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第二部
38 誘惑
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自分に貸し与えられた部屋は三階だった。今階段を何階まで上がったのかわからなかった。
「先生」
夫人に手を取られ、どこかの部屋に雪崩れ込むようにして入った。
蜀台に灯された三本の小さな火のお陰で部屋はうっすらと明るい。奥にキングサイズの寝台が置かれていたがそこまで行きつけず、扉付近で倒れ込んだ。
無意味に笑い続けて疲れた。腹筋が痛い。
「飲みすぎちゃった……」
先に夫人がよろよろしながら上半身を起こし、床に腰を落ち着けた。頭が軽く揺れている。
ディーノはまだ寝そべったままでいた。絨毯が気持ちよかった。このまま眠ってしまいそうだった。
勧められるままに杯を重ねた。どれだけ呑んだのか全くわからないが、許容量はとっくに超えていた。頭は痛くないけれど、きっと明日は二日酔いだろうな。
気配を感じてディーノが瞼を開けると、目の前に夫人の顔があった。驚く感覚も麻痺したのか、笑ってしまった。笑いながらなんとか身を起こした。
「何、やってるんです?」
「苦しいから、後ろ解いてくださいな」
夫人がくるりと背中を向けた。服の紐が肩の下まで解けていた。手を伸ばしているものの、解けた紐には届いていない。
要求されるままにドレスの紐に手を伸ばした。しっかりと締められていた紐を解いてやり、できたよと告げると、「こっちもやって」と叱られた。
ドレスの下でより硬く締められているコルセットは、酔った手では簡単に解けてくれず、時間をかけながら少しずつ緩めていった。
全部が解けたとき、夫人の吐息が漏れた。ようやく解放されて、人心地ついたらしい。
「きついったらないわ」
文句を言いながらドレスの袖から腕を抜き、きつい下着もぬいだ。そして壁に手をついて立ちあがった。ついでのように腰にまとわりついていたドレスが、すとん落ちる。
蝋燭の炎に照らされ、裸体が浮かび上がる。
華奢な肩、下着の締めつけ具合がよくわかる跡がついた背中、きゅっと細い腰から丸みを帯びた尻のライン。まるでギターのようなシルエットだとディーノは思った。
見られていること意識しているのだろう、夫人は首だけをディーノに向け、艶かしい笑みを浮かべた。
ゆっくりと部屋の奥に向かって歩いていく夫人の背中を、ディーノは見惚れるように呆然と見送った。
寝台に辿りついた夫人はシーツをめくり、端に腰掛けた。胸元はさりげなくシーツで隠して。
ディーノは夫人から眸を逸らすことができなくなった。このまま留まれば、その先に何が起こるのかわかりきっていたが、それでも視線は夫人に向かったままで、微動だにしなかった。
「……せんせい……」
小さく呼ばれて、弾かれるように背筋を正した。
視線が交錯する。
夫人が声に出さずに何かを呟いた。
反射的にディーノは立ち上がっていた。アルコールで理性が麻痺し、本能が増幅された瞬間だった。
誘われるままに、ディーノは寝台に近づき、マルティナ夫人の真向かいに腰をかけた。
夫人の手が伸びてきて、ディーノの顔に触れた。卵を相手にしているかのように優しく撫でられる。
その手は柔らかくて、温かい。だけど、ときどき長い爪がわざとのように立てられた。
爪が皮膚をこするたびにディーノが軽く反応をしてしまうと、夫人が微かな声を上げて笑った。
その手が顔から離れた。
今度は服の上から上半身を触られた。撫で回すように触れられたあと、その手は服の内側に潜り込んできた。腹から上にゆっくりと移動する。胸に辿り着いたところで、
「あら、これは何かしら?」
夫人が呟いた。
ディーノははっとなった。酔いが一瞬にして醒めた。
慌てて立ち上がると、夫人の手が自然に離れた。
