殻人界は世継ぎをお求め!

弧川ふき(元・ひのかみゆみ)

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第1章「日常が変わる感じ」

第4話 ふたり頑張るよ。

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 リメニアさんとゴニアータさんは蒼空そらのお母さんを護衛する。
 蒼空を護衛するのはうちの両親。
 僕も蒼空を守りたい。ただ、力なんてまだまだだ。

 とにかく僕と蒼空は、お父さんたちに教わって、殻態かくたいになることと殻理技かくりぎを使うことの練習をすることにした。

 まだそんな色々を知った初日。
 マンション『サマーテント』の204号室。我が家のテーブルを前にしてみんなで座っている。一緒にいた方がいいからっていう意味もあるんだろう。

 作戦会議からまだ数十分しか経っていない。
 そんな時、リメニアさんがこんなことを。

殻則かくそくに縛られるのは週の半分、水曜日の昼十二時から土曜日の二十四時までになります」

 学校で聞いたことがあった。殻人界かくじんかいについては授業で学んでいる。
 それにしても水曜日の昼から? 土曜日の二十四時まで? 水曜日なんてもうすぐだ。変な殻則かくそくに縛られなければいいけど。

 なんとか殻態かくたいになることはできた。
 だいたい首から下がほぼ全体的に甲殻こうかくに覆われる。
 頬は少しだけ。
 靴や服にそこまで影響はない。甲殻と言っても皮膚が硬く頑丈になったくらいの感じだ、そのおかげかも。ズボンが破けたりしなくてよかった。

 でもまあ、こんな心配、する程でもないようなもんだ。だって、僕は蒼空を守るんだから。今後気にしちゃあいられない。

「一日でここまでおできになるとは。中々のものですよ、おふたりとも」

 リメニアさんに言われて、僕は蒼空の顔を見た、蒼空も僕の顔を。お互いの顔がまあまあ明るくなる。
 そこでお父さんの声が。

「ふたりともよく聞いてくれ。殻理技かくりぎについてだが――殻理技は人によって様々だ、『これができるようになった』と思ったことが、実は普通のことじゃなく殻理技だったというケースもある、そのくらいに気付かないこともある、気を付けろ、何か新しいことができたと思ったら知らせろよ」
「うん、わかった」

 だったらと、今は殻態かくたいの練習に時間を使うことにした。
 殻態の維持には殻理力かくりりょくを使う。
 だからかその消耗からの回復を切っ掛けにして、殻理力は底上げされていく。筋肉のように使えば使う程いいはず。
 そして、それから数分が経った時。

「ちょ、え! 維都いとくんが! アンモナイトみたいになっちゃった!」

 どうやら僕の姿が変わったらしい。まだ殻則かくそくで縛られてはいないはずだから――どういうことだ? 学校でも習ってない範ちゅうかも。

 というか僕、今どこに? ソファーの真ん中には蒼空そら、その左隣に僕は……いるけど、目線が下がってるのか。

 おーい。おーい。あれ? やっぱり僕、しゃべれてないよね。
 ねえ! 誰か!

 そう思ったタイミングで、お母さんの声が聞こえてきた。

「それはアンモノイジアって言うのよ。力を使い過ぎた時の回復期間の姿。殻則かくそくから一旦解放されるけど、これの回復は約二時間」
「二時間!? 二時間このまま!?」

 って、慌てる蒼空の声が聞こえた。聴覚は人間並みにあるらしい。
 僕も声を出したかったけど、出ない。やっぱりこの状態じゃ無理みたいだ。

「ええ。でも大丈夫でしょ、だからこそ私たちがいるのよ」

 と、お母さんが慰めるけど――蒼空は驚きを抑えられなかったみたい。その『嘘でしょ感』のある顔を僕の方に向けるのは、この目からでも見えた。
 そんな蒼空は、傾けるくらいの強さで僕を抱き締めた。

「こんな姿です」

 少し傾いた僕の前に、リメニアさんがスマホを。それの鏡機能がオンになっていて――
 そこには、ぐるぐると巻いたから、十本ほどの触手、その根元に口、そんな生物がいた。

 こ、これが今の僕……!

 口にはギザギザが。捕食の時にいいんだろう。
 タコのような目を持っていて、その目の表面には膜があるようだった、それで守られている。
 殻は虹色。これは僕の殻色かくしょくがそのまま出ているんだな。

 そうか。じゃあ、殻理力かくりりょくを使い過ぎないようにしないと。

 ……ん? 背中が温かい。さっきよりも。

 あ、そうか。蒼空そらが僕に手で触れてる。今、後ろの方の殻をでられてる?

 ……見てて、蒼空。僕はどんな姿になっても、蒼空を守るよ。何度こんな姿になっても。きっと。


 そんな風に想う僕の前で、蒼空も、頑張っている。その様子がずっと見えている。その手が紫の甲殻に包まれ続けている。維持している。

 で、ある時。
 蒼空もポンッとアンモノイジアになった。おそろいだ。最初はありがちなのかも。



 お父さんやリメニアさんが窓の外に視線をやることが増えた。蒼空と僕を守ろうとしているからだろう。

 そんな中、高貴な紫色の蒼空と虹色の僕は、傾き合っていた。ソファーの上で、ただ静かに。

 こんな姿に何度なってもいい、蒼空のためなら。
 思いながら触手で手をつないだ。
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