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第一部
49 家族への報告
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その夜、ロドヴィーゴは夕食の席で明後日ここを発つことと、ディーノを弟子にしたいと、夫妻に申し出た。
リノとロゼッタはとくに驚いた風もなく、しかし食事の手は止めて話を聞き始めた。
イレーネはパンを口に運ぼうとした状態で固まっていた。唖然とした表情で、穴があくほど正面にいるディーノの顔を見つめてくる。目が合ってしまったディーノは、後ろめたさから視線を逸らした。
ロドヴィーゴは昨夜の演奏の話から始めた。ディーノが弾くリュートだと思わず、驚きながら楽しんだと。
ディーノと同室の寝室で横になっていたリノは、プロの演奏についていくディーノの演奏に感心していたらしい。
ロゼッタとイレーネも隣合わせの寝台で演奏に聞き入っていたが、ディーノの演奏だと気づいていなかった。ロドヴィーゴとピエールかマウロが弾いているのかと思っていたようだ。壁を挟んでのディーノとの演奏だったことを明らかにされてロゼッタは目を円くした。
ディーノがそっとイレーネを盗み見ると、イレーネは怖い顔をしていた。話しを聞いているはずなのに、なんの反応もせずディーノを凝視している。みんなは話をしながら食事を再開しているのに、イレーネの手は食卓の下にあった。
ロドヴィーゴの話は今朝のことになった。初めて聴いた曲を一度で憶える耳の良さ、即興演奏の素晴らしさを褒め、ディーノから弟子入りを嘆願され、承諾したと告げた。
その先はディーノが引き継いだ。
リノとロゼッタのお陰で幸せを感じることができたこと。二人にはとても感謝していること。いつまでも世話になっているわけにはいかないと思い始めていたこと。ロドヴィーゴに会ってここ以外の世界に興味を持ち、叶うことならばプロのリュート奏者として身を立てたいこと。
リノとロゼッタも真摯な顔つきでディーノの話を聞いた後、リノが口を開いた。
「僕らとしてはここでずっと暮らしてくれても構わないんだよ。別に街で働かなくても自給自足で生活はできる。だけど、ディーノがリュートをとてつもなく愛していることはよく知っているし、昨夜の演奏を聴いて、ここだけのものにしておくのはもったいないかなとも思った。ちゃんとした人のもとで勉強をすれば、ぐんぐん成長するだろうともね。昨日の演奏は本当に素晴らしかったからね。だから、頑張れるところまでやってみるといい。僕らはずっとディーノの味方でいるよ。何かあったらいつでも帰っておいで。ここはもう、君の家でもあるんだから」
「ありがとう。ありがとう、リノ」
リノの優しい言葉にディーノのみならず、ロドヴィーゴとピエール、マウロも洟をすすったり、目頭を押さえたりした。
「あんたがいなくのは寂しいんだけどさ、あんたにはあんたの人生がある。あたしたちはひょんなことから一緒に暮らすことになったけど、ディーノとイレーネへのあたしたちの思いは本物の親子と変わらないと自負できるよ。たまには帰ってきて、顔を見せておくれ。泣きたくなったらいつでも帰ってきて泣いたらいい」
「うん……うん……あり、がとう」
ロゼッタからの言葉の途中で胸が熱くなり、溢れた涙が頬を伝っていくのをディーノは感じた。感謝の言葉を伝えたいのに、言葉にならない。代わりに何度も頷いた。
夫妻と出会って幸せを感じ、疑似ではあったが親子の情にも触れ、なにより他人を信じることができた。たった三年だが、濃密で尊い三年を過ごすことができた。
リノのお陰でリュート奏者と出会い、未来への道しるべができた。彼らと出会うことは運命だったのか、はたまた神のきまぐれだったのかはわからないが、ディーノは神という、いるのかいないのかわからない、呪ったことすらある存在に対して、生まれて初めて感謝した。
食卓が感動のるつぼとなっていたところ、突如、がたんという大きな音が響いた。
