【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希

文字の大きさ
70 / 157
第二部

17 同業者の目 2

しおりを挟む
 食事の席は粛々とすすんでいた。総勢十五名が縦長の卓に左右に並び、カリエール公爵の話を聞き、質問に答えながら。

 カリエール公の右辺にアイゼンシュタット公、ロドヴィーゴ、ディーノ、ピエール、チェンバロ奏者の三人が座り、左辺にカリエール夫人、アイゼンシュタット夫人、ヴァイオリン奏者たちが座っていた。

 話題は昨夜の宴が中心だった。前半を盛り上げたのはバレエや人形劇。内容は短いものだったが、素晴らしいものであったらしい。貴族と同席していた三人の音楽家たちも、伴奏を担当していた楽団の演奏を褒めた。

 男性オペラ歌手の歌声は特に素晴らしかったと誰かが云い、隣国オーストンの有名歌手で、王宮に呼ばれることもある人物なのだと話題になった。

 ヴァイオリンのソロはもちろん、弟子たちとの合奏にも圧倒された。

 反対にチェンバロの音は繊細で、心が洗われるものだった。

 それぞれの音楽家を褒めた後、リュート演奏はなかでも格別だったとカリエール公爵は褒めちぎった。

 ロドヴィーゴの演奏は涙も笑いも誘い、非常に楽しい演奏だったと夫人も同調した。

 そして師弟の二重奏に話題が移ると、場の空気が少しだけ変わった。もともと盛り上がっていた席ではなかったが、その話題には関わらないぞという雰囲気をだす者や、あからさまに嫌悪感をむきだしにしてディーノを睨みつけてくる者もいる。

 公爵たちは気づいていないのか、あの演奏は最高のものだったと四人だけで盛り上がっていた。

 ディーノは顔を俯けた。突き刺さるような視線を視界に入れたくなかった。

「ディーノ君、一曲弾いて差し上げたらどうかね」

 ぱっと顔を上げると、アイゼンシュタット公爵が穏やかにディーノを見つめていた。

「すてき」

「わたくしからも、ぜひお願い致しますわ」

 両夫人は胸の前で指を絡ませ、お願いポーズをしている。きらきらさせている眸に、ディーノは顔を赤らめた。二人ともずいぶん年上なのだが、そうは見えない外見に、思わずどきどきしてしまう。恥ずかしくて、視線を逸らせたら、師匠と目が合った。

 師匠が頷いている。弾いてさしあげなさい、と言っているのがディーノに伝わった。

 ピエールが右から顔を寄せてくる。

「僕がリュートを持ってこようか」

「あ、いや、自分で。でも、いいのかな」

 ディーノがちらと目を動かすと、ピエールはわかっているというふうに頷いた。

「誰に何を言われようと、きみはきみの演奏をすればいいんだよ。先生もそう仰っていたから」

「う、うん」

 迷いが吹っ切れず、返事はどうしても歯切れが悪くなる。

「とにかく、リュートを取っておいで」

「わかった」

 頷いて立ちあがり、貴族たちに向けて一礼をして、席を離れた。

 部屋に戻る足は速い。走るのはさすがに遠慮したけれど、すれ違った使用人が、譲る必要のないほどの広い通路を端に寄ってディーノを見送る。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

失礼ながら殿下……私の目の前に姿を現すな!!

星野日菜
ファンタジー
転生したら……え?  前世で読んだ少女漫画のなか? しかもヒロイン? ……あの王子変態すぎて嫌いだったんだけど……? 転生令嬢と国の第二王子のクエスチョンラブコメです。 本編完結済み

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

処理中です...