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第一部
50 抱きしめて
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「待って、イレーネ」
森に飛び込んでいく背に声をかけながら、追いかける。
イレーネは止まる気配を全く見せない。
辺りはもう暗くなっている。今夜は曇っていて月の光は望めない。何の躊躇いもなく森に踏み込むイレーネに、ディーノの鳥肌が立った。
イレーネは相当怒っている。そして悲しんでもいるはずだ。ディーノが何の相談もなしにロドヴィーゴについて行くことを決めたから。イレーネは察しただろう、自分が置いていかれることを。
ディーノも彼女に云わなければいけないと思っていたが、どうにも云いづらく、ついつい後回しにしてしまった。彼女に対して申し訳ないことをしたと、今になって後悔した。
みんなに話す前に、先に伝えておかなければいけないことだった。例え怒られようと、泣かれようと。同じ内容でも他人から聞かされるのと、本人の口から聞かされるのでは受け取り方は違ったはずだ。
イレーネはどんどん森の奥へ行ってしまう。集落の近辺に獣が現われたことはないが、危険がないわけではない。冷静でないイレーネはそのことに気づいていない。早くイレーネを止めないと。
ディーノは足を早める。
「イレーネ!」
イレーネの足はまだ止まらないが、暗い中走りにくいのだろう、ようやくその背に追いついた。
腕を掴もうとするが、何度もすりぬける。
「イレーネ! 危ないから!」
ディーノの息が上がっている。
全力疾走しているイレーネにも、疲れがでてきたのだろう。「あっ」と小さく声をあげた。
目の前にいるイレーネの身体が傾いた。ディーノは両手を伸ばす。
イレーネの左腕に手が触れた。むんずと掴んで、力の限り引いた。
イレーネの身体が引き戻される。
引いた勢いのまま、ディーノは小さな身体を抱きしめた。
「離して! 離して……よ」
胸の中でイレーネは暴れたが、ディーノが放さないでいると、次第に落ち着いていった。
イレーネは泣いていた。ディーノの胸に顔を押しつけ、押し殺していた声が徐々に大きくなっていく。
ディーノは抱きしめる両腕に力をこめた。明後日出立すれば、今度いつ会えるのかわからない。だからありったけの想いを注いだ。そこに言葉はなかったが、今の二人に言葉は必要なかった。
森に飛び込んでいく背に声をかけながら、追いかける。
イレーネは止まる気配を全く見せない。
辺りはもう暗くなっている。今夜は曇っていて月の光は望めない。何の躊躇いもなく森に踏み込むイレーネに、ディーノの鳥肌が立った。
イレーネは相当怒っている。そして悲しんでもいるはずだ。ディーノが何の相談もなしにロドヴィーゴについて行くことを決めたから。イレーネは察しただろう、自分が置いていかれることを。
ディーノも彼女に云わなければいけないと思っていたが、どうにも云いづらく、ついつい後回しにしてしまった。彼女に対して申し訳ないことをしたと、今になって後悔した。
みんなに話す前に、先に伝えておかなければいけないことだった。例え怒られようと、泣かれようと。同じ内容でも他人から聞かされるのと、本人の口から聞かされるのでは受け取り方は違ったはずだ。
イレーネはどんどん森の奥へ行ってしまう。集落の近辺に獣が現われたことはないが、危険がないわけではない。冷静でないイレーネはそのことに気づいていない。早くイレーネを止めないと。
ディーノは足を早める。
「イレーネ!」
イレーネの足はまだ止まらないが、暗い中走りにくいのだろう、ようやくその背に追いついた。
腕を掴もうとするが、何度もすりぬける。
「イレーネ! 危ないから!」
ディーノの息が上がっている。
全力疾走しているイレーネにも、疲れがでてきたのだろう。「あっ」と小さく声をあげた。
目の前にいるイレーネの身体が傾いた。ディーノは両手を伸ばす。
イレーネの左腕に手が触れた。むんずと掴んで、力の限り引いた。
イレーネの身体が引き戻される。
引いた勢いのまま、ディーノは小さな身体を抱きしめた。
「離して! 離して……よ」
胸の中でイレーネは暴れたが、ディーノが放さないでいると、次第に落ち着いていった。
イレーネは泣いていた。ディーノの胸に顔を押しつけ、押し殺していた声が徐々に大きくなっていく。
ディーノは抱きしめる両腕に力をこめた。明後日出立すれば、今度いつ会えるのかわからない。だからありったけの想いを注いだ。そこに言葉はなかったが、今の二人に言葉は必要なかった。
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