みんなが泣きながら顔を上げ、音をだした主を見やる。
イレーネが一人立ちあがっていた。わなわなと全身を震わし、非難するような目つきでディーノを睨みつけてくる。
と、さっと身を翻し、外へ飛び出して行った。
全員が黙ってイレーネを見送ったあと、ディーノも椅子を蹴倒し、彼女を追った。
リノとロゼッタはとくに驚いた風もなく、しかし食事の手は止めて話を聞き始めた。
イレーネはパンを口に運ぼうとした状態で固まっていた。唖然とした表情で、穴があくほど正面にいるディーノの顔を見つめてくる。目が合ってしまったディーノは、後ろめたさから視線を逸らした。
ロドヴィーゴは昨夜の演奏の話から始めた。ディーノが弾くリュートだと思わず、驚きながら楽しんだと。
ディーノと同室の寝室で横になっていたリノは、プロの演奏についていくディーノの演奏に感心していたらしい。
ロゼッタとイレーネも隣合わせの寝台で演奏に聞き入っていたが、ディーノの演奏だと気づいていなかった。ロドヴィーゴとピエールかマウロが弾いているのかと思っていたようだ。壁を挟んでのディーノとの演奏だったことを明らかにされてロゼッタは目を円くした。
ディーノがそっとイレーネを盗み見ると、イレーネは怖い顔をしていた。話しを聞いているはずなのに、なんの反応もせずディーノを凝視している。みんなは話をしながら食事を再開しているのに、イレーネの手は食卓の下にあった。
ロドヴィーゴの話は今朝のことになった。初めて聴いた曲を一度で憶える耳の良さ、即興演奏の素晴らしさを褒め、ディーノから弟子入りを嘆願され、承諾したと告げた。
その先はディーノが引き継いだ。
リノとロゼッタのお陰で幸せを感じることができたこと。二人にはとても感謝していること。いつまでも世話になっているわけにはいかないと思い始めていたこと。ロドヴィーゴに会ってここ以外の世界に興味を持ち、叶うことならばプロのリュート奏者として身を立てたいこと。
リノとロゼッタも真摯な顔つきでディーノの話を聞いた後、リノが口を開いた。
「僕らとしてはここでずっと暮らしてくれても構わないんだよ。別に街で働かなくても自給自足で生活はできる。だけど、ディーノがリュートをとてつもなく愛していることはよく知っているし、昨夜の演奏を聴いて、ここだけのものにしておくのはもったいないかなとも思った。ちゃんとした人のもとで勉強をすれば、ぐんぐん成長するだろうともね。昨日の演奏は本当に素晴らしかったからね。だから、頑張れるところまでやってみるといい。僕らはずっとディーノの味方でいるよ。何かあったらいつでも帰っておいで。ここはもう、君の家でもあるんだから」
「ありがとう。ありがとう、リノ」
リノの優しい言葉にディーノのみならず、ロドヴィーゴとピエール、マウロも洟をすすったり、目頭を押さえたりした。
「あんたがいなくのは寂しいんだけどさ、あんたにはあんたの人生がある。あたしたちはひょんなことから一緒に暮らすことになったけど、ディーノとイレーネへのあたしたちの思いは本物の親子と変わらないと自負できるよ。たまには帰ってきて、顔を見せておくれ。泣きたくなったらいつでも帰ってきて泣いたらいい」
「うん……うん……あり、がとう」
ロゼッタからの言葉の途中で胸が熱くなり、溢れた涙が頬を伝っていくのをディーノは感じた。感謝の言葉を伝えたいのに、言葉にならない。代わりに何度も頷いた。
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食卓が感動のるつぼとなっていたところ、突如、がたんという大きな音が響いた。
みんなが泣きながら顔を上げ、音をだした主を見やる。
イレーネが一人立ちあがっていた。わなわなと全身を震わし、非難するような目つきでディーノを睨みつけてくる。
と、さっと身を翻し、外へ飛び出して行った。
全員が黙ってイレーネを見送ったあと、ディーノも椅子を蹴倒し、彼女を追った。
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