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第13話 弟の能力
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次の日。
リョクを連れて社長室に向かうと、すでにアキトさんとキョウカさんが来ていた。
「おはよう。レイは向こうにいるよ。……リョクくんはここで待っててね。手続きが済むまでは入れないから」
「リョク、少しだけここで待ってて」
「うん。わかった」
アキトさんの穏やかな表情に、昨日のことを知られていないと気づいて、少しだけ胸をなで下ろす。
僕は深く息を吸って、社長室のドアをノックした。
「おはようございます」
僕がスーツに着替えるために部屋に入ったことを確認したレイは、無言でリョクのもとに行った。
*---------------
──カチャ。
ドアが開いた音とともに、リョクの目がレイを捉える。
「アオのこと、まだ『番』にはできてないんだね」
どこか呆れたような、挑発を含んだ声でリョクはレイに向かって言った。
「リョクくん、何を知ってるの?」
アキトが柔らかな声で問いかける。
「それはヒミツ。でも……紋章、まだ不安定だったし」
笑みを浮かべたまま、リョクは一歩、アキトに近づいた。
その瞬間、アキトの表情が一変する。
「っ……」
片耳を抑えて、苦しそうに眉をしかめた。
「アキトに、何をしたの!」
キョウカが即座に間に入り、リョクを強く睨む。
「大丈夫。ちょっと耳鳴りがしただけだから」
アキトが優しく言う。
「どういう意味よ?」
キョウカの語気が鋭くなる。
何も言わないリョクに向かって、
「君が『ルガル』ってこと、アオは知ってるのか?」
レイが静かに問いかける。
空気がピンと張り詰める。
「へぇ、気づいてたんだ。さすが。でもアオには言ってないよ。心配させたくないし、僕のこと守ってくれるアオがかわいいんだよね~」
リョクが笑って肩をすくめる。
「ムルだけじゃなく、ルガルにも効いているようだな」
レイの言葉に、リョクは少し驚いて言う。
「そこまでわかるんだ。ん~。どこまでできるかは試したことないんだ。でもムルのほうが、操作しやすい」
「それって……」
キョウカが言いかけたのを遮るように、リョクが続ける。
「基本、力は使わないようにしてるんだ。アオにバレたら困るし。……でも」
声が少しだけ低くなる。
「アオを傷つけるやつは、絶対に許さない」
その一言に、レイの目が細められる。
「……つまり、君がいたからアオは守られてきた」
「そうだよ。僕がアオを守ってた。アオはルガルもムルからも無条件に狙われる。攻撃っていうよりは好意的な意味合いも含めてね」
「なら、感謝しないといけないな」
「アオに選んでもらえる自信あるんだ。アオが選んだ相手なら俺は反対しないよ。でも、きっとまだ俺の方を優先してくれるよ。」
リョクは小さく笑って、突然、手にしていたカップを傾け、自分の服に、わざとコーヒーをこぼした。
「わっ!」
社長室のドアが開き、アオが慌てて飛び出してくる。
「リョク!? 大丈夫!?」
「手が滑っちゃった……ごめん」
「やけどは? 熱くなかった?」
「ううん、ちょっと濡れただけ。服が汚れちゃった」
大型犬がくぅんと反省するようにアオに助けを求めるリョク。
「僕のシャツ、貸すよ」
「ううん、大丈夫。僕、このまま寮に戻るよ。着替えたいし」
「……そう? じゃあ、下まで送るね」
「すみません。弟を送ってきます」
アオが頭を下げると、何かを思い出したかのようにリョクがポケットから小さな箱を取り出した。
「そうだ。昨日渡せなかったやつ。入浴剤、また作ったから」
「いつもの?」
「うん」
そしてもう一つの小箱を、リョクはキョウカに手渡した。
「……え?」
驚いたキョウカに、リョクはそっと囁く。
「……今日のお詫び。楽しんで」
