【完結】二度目のお別れまであと・・・

衿乃 光希

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第二部 海野汐里

16 大好きな妹

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「まさか麻帆の体に入っちゃうなんてねえ」
 自宅に戻って、麻帆の部屋に入ろうか、私の部屋に入ろうか。
 まずそこで悩んだ。
 体に合わせるなら麻帆の部屋。だけど、私は汐里。
 
 いったん麻帆の部屋に入った。
 麻帆らしい、かわいいぬいぐるみがたくさん置いてある。ベッドにも、床にも、机の上にも。テーマパークのマスコットキャラ、デフォルメされた動物、流行のキャラクター。
 五センチほどの小さいサイズから、大きいのはクッションサイズまで。
 麻帆にねだられたらつい買い与えてしまい、処分を嫌がるのでどんどん増えた。

 正直、落ち着かない。
 私にはかわいい物を集める趣味はない。洋服は好きだけど、クローゼットにきちんと収納しておきたい。目に見える所は、すっきりさせておきたい。

 麻帆にごめんと謝り、隣の私の部屋に入った。
 やっぱり落ち着く。

 病院にいる間に、どうしたらいいのかなといろいろ考えた。
 私が麻帆の体に居座っていていいんだろうか。
 麻帆の精神が消えてしまうことはないんだろうか。
 私が消えれば、麻帆は戻ってこられるんだろうか。
 私が消えても、麻帆が起きなければ、この体はどうなってしまうんだろう。
 そして、私の存在に何かの制限はないのだろうか。

 考えても、何もわからなかった。それもそうだ。あり得ない不可思議な出来事に遭遇しているのだから。
 心療内科を受診したところで、明確な答えは得られないだろうし、下手をすれば病人扱いされかねない。

 私たちは病気ではない。
 私はおそらくイマジナリーではない。麻帆の知らない記憶もはっきりとある。

 ママから弟か妹のどちらかがお腹に宿ったと知らされた時の喜び。
 妹と判明してからの、期待と高揚感。
 3月上旬の予定日を、心を躍らせて待ち望んだ日々。
 予定日まで二週間を切った時、ママは入院した。へその緒が胎児に絡んでいて、予定日より早く出産した方がいいと判断されたらしかった。
 私の誕生日を翌日に控えての入院で、私にとっても自分の誕生日どころじゃなかった。

 ママの側にいたかった私は、父と祖父母宅には行かず、ママの病室で過ごした。
 私もその病院で生まれていて、2月21日の誕生を覚えていてくれた看護師さんたちが病室で祝ってくれたのを機に仲良くなった。

 24日、麻帆が誕生した。へその緒が首に巻きついていただけでなく、へその緒に結び目ができていたことが出産後にわかった。
 赤ちゃんへの血の流れが滞ることがあるらしく、お腹の中での発育が遅れたり、亡くなったりするケースもあると知った。
 麻帆のことを「すごく運の強い子ですよ」と担当看護師さんに言われたのが、印象に残った。

 私が看護師を志したのは、この時のことがきっかけだった。

 麻帆を取り上げてくれたのはお医者さんだけど、すぐ近くでママを支えてくれた看護師さんに、感謝と憧れの気持ちを抱いた。

 生まれた麻帆は小さくて、頼りなく儚い存在。それなのに大きな声で泣いて、生を主張してくる。
 ママの実家で、私は赤ちゃんのお世話を手伝った。まだ4歳だった私に出来ることはかなり限られたけれど、ママの負担にならないようにすることや、短い時間ならママの代わりに赤ちゃんを見守ることはできた。

 妹が愛おしすぎて、いつままでも眺めていられた。
 一生懸命にミルクを飲む姿、眠っている姿。泣く姿ですらかわいかった。

「私の推しは妹」と断言するほど、妹が大好き。
 自分の身に何があろうとも、全力で妹を守ると、自分に誓った。

 だから、私は後悔していなかった。妹を守って、自身が命を落としたことを。
 妹のせいだなんて思っていない。両親には申し訳ないとは思ったけれど。
 妹が助かって本当に良かったと、心から思っている。
 恨む気持ちなんて、数ミクロンもない。

 でも、妹が責任を感じ、心を痛めているとわかった時は、妹のために死んではいけなかったのだと悟った。
 他人を大切に思うなら、自分も大切にしないといけなかった。
 大切な存在を悲しませないために。
 そのことに、幽霊になってから気がついた。

 これ以上、悲しむ人を増やしてはいけない。
 両親に対しても、麻帆と関わりのある人たちに対しても。
 麻帆が目覚めるまで、この体は私が生かす。
 体を生かすために、麻帆として生きることを決意した。

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