【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希

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第三部 最終話

50 音楽家として

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 師匠に尋ねられたときから、ずっと考えていた。音楽家としてどうやって収入を得るのか。

 イレーネと所帯を持ちたくても、収入がないと生活に困窮する。けれど、リュート奏者であることを辞めるつもりはなかった。

 過酷な馬車の旅にイレーネを同行させるわけにはいかない。野宿なんてざらだし、夜盗に襲われる危険もある。
 宿に泊まれても、知らない旅人と大部屋で寝かされることもあるし、個室であっても不衛生な寝台だったら痒くて寝ていられず、床で横になったほうがましなことだってあるのだ。

 街から街へ放浪するのは気楽でいいかもしれないが、もっと過酷だろう。

 なら、残る道は街で雇ってもらうしかないが、そんな簡単に雇ってもらえはしないだろう。街がリュート奏者を必要としているかはわからないし。

 そこでディーノは、街に所属しなくても、ここで音楽家としての道を模索しようと考えた。
 リュート教師をしたり、旅人を相手に聴いてもらったり、ここのような食堂や風呂場ででも演奏ができるのなら、どこにでも行こうと。

 違和感をもっていた消費される音楽になってしまうのかもしれない。ならば、自分の演奏で人を呼べるように研鑽を積むしかない。
 
 収入は不安定でも、二人が食べていくくらいならなんとかなるのではないか。

 リュートもイレーネも、両方手に入れようなんて考え方は甘いのかもしれない。

 子供ができたらどうする。病気になったときは。

 そう追求されたら、答えられる自信はない。
 だけど、みんなそうなんじゃないかな、と思うのだ。

 まさかに備えていても予測不能の出来事なんてたくさん起こり得る。

 師匠のことも予測できなかった。
 この先ディーノもイレーネもどうなるかわからない。
 だが、未来を憂い過ぎていては、今したいことができないではないか。
 今の積み重ねの先に未来があるのはわかるけれど、だからといって今を未来のための犠牲にするのは嫌だった。

 今、イレーネと一緒にいたい。その気持ちを大切にしたかった。

 この八年、たくさん努力をしてきた。将来のために、未来のために、リュートをたくさん弾いた。音楽の勉強をした。字も礼儀作法も、難しいことをたくさん勉強した。

 音楽家としてまだまだ未熟かもしれない。勉強すべきことはたくさんあるのだろう。だけど、もうイレーネ抜きの未来なんて考えたくなかった。この先の成長に、人生に、イレーネが必要なのだ。
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