105 / 157
第三部 最終話
6 ニルスに向けて
しおりを挟む
翌朝にはオーストンの王都に向け、再び馬車で揺られることとなった。
しかし旅の目的地は王都ではなく、その先の街ニルス。
師匠の古い知り合いが市井のための楽団を作ったので、ぜひ一度聴きに来て欲しいと、手紙をくれたのだ。
王宮に楽団はあるが、市井のためというのは聞いたことがなかった。
街に所属している音楽家はいる。時を知らせたり、街の行事に出演したり、有事の際に合図を出す役割がある。
教会に所属する音楽家もいるけれど、オルガン奏者のみだった。
おもしろそうだからと興味をもった師匠が、オーストンに行こうと決めたのだ。
とはいえ、隣国だからとすぐに行けるわけではない。すでに入っている仕事は当然優先され、道の確認や冬の時期は避けるなどの日程の調整を行い、ようやく出立できたときには、手紙をもらってから二年が経っていた。
パルディアから王都までは二日の道程。しかしニルスまでは王都から十日はかかるらしい。
一本道を進んでいくと、王都を囲んでいる城壁と並走するようになった。
オーストンの王都は山を切り開いて城を建てた天然の城塞らしい。王都に入るにはいろいろと手続きが面倒とのことなので、今回は興行もないからと素通りすることにした。
「この城壁は、お城のところまであるらしいよ」
ピエールが仕入た情報を耳にして、ディーノは幌から身を乗り出して遠くを見ようとした。城壁の終わりは見えなかったけれど、はるか向こうに階段のようになっている王城を眺めることができた。
道が分かれた先は王都の城門に向かっていて、旅人や幌馬車などで長蛇の列ができていた。警備兵がたくさんいて荷物の確認作業や人の整理で忙しそうにしていた。
彼らの姿が遠ざかったところで、ディーノは頭を戻した。
季節は初夏。顔を出しているほうが暖かくて気持ちが良いのだが、いざ雨が降ってきたときに幌がないと楽器が濡れてしまう。というわけで、幌は外せず、中は薄暗い。
師匠はいつものように鼾を掻きだし、今日は珍しくピエールまでもうとうとし始めた。暇だったディーノは、ポケットにしまったイレーネへの土産を取り出した。
帰郷できる可能性が高くなったので、郵便で出すのはやめにした。直接渡せるならそれが一番だから。
イレーネは喜んでくれるだろうか。
大人になったイレーネが想像できなくて、ディーノの頭の中で笑うイレーネは、子供の姿のままだった。
しかし旅の目的地は王都ではなく、その先の街ニルス。
師匠の古い知り合いが市井のための楽団を作ったので、ぜひ一度聴きに来て欲しいと、手紙をくれたのだ。
王宮に楽団はあるが、市井のためというのは聞いたことがなかった。
街に所属している音楽家はいる。時を知らせたり、街の行事に出演したり、有事の際に合図を出す役割がある。
教会に所属する音楽家もいるけれど、オルガン奏者のみだった。
おもしろそうだからと興味をもった師匠が、オーストンに行こうと決めたのだ。
とはいえ、隣国だからとすぐに行けるわけではない。すでに入っている仕事は当然優先され、道の確認や冬の時期は避けるなどの日程の調整を行い、ようやく出立できたときには、手紙をもらってから二年が経っていた。
パルディアから王都までは二日の道程。しかしニルスまでは王都から十日はかかるらしい。
一本道を進んでいくと、王都を囲んでいる城壁と並走するようになった。
オーストンの王都は山を切り開いて城を建てた天然の城塞らしい。王都に入るにはいろいろと手続きが面倒とのことなので、今回は興行もないからと素通りすることにした。
「この城壁は、お城のところまであるらしいよ」
ピエールが仕入た情報を耳にして、ディーノは幌から身を乗り出して遠くを見ようとした。城壁の終わりは見えなかったけれど、はるか向こうに階段のようになっている王城を眺めることができた。
道が分かれた先は王都の城門に向かっていて、旅人や幌馬車などで長蛇の列ができていた。警備兵がたくさんいて荷物の確認作業や人の整理で忙しそうにしていた。
彼らの姿が遠ざかったところで、ディーノは頭を戻した。
季節は初夏。顔を出しているほうが暖かくて気持ちが良いのだが、いざ雨が降ってきたときに幌がないと楽器が濡れてしまう。というわけで、幌は外せず、中は薄暗い。
師匠はいつものように鼾を掻きだし、今日は珍しくピエールまでもうとうとし始めた。暇だったディーノは、ポケットにしまったイレーネへの土産を取り出した。
帰郷できる可能性が高くなったので、郵便で出すのはやめにした。直接渡せるならそれが一番だから。
イレーネは喜んでくれるだろうか。
大人になったイレーネが想像できなくて、ディーノの頭の中で笑うイレーネは、子供の姿のままだった。
10
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
主人公は高みの見物していたい
ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。
※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます
※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる