殻人界は世継ぎをお求め!

弧川ふき(元・ひのかみゆみ)

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第1章「日常が変わる感じ」

第3話 意思を強めるよ。

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 家にはお母さんだけがいた。僕も一人っ子。あとは僕のお父さんを待つだけだ、もし待つならだけど。
 みんなで居間のテーブルの前にいる。それぞれ適当に座っている。

「しかしまあ、そちらの……維都いとくんだっけ? 殻態かくたいになれたんだって? 殻則かくそくに縛られるから気を引き締めないとね」
 ゴニアータさんがそう言ったから、僕は、
「そ、そうですね……」
 って、少しだけ怖くなった。
 それでも僕はやる。蒼空のために。


 ゴニアータさんが言った『殻態かくたい』っていうのは、殻人かくじんが普段の状態ではなく甲殻に包まれた状態になって、なおかつ筋肉の密度が上がって強化された状態のことだ。

 で、殻則かくそくというのは、殻態かくたいになれた人を束縛するルール。

 と、僕がいろいろと知っているのは、殻人界かくじんかいのことを学校で教わったからだ。人間界の隣人たちの世界のことだ、大事だからなあ。小学校でも中学校でも年に一回はその授業がある。

 おかげで知ってはいるけど――それが目の前にいるなんて。
 というか自分もそうだったなんて。驚きだ。夢なんじゃないかって思うくらいに。

 テーブルを前にして話しているところへ、お父さんが帰ってきた。勢ぞろいだし見知らぬ人もいるかもということで、お父さんは目を丸くさせたけど、そこで、

「ダクティリオ様!?」

 って、リメニアさんがすっごく驚いた声をあげた。

 え? とんでもない関係図が出来上がりそうだけど、どういうこと?


 ……で。色々と打ち明け話をしたワケだけど。

「え、蒼空そらを守るために最初に護衛に来たの、お父さんなの?」
「ああ。というか人間界に運んだのがそうだ」
 お父さんは即座にそう返答した。

 マジか。まだ夢の中みたいだよ。想像もつかない。どんな風だったのかさえ。

「お母さんはリオさんを追って。お母さんも殻人かくじんなのよ?」

 もう驚きっ放しだ。
 口が開いたままになっていたのを閉じると、そのタイミングでお父さんが「で、蒼空そら様だが」と言い出した。様だって。うわ、聞き慣れない。

「蒼空様は現王の孫にあたる。とはいえ王が亡くなったのか」
「ええ、そうです」

 リメニアさんがお父さんにそんな風に。お父さんが偉い人だなんて、なんだかくすぐったい。

「どうしてここがわかった? 正確には二人の居場所がだが」

 お父さんがそう聞いたから、この目をリメニアさんに向けてみた。
 彼女はやっぱり涼やかな声で――
「ダクティリオ様たちは抑えているでしょうが、たまに蒼空様の殻理力かくりりょくを感じられますから」
「――ああ、そうか。王の波長と照らし合わせたのか。そこは似てるはずだから」
「ええ。そして『ソラ様』が本当にいた」

 そんなリメニアさんに、聞いてみたくなった。

「蒼空って、元々ソラなの? それとも、違う名前だったの?」
「元々ソラって名付けられてたんだよ。だから、近くまで探知したら――」

 僕にそこまで答えたお父さんの声を、

「名前で確認できましたのでね」

 って、リメニアさんが遮るように、代弁した。

「ったく。あの時からだ。妙なことさせるんだから」
「あの時?」

 僕が聞くと、お父さんとお母さんが、ふたりして、過去の話を始めた。

 その話はとても信じられなかったけど――ドゥビレイという名前の王女が子を産んだ時に、その周辺警護をしていて、もしもの時のことを頼まれていて、我が子と一緒に人間界に来た、ということだった。
 出産時も襲撃があったという話で。

「――っていうことだったんだが。ったく、デスモセス殿下が悪いのか、はたまたデスモセス殿下のせいにしようとしているのか」
「その調査を仲間に頼みますよ」

 お父さんにそう伝えたのはゴニアータさんだ。
 本当に現実的じゃない。あまりにも信じがたい状況だ。

 だから、僕は、蒼空を守るために、殻理力かくりりょくをどうにかしないといけない。

 殻理力っていうのは殻態かくたいになるための力だ。ファンタジーゲームで言うと魔法のために消費する魔力。まあ別のことにも使うはずだけど。

 その殻理力の波長を王様と照らし合わせて、蒼空そらを見つけ出した? そんなこともできるんだなぁ……。


 話して、全員がこの状況を理解した。

 蒼空のお母さんを、リメニアさんとゴニアータさんが護衛することになった。
 蒼空のことはうちの両親が護衛する。

 僕はその人員から除外されてるけど、僕だって守るよ、蒼空のことをね。絶対だ。

 というか。
 殻人界かくじんかいと人間界で色んなやり取りがあるし、お金の工面もできるんだろうけど、仕事そのものが本当は護衛だったなんて。知らなかったよ。

 そして。
 僕には、「守る」と言った手前やらなきゃならないことがある。
 殻態かくたいでの体の動かし方の勉強や、そもそもの完全な殻態かくたいになる練習、殻理技かくりぎというものの習得、それらだ。

 蒼空を守るんだ、絶対強くなってやる!

 殻理技かくりぎっていうのは人によって違う技のはず。
 あの赤い甲殻の男はとげを飛ばした。アレは多分、殻理力かくりりょくを形にして飛ばしたんだ。色は殻色かくしょくに左右されるんだろうな。

 殻色かくしょくは僕の場合、虹色だ。事態を把握するって時に、リメニアさんにそのことを言われた。そういえば、リメニアさんの甲殻は青かった。蒼空のは何色なんだろう。

 というか、リメニアさんの殻理技かくりぎって何だったんだろう。

 まあともかく。
 強くなるために、殻理技かくりぎを習得して、殻態かくたい殻理力かくりりょくを向上させないとな。


 ……これと同じことを蒼空そらも考えると思ったから、うちのソファーに座っているその横に座って、話し合ってみた。
 実際、蒼空も考えてた。まあそれはそうだ、殻人かくじんの常識を蒼空も知っているはずだからね。小学校も中学校も一緒だったし、殻人界についての特別授業も一緒に受けたし。

「あたしも、頑張る……!」

 そう言った蒼空の真剣な顔。本当は怖くないわけないよね、そうだよね。僕もだよ、でもだからこそ僕も――。

 そんな今、蒼空の首元に、紫の小さな甲殻が現れた。思わず二度見した。そのくらい綺麗な甲殻と肌のコントラストが、そこにあったんだ。

「蒼空様! それです!」

 リメニアさんが気付いた。僕の方が先だったけどね。……ねえ、蒼空、僕も、守るからね。
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