【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希

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第二部

16 同業者の目

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 行くあてなどなかったが、庭にでも行こうと足を向けた。その先には執事長がいた。他の部屋を訪問してる。  

 ディーノの姿に気づいた執事長がわずかに表情を変えたが、扉が開いたため、注意が逸れた。

 その脇を通り過ぎながら、ほんの少し部屋に視線を向けた。見覚えのある男が執事長と対応している。そこはヴァイオリン奏者たちに貸されている部屋だった。

 一瞬だけ男と目が合った。話し終えて部屋に顔を向けるまでの、ほんの一瞬のことだった。何気なく向けられた視線が、一瞬で鋭いものに転じた。すぐに背けられたが、ディーノをうろたえさせるには充分な威圧感だった。

 どうしてあんなに敵意を漲らせてオレを睨むんだろう。何もしていないのに。

 奴隷時代に向けられた嫌悪感や蔑みとはまた違う種類の、けれど気分を害する目つき。貴族たちの称賛を得たぐらいで、なぜ敵視されるのか不思議でならなかった。

 それが才能の差なのだと自負する気などディーノには丸っきりない。自分に才能や実力があるとは思っていない。まだまだ勉強することはたくさんあるし、師匠に指摘された癖が治っていない。

 たまたま披露する機会に恵まれ、師匠との二重奏であったから称賛されたのだと思った。ソロであったらまともに演奏できていたかどうかわからない。あれだけの人数を前にして演奏をするのは初めてのことだったし。どれだけリュートが好きで、演奏ができるだけで満足だといっても緊張はするのだ。突然のことであったし。

 まあ、突然だったからこそ、変な気負いも、緊張で胃やお腹が痛くなるようなこともなくディーノらしい演奏ができたのかもしれないが。

 さっき師匠はああ言ったが、音楽家仲間からあんな視線を向けられては、自信なんて持てるわけがなかった。貴族に認めてもらうことも大切だが、やはり音楽家に認められないと一人前にはなれない気がした。

 中庭をぶらぶらしながらうじうじと考え悩んでいたが、避けられることではないと思い、何にも気づかない振りで食事の席にいようと腹を決め、部屋に戻った。

 師匠が何やら言いたげにしていたものの、それも気づかない振りを通した。

「師匠、レッスンをお願いします」

 有無を言わせぬ口調で自分のリュートを手に取る。

 師匠は無言で立ち上がった。触れられることを望んでいないディーノの心を悟ったのだろう。二人は向き合って座った。
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