夫人が手に触れた物を、服の上から握り締める。
「これは、人から預かったとても大事な物なんです」
「先生」
夫人に手を取られ、どこかの部屋に雪崩れ込むようにして入った。
蜀台に灯された三本の小さな火のお陰で部屋はうっすらと明るい。奥にキングサイズの寝台が置かれていたがそこまで行きつけず、扉付近で倒れ込んだ。
無意味に笑い続けて疲れた。腹筋が痛い。
「飲みすぎちゃった……」
先に夫人がよろよろしながら上半身を起こし、床に腰を落ち着けた。頭が軽く揺れている。
ディーノはまだ寝そべったままでいた。絨毯が気持ちよかった。このまま眠ってしまいそうだった。
勧められるままに杯を重ねた。どれだけ呑んだのか全くわからないが、許容量はとっくに超えていた。頭は痛くないけれど、きっと明日は二日酔いだろうな。
気配を感じてディーノが瞼を開けると、目の前に夫人の顔があった。驚く感覚も麻痺したのか、笑ってしまった。笑いながらなんとか身を起こした。
「何、やってるんです?」
「苦しいから、後ろ解いてくださいな」
夫人がくるりと背中を向けた。服の紐が肩の下まで解けていた。手を伸ばしているものの、解けた紐には届いていない。
要求されるままにドレスの紐に手を伸ばした。しっかりと締められていた紐を解いてやり、できたよと告げると、「こっちもやって」と叱られた。
ドレスの下でより硬く締められているコルセットは、酔った手では簡単に解けてくれず、時間をかけながら少しずつ緩めていった。
全部が解けたとき、夫人の吐息が漏れた。ようやく解放されて、人心地ついたらしい。
「きついったらないわ」
文句を言いながらドレスの袖から腕を抜き、きつい下着もぬいだ。そして壁に手をついて立ちあがった。ついでのように腰にまとわりついていたドレスが、すとん落ちる。
蝋燭の炎に照らされ、裸体が浮かび上がる。
華奢な肩、下着の締めつけ具合がよくわかる跡がついた背中、きゅっと細い腰から丸みを帯びた尻のライン。まるでギターのようなシルエットだとディーノは思った。
見られていること意識しているのだろう、夫人は首だけをディーノに向け、艶かしい笑みを浮かべた。
ゆっくりと部屋の奥に向かって歩いていく夫人の背中を、ディーノは見惚れるように呆然と見送った。
寝台に辿りついた夫人はシーツをめくり、端に腰掛けた。胸元はさりげなくシーツで隠して。
ディーノは夫人から眸を逸らすことができなくなった。このまま留まれば、その先に何が起こるのかわかりきっていたが、それでも視線は夫人に向かったままで、微動だにしなかった。
「……せんせい……」
小さく呼ばれて、弾かれるように背筋を正した。
視線が交錯する。
夫人が声に出さずに何かを呟いた。
反射的にディーノは立ち上がっていた。アルコールで理性が麻痺し、本能が増幅された瞬間だった。
誘われるままに、ディーノは寝台に近づき、マルティナ夫人の真向かいに腰をかけた。
夫人の手が伸びてきて、ディーノの顔に触れた。卵を相手にしているかのように優しく撫でられる。
その手は柔らかくて、温かい。だけど、ときどき長い爪がわざとのように立てられた。
爪が皮膚をこするたびにディーノが軽く反応をしてしまうと、夫人が微かな声を上げて笑った。
その手が顔から離れた。
今度は服の上から上半身を触られた。撫で回すように触れられたあと、その手は服の内側に潜り込んできた。腹から上にゆっくりと移動する。胸に辿り着いたところで、
「あら、これは何かしら?」
夫人が呟いた。
ディーノははっとなった。酔いが一瞬にして醒めた。
慌てて立ち上がると、夫人の手が自然に離れた。
夫人が手に触れた物を、服の上から握り締める。
「これは、人から預かったとても大事な物なんです」
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