アオの腰に腕を回し、彼の笑顔に寄り添いながら、背後の三人に向かって、リョクは静かに不敵な笑みを浮かべた。アオだけが、それに気づいていない。
「もっと欲しかったら、また作るから」
「うん。ありがとう」
「じゃあ、お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします」
そう言って、2人は部屋を出ていった。
キョウカが唇を噛みながら、ぽつりと漏らす。
「アオくん、あの子の本性、知らないんだよね……」
「でも、リョクくんも悪い子って感じはしなかったけど」
「あんなことされたのに許すの?」
アキトのやわらかい声にキョウカが怒る。
「ただ、アオを守ってたってことは、本当だと思う」
レイの冷静な声が落ちる。
リョクがルガルであることは、レイの中でも予想通りだった。
ただ、その能力の本質は、厄介なものだと、改めて確信した。
*---------------
後日。
「リョク君にコレ渡しておいてくれる?」
キョウカさんからリョクへのプレゼントを渡された。
高級ブランドの時計だ。
「えっ。こんな高価なものは……」
「あっ。いいの。いいの。入浴剤のお礼だから」
「早速使ってくれたんですね! どうでした?」
「すごくよかった。今度は買い取るから多めに作ってって伝えてくれる?」
「ホントですか? わぁ。リョクすごく喜ぶと思います!」
「僕、リョクと一緒によく使うんですけど、アキトさんは社長と使いますか? もし使うなら僕リョクに伝えます!」
ゴホゴホっ。
「リョクくんと使ってるの?」
飲んでいたコーヒーでむせながらアキトさんが確認してきた。
「え? はい。でも今回のはいつもと色が違うんですけど」
何を言われてるかわからなくてきょとんとしてしまった。
「あっ……そういう。レイが最近疲れているみたいだからレイに渡して欲しいかな」
「わかりました!」
「レイに渡したらすごいお礼が貰えるかもよ」
キョウカの何か含んだ言い方に少し不思議な感じがした。
リョクを連れて社長室に向かうと、すでにアキトさんとキョウカさんが来ていた。
「おはよう。レイは向こうにいるよ。……リョクくんはここで待っててね。手続きが済むまでは入れないから」
「リョク、少しだけここで待ってて」
「うん。わかった」
アキトさんの穏やかな表情に、昨日のことを知られていないと気づいて、少しだけ胸をなで下ろす。
僕は深く息を吸って、社長室のドアをノックした。
「おはようございます」
僕がスーツに着替えるために部屋に入ったことを確認したレイは、無言でリョクのもとに行った。
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──カチャ。
ドアが開いた音とともに、リョクの目がレイを捉える。
「アオのこと、まだ『番』にはできてないんだね」
どこか呆れたような、挑発を含んだ声でリョクはレイに向かって言った。
「リョクくん、何を知ってるの?」
アキトが柔らかな声で問いかける。
「それはヒミツ。でも……紋章、まだ不安定だったし」
笑みを浮かべたまま、リョクは一歩、アキトに近づいた。
その瞬間、アキトの表情が一変する。
「っ……」
片耳を抑えて、苦しそうに眉をしかめた。
「アキトに、何をしたの!」
キョウカが即座に間に入り、リョクを強く睨む。
「大丈夫。ちょっと耳鳴りがしただけだから」
アキトが優しく言う。
「どういう意味よ?」
キョウカの語気が鋭くなる。
何も言わないリョクに向かって、
「君が『ルガル』ってこと、アオは知ってるのか?」
レイが静かに問いかける。
空気がピンと張り詰める。
「へぇ、気づいてたんだ。さすが。でもアオには言ってないよ。心配させたくないし、僕のこと守ってくれるアオがかわいいんだよね~」
リョクが笑って肩をすくめる。
「ムルだけじゃなく、ルガルにも効いているようだな」
レイの言葉に、リョクは少し驚いて言う。
