8 / 157
第一部
8 おしゃべり
しおりを挟む
朝と同じようにイレーネを呼ぶ。パンと葡萄を落とし、イレーネもうまく受け取ってくれたようだ。
「パンは固くて食べにくい思うけど、しばらく口の中に入れてると柔らかくなるから」
「うん」
レーヴェは壁際に腰を下ろした、顔だけ穴に向ける。
「今朝さ、夢見たんだ。イレーネも出てきたんだよ」
「私も?」
「うん。オレら賑やかな町に住んでるんだ。父さん母さんもいて、楽しかった。
あのさ、イレーネはここに来る前は、ずっと楽しい生活だったの?」
「そうね。楽しかった。いたずらして叱られたこともあったけど」
「イレーネがいたずら? 想像つかないや。何をしたの?」
「覚えてないわ。うんと小さいときのことだもの」
レーヴェが笑って云うと、イレーネの声が少し明るくなった。
「もし、この屋敷から出られたらさ。オレ、ワイン飲んでみたいんだ。倉庫にいっぱい樽があるだろ。あんなに重い物運ばされてんだから、飲んでみないと納得いかないよな。きっと相当うまいんだぜ、あれ。あ、あとリュート弾きたいな。絶対あいつよりうまく弾けると思うんだ」
あいつとは無論主人のことだ。主人がリュートを弾いている姿を見たことはないし、聴いたこともないから、ただのイメージだ。
それに対してのイレーネからの返答はなかった。
「イレーネはここから出られたら、何かしたいことある?」
レーヴェは気にせず語りかけた。
少し沈黙したあと、イレーネは、
「お墓、作りたいの」
聞き逃してしまいそうなほどにかすれた小さな声で、ぽつりと呟いた。
「お墓? 誰の?」
二年前、イレーネの両親は流行り病で亡くなった。病気の蔓延を抑えるため、遺体は定められた場所に集められ火葬された。骨は戻ってこなかった。
墓を作るときは遺体の代わりに故人が使用していたものを埋めることがある。イレーネもそうしたいのだと云った。
「お母さんが死んじゃうときに木彫りの人形を首にかけてくれたの。お父さんからもらった最初の贈り物なんだって。お父さんの手作りらしいの。これをお父さんとお母さんだと思って、って渡されて。肌身離さず持ってるの」
レーヴェはその木彫りの人形を見せてもらいたくなった。
そしてイレーネの願いを叶えさせてあげたいと強く思った。
「パンは固くて食べにくい思うけど、しばらく口の中に入れてると柔らかくなるから」
「うん」
レーヴェは壁際に腰を下ろした、顔だけ穴に向ける。
「今朝さ、夢見たんだ。イレーネも出てきたんだよ」
「私も?」
「うん。オレら賑やかな町に住んでるんだ。父さん母さんもいて、楽しかった。
あのさ、イレーネはここに来る前は、ずっと楽しい生活だったの?」
「そうね。楽しかった。いたずらして叱られたこともあったけど」
「イレーネがいたずら? 想像つかないや。何をしたの?」
「覚えてないわ。うんと小さいときのことだもの」
レーヴェが笑って云うと、イレーネの声が少し明るくなった。
「もし、この屋敷から出られたらさ。オレ、ワイン飲んでみたいんだ。倉庫にいっぱい樽があるだろ。あんなに重い物運ばされてんだから、飲んでみないと納得いかないよな。きっと相当うまいんだぜ、あれ。あ、あとリュート弾きたいな。絶対あいつよりうまく弾けると思うんだ」
あいつとは無論主人のことだ。主人がリュートを弾いている姿を見たことはないし、聴いたこともないから、ただのイメージだ。
それに対してのイレーネからの返答はなかった。
「イレーネはここから出られたら、何かしたいことある?」
レーヴェは気にせず語りかけた。
少し沈黙したあと、イレーネは、
「お墓、作りたいの」
聞き逃してしまいそうなほどにかすれた小さな声で、ぽつりと呟いた。
「お墓? 誰の?」
二年前、イレーネの両親は流行り病で亡くなった。病気の蔓延を抑えるため、遺体は定められた場所に集められ火葬された。骨は戻ってこなかった。
墓を作るときは遺体の代わりに故人が使用していたものを埋めることがある。イレーネもそうしたいのだと云った。
「お母さんが死んじゃうときに木彫りの人形を首にかけてくれたの。お父さんからもらった最初の贈り物なんだって。お父さんの手作りらしいの。これをお父さんとお母さんだと思って、って渡されて。肌身離さず持ってるの」
レーヴェはその木彫りの人形を見せてもらいたくなった。
そしてイレーネの願いを叶えさせてあげたいと強く思った。
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる