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第10話 距離と視線
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車内に沈黙が落ちていた。
社長は何も言わない。
僕も、言葉を飲み込んだままだった。
キョウカさんを裏切ってるかもしれないって思うと、胸が痛む。
こんな関係、もう辞めなきゃ。……そう思った。
だから僕は、眠ったふりをした。
社長の指が近づく気配に、そっと身を引いた。
もう、キスなんてされたくなかった。
会社が近づくにつれて、重い気持ちもだんだんと強くなっていった。
このバングルのことアキトさんに、聞かなきゃ。そう思った。
車が会社に到着し、重い気持ちを引きずったまま、僕は社長の後ろを歩いていた。
そのとき。
「アオ!!」
明るい声が、背後から響いた。
振り返った瞬間、勢いよく抱き締められた。
「リョク……!」
僕より10センチ以上背が高い弟が、変わらない甘えた笑顔で腕を回してくる。
僕は反射的に、彼の頭を撫でていた。
「……急にどうしたの? 何かあった?」
「え?明日……」
「あ……そっか。明日か」
言葉の奥に、ふと影が差す。
明日は、両親の命日。
「もうすぐ仕事終わるから、向かいのカフェで待っててくれる?」
「うん。待ってる。今日のごはん、なに?」
「何が食べたい?」
「オムライス!」
「じゃあ、材料も一緒に買いに行こうか」
「やったー!じゃ、早く来てね?お腹ペコペコだから!」
「わかった。急ぐよ」
笑って見送って、ふっと我に返る。
リョクを見送ったあと、我に返るように社長へ向き直った。
社長は、僕をじっと見ていた。その表情は、読めなかった。
「誰?」
「あっ……お……」
(しまった。データベース、リョクの年齢、書き換えてた)
「……友達です」
「……仲いいんだね」
「はい。……あ、エレベーター来ました!」
社長の視線から逃げるように、僕は一歩早くエレベーターに乗り込んだ。
社長室に戻ると、社長の空気が少しピリついていることにすぐにアキトさんは気づいた。
そっと僕に声をかける。
「アオくん、なにかあった?」
「えっと……よくわかりません。ぼ…僕、友達待たせてるので、今日は定時で帰ってもいいですか?」
「わかった。気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます!」
ぺこりと一礼して、社長室のドアを開けた。
社長は静かにPCの画面を見つめていた。その横顔から、機嫌が悪いのは伝わってきた。
でも――
今日は、リョクが待ってる。それに、明日は、両親の眠っている場所を訪れる日。
「すみません。今日はこれで失礼します」
彼の顔を見るのが少しだけ怖くて、目を合わせずに頭を下げた。
社長室を出て、アキトさんに軽く会釈して、会社を飛び出す。
「お待たせ!」
「アオっ、行こ!」
リョクは、いつもと同じ笑顔で僕の腕に絡んできた。
「ほんと、甘えんぼだな」
そう言いながら、僕は彼の歩調に合わせて歩き出す。
そのとき。上階の窓――
社長室の一角から、社長の視線がこちらを追っていたことを、僕は知らなかった。
そして、リョクがその窓に気づいて、何かを読み取っていたことも。
彼は、ただ無言のまま、冷たい目で、僕たちの距離を見つめていた。
社長は何も言わない。
僕も、言葉を飲み込んだままだった。
キョウカさんを裏切ってるかもしれないって思うと、胸が痛む。
こんな関係、もう辞めなきゃ。……そう思った。
だから僕は、眠ったふりをした。
社長の指が近づく気配に、そっと身を引いた。
もう、キスなんてされたくなかった。
会社が近づくにつれて、重い気持ちもだんだんと強くなっていった。
このバングルのことアキトさんに、聞かなきゃ。そう思った。
車が会社に到着し、重い気持ちを引きずったまま、僕は社長の後ろを歩いていた。
そのとき。
「アオ!!」
明るい声が、背後から響いた。
振り返った瞬間、勢いよく抱き締められた。
「リョク……!」
僕より10センチ以上背が高い弟が、変わらない甘えた笑顔で腕を回してくる。
僕は反射的に、彼の頭を撫でていた。
「……急にどうしたの? 何かあった?」
「え?明日……」
「あ……そっか。明日か」
言葉の奥に、ふと影が差す。
明日は、両親の命日。
「もうすぐ仕事終わるから、向かいのカフェで待っててくれる?」
「うん。待ってる。今日のごはん、なに?」
「何が食べたい?」
「オムライス!」
「じゃあ、材料も一緒に買いに行こうか」
「やったー!じゃ、早く来てね?お腹ペコペコだから!」
「わかった。急ぐよ」
笑って見送って、ふっと我に返る。
リョクを見送ったあと、我に返るように社長へ向き直った。
社長は、僕をじっと見ていた。その表情は、読めなかった。
「誰?」
「あっ……お……」
(しまった。データベース、リョクの年齢、書き換えてた)
「……友達です」
「……仲いいんだね」
「はい。……あ、エレベーター来ました!」
社長の視線から逃げるように、僕は一歩早くエレベーターに乗り込んだ。
社長室に戻ると、社長の空気が少しピリついていることにすぐにアキトさんは気づいた。
そっと僕に声をかける。
「アオくん、なにかあった?」
「えっと……よくわかりません。ぼ…僕、友達待たせてるので、今日は定時で帰ってもいいですか?」
「わかった。気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます!」
ぺこりと一礼して、社長室のドアを開けた。
社長は静かにPCの画面を見つめていた。その横顔から、機嫌が悪いのは伝わってきた。
でも――
今日は、リョクが待ってる。それに、明日は、両親の眠っている場所を訪れる日。
「すみません。今日はこれで失礼します」
彼の顔を見るのが少しだけ怖くて、目を合わせずに頭を下げた。
社長室を出て、アキトさんに軽く会釈して、会社を飛び出す。
「お待たせ!」
「アオっ、行こ!」
リョクは、いつもと同じ笑顔で僕の腕に絡んできた。
「ほんと、甘えんぼだな」
そう言いながら、僕は彼の歩調に合わせて歩き出す。
そのとき。上階の窓――
社長室の一角から、社長の視線がこちらを追っていたことを、僕は知らなかった。
そして、リョクがその窓に気づいて、何かを読み取っていたことも。
彼は、ただ無言のまま、冷たい目で、僕たちの距離を見つめていた。
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