【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗

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第5話 瞳に触れた瞬間(とき)

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会社の入り口には、すでに黒い車が静かに停まっていた。

後部座席のドアを開けて、社長が乗るのを待つ。

「隣に座って」
「あっ。僕は助手席で。」
「……隣」
「は…い。」

その声に逆らえず、僕はおとなしく後部座席の社長の隣に腰を下ろした。
社長の隣に座るなんて緊張するから、助手席が良かったのに。息が詰まりそうだ。
ドアが閉まり、車が静かに発進すると、運転席との間に黒くスモークのかかった仕切りガラスが、音もなくすっと降りてきた。

「えっ?」
予想外の密室感に驚いていると社長と目が合った。

――キィィィン。

また、だ。耳の奥を突き抜ける、あの高い音。思わず身をすくめる。

社長と目が合うと耳鳴りがする?
戸惑う僕に、社長は静かに手を伸ばし、僕の髪にそっと触れた。

触れられた瞬間、嘘のように耳鳴りが止んだ。

「やっぱり」
「あっ。あの……やっぱりって……」

戸惑いのまま社長を見返すと、唇が触れ合うほどの距離にまで迫っていた。

「ま、待って──」

「やめてほしいなら、目をそらせばいい。そらさないなら、受け入れたってことだから」

まるで試すような声。優しく、それでいて逃げ道を与えない言葉。

そして次の瞬間、唇が重なった。やわらかく、でも逃れられない。

「んっ……まっ……」

息がうまく吸えない。

何かを確かめるように、社長の指がまた僕の耳の後ろをなぞる。

(なに……これ……?逆らえない)

されるがままでいると、ふいに社長の唇が離れた。

「あ、の……今のって……」

問いかけようとしたとき、レイはいつもの無表情でつぶやいた。

「着いた。……降りよう」

先ほどまでの冷たいまなざしが、ほんのわずかに、柔らかくなったような気がした。

唇の温度が、まだ自分の中に残っている。
自然に受け入れてしまった自分に戸惑いを覚えながら、そっと自分の唇に指を当てた。

「お待ちしておりました」
お店に入ると、今までにないくらい丁寧な接客に慌ててしまった。まるで別世界に来たみたいだ。

「こっち」

社長に促されて、フィッティングルームへ。スタッフからスーツを手渡される。

「サイズが合ってるか確認して。そこで待ってるから、終わったら来て」

「……はい」

言われるがままにフィッティングルームでスーツに袖を通した。

(え……。どうして……?)

自分の体にぴったりフィットしているスーツに靴。
すべてのことが把握されているかのように、完璧に合っていた。

着替えを終えて社長のもとへ向かうと、視線がまっすぐ自分に注がれた。
その視線に戸惑い、どこを見ればいいのか分からなくなる。

「ん。似合ってる。首、きつくない?」

ネクタイを直されながら、低く優しい声で聞かれる。

「大丈夫です」
うつむきながら僕は答える。

「わかった。じゃ、行こう」
「え?えっ、このまま?」
「会社に戻る」
「あの……お会計は?」

その問いに返事はなく、僕は社長に手を引かれて、また車に乗り込んだ。

そして、車の中では行きと同じように、唇が重なった。
ただ、違うのは、それが甘く、深く、長く落ちてくるようなキスだった。
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