込んだるいを見て、年長の侍女が話してくれたのは忘れもしない、あの初春の夜の襲撃のことだった。陣屋の奥に火をつけて、嫡子千代丸君の命を狙ったあの襲撃は、内側から手引きされたものだった。明らかになった内通者は家督を継いだばかりの高橋家の当主――あの赤子の父親であり母親の夫である人物である。
自分自身が斬られそうになったからいうわけではないが、襲撃を手引きした夫の切腹は致し方ないとるいも思う。妻子が助命されただけでも奇跡のようなものだが、我が子を縋るように抱きしめていたあの若い女性は、この先の人生をどうやって生きていくのだろう。――会ったこともない高橋の当主という人物が憎らしく感じられて来る。
「――るい、話がある。部屋に来られるか?」
「……お方様」
気持ちが地の底まで沈んで行くのを感じた時、背後に芳香が漂った。御見の方は明野領で最も身分が高い女性であるが、気楽に庭に出て散策して、井戸端会議中の侍女にも声をかける気安い女性でもある。千代丸君が生まれた時には、自らの乳を与え、襁褓も変えたらしい。家来からの信頼も厚い正室は、この時、その柳眉を悩まし気に寄せていた。
「高橋様の奥方とお子を迎えの手にお渡しする役目……でございますか?」
御見の方の居室で告げられたのは、先ほど話題に上った哀れな母子のことだ。妻女は本領の出身なので、夫の切腹後、高橋家の本家から実家に戻す為の迎えがやって来ると言う。母子が無事に明野領から出立するところを、るいに見届けてほしいと御見の方は言った。
「本領からの正式な達し故、滅多なことはないと思うが――嫌な予感がする」
母親が子を殺して自害するか。もしくは妻子の助命に納得しない明野領の人間が、彼女たちを葬らんとするか。
謀反人の家族を正室が積極的にかばうことはできない。御見の方にできるのは、あの二人が無事に本領に帰りつけるよう見守ることだけだ。その点、るいならば最低限自分の身は守れるし、低い塀なら乗り越えられる。哀れな母子を無事に迎えの手に渡すくらいのことはできるだろう。
「――わかりました」
るいが応えた後も、御見の方の憂い顔は晴れなかった
0
あなたにおすすめの小説
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
江戸の夕映え
大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。
「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三)
そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。
同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。
しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる