【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗

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第37話 癒しのひととき

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アオと手をつないだまま、どこまでも続く花畑を歩くレイ。赤、紫、白、そして淡い橙——それぞれが太陽の光を受けて、宝石のように輝いていた。

こんなふうに、時間の流れを忘れて歩くのは初めてかもしれない。アオの表情が穏やかで、肩の力が抜けているのが嬉しい。定期的に、こうして旅に連れ出さなくては——そうレイは自然に思えていた。

歩きながら、アオは幼い頃の思い出を語った。両親を亡くしてから、この花農園でタクミに支えられてきたこと。辛いときも悲しいときも、そっと寄り添ってくれた人がいたこと。優しい空気と人々に囲まれて育ったから、今の素直なアオがあるのだと、レイは静かに実感する。

「レイをここに連れて来られてよかった~」無邪気な笑顔でそう言うアオを、思わず抱きしめた。

「もう……誰かに見られるよ」
「かまわないだろ?」
「でも……」

その「でも」の奥にある照れくささも愛しくて、この時間が永遠に続けばいいと願ってしまう。

夕方、花畑の色が少しずつ黄金色に染まりはじめた頃、二人はタクミたちのもとに戻った。

「リョクはもう少し研究棟にいるみたいなんだ。夕飯の準備をしようと思うんだけどいいかな?」
「タクミさん、僕も手伝うよ」
「ありがとう、アオ。じゃあダイチ、一緒に」
「うん、わかった!……って、あれ? カナメさん遅くない?」
「ほんとだ、遠くに行ったのかな」

アオが心配そうにあたりを見回すと、黒い影がゆっくり近づいてきた。

「た……ただいま」
「え!? カナメさん泥だらけ……あっ! シエル!」

アオはカナメのそばにいた大型犬——狼の血を75%以上受け継いでいるハイパーセントウルフドッグのシエルに駆け寄り、頭を撫でる。

「シエル、元気だった? よしよし……うわっ」

嬉しそうに飛びついたシエルに押され、アオは草の上に倒れこむ。じゃれ合う姿は微笑ましいが、傍から見れば襲われているようにも見える。

「ふふっ……僕も会いたかったよ、かわいいな」

「ごめんなさい、その泥だらけって……うちのシエルのせいですよね」タクミが申し訳なさそうに言うと、カナメは首を横に振った。

「いや……飛びつかれたときに俺が油断しただけだ。その後は、ずっとここを案内してくれてた」
「へぇ……シエルが? 初対面の人にそんなになつくなんて珍しいのに」ダイチが首をかしげる。

「とりあえず僕たちとシャワールームに行きましょう。着替えも渡します。服は明日までにきれいにしておきますね」そう言ってタクミがカナメを案内しようとする。

この農園には、多くの人が出入りするため、複数人が同時に使えるシャワールームが備えられていた。

「あっ……僕も行く!」泥だらけになったアオがついて行こうとした瞬間、レイはその腕をそっと引き寄せ、耳元で低く囁く。

「痕が……まだ残ってる」

その言葉にアオははっとして、少し頬を赤らめる。「……僕はやっぱり、シエルと遊んでる」

カナメはシエルの頭を撫でながら、静かに言った。「お前はシエルって名前だったんだな。今日はありがとう」

その声も、その柔らかな表情も、一瞬、場の空気を変えてしまうほど美しく妖艶だった。見ていた誰もが、息を呑んだ。
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