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第12話 契約
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「やめ……っ」
か細い声しか出せなかった。
「話す。ちゃんと話します」
「あの男は誰?」
社長の鋭い声が響く。
「弟……」
「だからデータを書き換えに?」
ピタリと動きが止まる。
「もとに……戻そうと思って」
「バレないと思ったの?」
「リ……リスクはあったけど、自信もあったから」
「最初に入った理由は?」
「僕のデータを変えたかった」
「ムルの?」
「弟と離れたくなくて……書き換えました……」
「で、2回目が弟の年齢を書き換えたんだ? 犯罪ってわかってる?」
僕はコクコクとうなずくだけだった。
もう終わった……と僕は思ったけれど
社長は、一息ついてから
「条件を飲めば見逃してあげるよ」
と言った。
「じょ……う……けん?」
「俺が求めた時は拒否をしない。手当も出すよ。弟君の学費貯めるんでしょ? なるべく早く俺の家に引っ越す。そして2人でいる時は俺のこと『レイ』って呼ぶ。できる?」
できるかどうかじゃなくて、もうその条件を飲むしか道がないことはわかりきっていた。
だから、僕は、うなずくだけしかできなかった。
「呼んでみて」
「レ……イ」
「もう1回」
「レイ」
「もう1回」
「レイ」
「ん、よくできました」
おでこに軽く触れられた。
先ほどの恐怖はなく、優しい感触だったけれど、ルガルの力を使われた僕はそのまま気を失ってしまった。
ベッドで目を覚ましたときには、外はすっかり暗くなっていた。頭痛が治まらない。
さっきの出来事が夢ではなかったことを思い出させる。
レイは、僕が「ムル」であることも、社内データベースに侵入したことも、すべて知っていた。
ゆっくり体を起こして室内を見渡す。
ここは社長室の奥。暮らせるように整えられた部屋だ。
ベッドルームを出て、リビングや奥のワークスペースを確認する。
レイは机に座り、無言で作業をしていた。
前髪を下ろし、リムレスの眼鏡をかけたその姿は、どこか幼くも見える。
でも横顔はやはり美しかった。
「……社長?」
おずおずと呼びかける。
「起きた?」
「……はい」
「大丈夫?」
「……はい」
言葉にできるのはそれだけだった。
「今日、リョクと約束していて……心配してると思うので帰ります」
「わかった。その前に――弟君のデータ、書き換えるから来て」
言われるまま近づくと、手を引っ張られ社長の膝の上に座ることになってしまった。
心臓の鼓動は跳ね上がるが、社長の表情は穏やかだ。
「もう隠し事はない?」
こくりと頷くと、彼は一呼吸置いて言った。
「明日、弟君を会社に連れてきて」
「え? どうして……?」
「心配してると思うから、ちゃんと話したほうがいい」
優しい声に、僕は何も言い返せなかった。
「あと、条件はすべて飲むって、忘れないで。契約書、ちゃんと作るから」
「……はい」
「契約」という言葉に胸が少し痛む。これは、取り引き。はっきりした関係なのに、心はざわつく。
「……じゃ、一度帰ります」
「送っていく」
「だい……」
断ろうとした瞬間、「要求はすべて飲む」という言葉を思い出し――
「……お願いします」
と小さく答えた。
スマホにはリョクからのメッセージが届いていた。
《遅いけど大丈夫? 心配してる》
《ごめん、今から帰るね》
車に乗って自宅前まで送ってもらう。
玄関先にリョクの姿を見つけ、ほっと胸をなでおろす。
「遅くなってごめんね」
「ううん、それより……大丈夫?」
「……うん」
契約のことは――まだ言えなかった。
「そうだ、社長が明日会社においでって。リョクも一緒に」
「え……わかった」
一瞬間が空いたけれど、顔を覗き込むと、いつもの笑顔が戻っていた。
その笑顔に、僕はほっと胸をなでおろした。
か細い声しか出せなかった。
「話す。ちゃんと話します」
「あの男は誰?」
社長の鋭い声が響く。
「弟……」
「だからデータを書き換えに?」
ピタリと動きが止まる。
「もとに……戻そうと思って」
「バレないと思ったの?」
「リ……リスクはあったけど、自信もあったから」
「最初に入った理由は?」
「僕のデータを変えたかった」
「ムルの?」
「弟と離れたくなくて……書き換えました……」
「で、2回目が弟の年齢を書き換えたんだ? 犯罪ってわかってる?」
僕はコクコクとうなずくだけだった。
もう終わった……と僕は思ったけれど
社長は、一息ついてから
「条件を飲めば見逃してあげるよ」
と言った。
「じょ……う……けん?」
「俺が求めた時は拒否をしない。手当も出すよ。弟君の学費貯めるんでしょ? なるべく早く俺の家に引っ越す。そして2人でいる時は俺のこと『レイ』って呼ぶ。できる?」
できるかどうかじゃなくて、もうその条件を飲むしか道がないことはわかりきっていた。
だから、僕は、うなずくだけしかできなかった。
「呼んでみて」
「レ……イ」
「もう1回」
「レイ」
「もう1回」
「レイ」
「ん、よくできました」
おでこに軽く触れられた。
先ほどの恐怖はなく、優しい感触だったけれど、ルガルの力を使われた僕はそのまま気を失ってしまった。
ベッドで目を覚ましたときには、外はすっかり暗くなっていた。頭痛が治まらない。
さっきの出来事が夢ではなかったことを思い出させる。
レイは、僕が「ムル」であることも、社内データベースに侵入したことも、すべて知っていた。
ゆっくり体を起こして室内を見渡す。
ここは社長室の奥。暮らせるように整えられた部屋だ。
ベッドルームを出て、リビングや奥のワークスペースを確認する。
レイは机に座り、無言で作業をしていた。
前髪を下ろし、リムレスの眼鏡をかけたその姿は、どこか幼くも見える。
でも横顔はやはり美しかった。
「……社長?」
おずおずと呼びかける。
「起きた?」
「……はい」
「大丈夫?」
「……はい」
言葉にできるのはそれだけだった。
「今日、リョクと約束していて……心配してると思うので帰ります」
「わかった。その前に――弟君のデータ、書き換えるから来て」
言われるまま近づくと、手を引っ張られ社長の膝の上に座ることになってしまった。
心臓の鼓動は跳ね上がるが、社長の表情は穏やかだ。
「もう隠し事はない?」
こくりと頷くと、彼は一呼吸置いて言った。
「明日、弟君を会社に連れてきて」
「え? どうして……?」
「心配してると思うから、ちゃんと話したほうがいい」
優しい声に、僕は何も言い返せなかった。
「あと、条件はすべて飲むって、忘れないで。契約書、ちゃんと作るから」
「……はい」
「契約」という言葉に胸が少し痛む。これは、取り引き。はっきりした関係なのに、心はざわつく。
「……じゃ、一度帰ります」
「送っていく」
「だい……」
断ろうとした瞬間、「要求はすべて飲む」という言葉を思い出し――
「……お願いします」
と小さく答えた。
スマホにはリョクからのメッセージが届いていた。
《遅いけど大丈夫? 心配してる》
《ごめん、今から帰るね》
車に乗って自宅前まで送ってもらう。
玄関先にリョクの姿を見つけ、ほっと胸をなでおろす。
「遅くなってごめんね」
「ううん、それより……大丈夫?」
「……うん」
契約のことは――まだ言えなかった。
「そうだ、社長が明日会社においでって。リョクも一緒に」
「え……わかった」
一瞬間が空いたけれど、顔を覗き込むと、いつもの笑顔が戻っていた。
その笑顔に、僕はほっと胸をなでおろした。
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