【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希

文字の大きさ
94 / 157
第二部

41 不安(イレーネ目線)

しおりを挟む
 イレーネはインゲンの筋を剥きながら、大きな溜め息をついた。

 ここの生活は毎日ほとんど代わり栄えはないけれど、そのことに不満は一切ない。

 養父母は優しくて、特にロゼッタは実母のように甘えさせてくれる。相談事にも乗ってくれるし、愚痴も聞いてくれる。ディーノのことだって、とても心配している。溜め息の原因はそのディーノのことだった。

 前回の手紙が届いたのは、もう三年近く前になる。

 最初の手紙には馬車での移動はお尻が痛くて大変なのに、先生はよく寝ている。お尻の皮が相当に厚い。ピエールさんは物知りで、新しい場所に行くといろいろと教えてくれる。御者のマウロさんは寡黙だけど、馬が大層好きらしく、馬からの信頼が篤い。など日常のことや、先生からたくさん曲を教えてもらっていること、演奏時の注意点を指摘されたことなどリュートのことがらどたどしい文章で綴られていた。

 次の手紙には、貴族たちを前にして演奏が出来たことが心情とともに書かれていた。

 三通目の手紙には、再び演奏旅行に出ていること。貴族相手の教師の仕事も入ってきている。貴族への対応は気を張るから疲れてしまう、といった愚痴も少し書いてあった。

 体調を崩していないだろうかと気になりながらも、居場所がわからないためイレーネから手紙を出すことができなくて、もどかしい気持ちで次の手紙を待っていた。

 なのに、なのに、ディーノときたら。もう私のことなんて忘れちゃってるのかしら。

 今度は不安な思いで胸が押しつぶされそうになった。

「ほらほら、手が止まってるよ」

 ロゼッタに注意され、イレーネは再びインゲンに向き合う。

「ねえ、お母さん。私から手紙を出す方法はないかしら?」

「ディーノにかい? 居場所がわからないんじゃあねえ。宛先のないものを受け付けてくれるわけがないからね」

「そうよね」

 わかっていたけれど、聞かずにはいられなかった。

「ディーノも忙しいんだろう。それに通商のない国には届かないし、長距離だと手紙がどこかで止まる可能性もあるらしいから。そのうちひょっこり届くだろうさ。気長に待っておやりよ」

「……うん」

 ロゼッタの云うことはもっともだった。

 だけど、このままディーノに忘れ去られて、お婆さんになってしまったらどうしよう。と心配になる。

 イレーネは十九歳になった。同じ歳頃の子たちは、縁付いたり仕事を見つけたりして、集落を出て近くの街に住んでいる。残っているのは歳下の子たちばかりだ。

 周囲が独り立ちしていくのを見ていると焦ってしまう。いつかは家庭を持ちたいと願っているし、子供だって欲しい。

 ここは居心地がとてもいいから、つい二人に甘えてしまっているけれど、このままじゃいけないこともわかっていた。

 いっそ街で仕事を探してみようか。住み込みで雇ってもらえるような仕事はないだろうか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...