「そこまでわかるんだ。ん~。どこまでできるかは試したことないんだ。でもムルのほうが、操作しやすい」
「それって……」
キョウカが言いかけたのを遮るように、リョクが続ける。
「基本、力は使わないようにしてるんだ。アオにバレたら困るし。……でも」
声が少しだけ低くなる。
「アオを傷つけるやつは、絶対に許さない」
その一言に、レイの目が細められる。
「……つまり、君がいたからアオは守られてきた」
「そうだよ。僕がアオを守ってた。アオはルガルもムルからも無条件に狙われる。攻撃っていうよりは好意的な意味合いも含めてね」
「なら、感謝しないといけないな」
「アオに選んでもらえる自信あるんだ。アオが選んだ相手なら俺は反対しないよ。でも、きっとまだ俺の方を優先してくれるよ。」
リョクは小さく笑って、突然、手にしていたカップを傾け、自分の服に、わざとコーヒーをこぼした。
「わっ!」
社長室のドアが開き、アオが慌てて飛び出してくる。
「リョク!? 大丈夫!?」
「手が滑っちゃった……ごめん」
「やけどは? 熱くなかった?」
「ううん、ちょっと濡れただけ。服が汚れちゃった」
大型犬がくぅんと反省するようにアオに助けを求めるリョク。
「僕のシャツ、貸すよ」
「ううん、大丈夫。僕、このまま寮に戻るよ。着替えたいし」
「……そう? じゃあ、下まで送るね」
「すみません。弟を送ってきます」
アオが頭を下げると、何かを思い出したかのようにリョクがポケットから小さな箱を取り出した。
「そうだ。昨日渡せなかったやつ。入浴剤、また作ったから」
「いつもの?」
「うん」
そしてもう一つの小箱を、リョクはキョウカに手渡した。
「……え?」
驚いたキョウカに、リョクはそっと囁く。
「……今日のお詫び。楽しんで」
アオの腰に腕を回し、彼の笑顔に寄り添いながら、背後の三人に向かって、リョクは静かに不敵な笑みを浮かべた。アオだけが、それに気づいていない。
「もっと欲しかったら、また作るから」
「うん。ありがとう」
「じゃあ、お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします」
そう言って、2人は部屋を出ていった。
キョウカが唇を噛みながら、ぽつりと漏らす。
「アオくん、あの子の本性、知らないんだよね……」
「でも、リョクくんも悪い子って感じはしなかったけど」
「あんなことされたのに許すの?」
アキトのやわらかい声にキョウカが怒る。
「ただ、アオを守ってたってことは、本当だと思う」
レイの冷静な声が落ちる。
リョクがルガルであることは、レイの中でも予想通りだった。
ただ、その能力の本質は、厄介なものだと、改めて確信した。
*---------------
後日。
「リョク君にコレ渡しておいてくれる?」
キョウカさんからリョクへのプレゼントを渡された。
高級ブランドの時計だ。
「えっ。こんな高価なものは……」
「あっ。いいの。いいの。入浴剤のお礼だから」
「早速使ってくれたんですね! どうでした?」
「すごくよかった。今度は買い取るから多めに作ってって伝えてくれる?」
「ホントですか? わぁ。リョクすごく喜ぶと思います!」
「僕、リョクと一緒によく使うんですけど、アキトさんは社長と使いますか? もし使うなら僕リョクに伝えます!」
ゴホゴホっ。
「リョクくんと使ってるの?」
飲んでいたコーヒーでむせながらアキトさんが確認してきた。
「え? はい。でも今回のはいつもと色が違うんですけど」
何を言われてるかわからなくてきょとんとしてしまった。
「あっ……そういう。レイが最近疲れているみたいだからレイに渡して欲しいかな」
「わかりました!」
「レイに渡したらすごいお礼が貰えるかもよ」
キョウカの何か含んだ言い方に少し不思議な感じがした。
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