【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗

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第44話 甘い朝と新たな影

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「アオ」

低く優しい声で名前を呼ばれ、まぶたがふわりと開く。

目の前にはレイの腕。少し力の入ったその腕にしっかりと抱きしめられながら、僕はベッドの中で目を覚ました。

農園から帰ってきてから、レイは以前にも増して甘くなった。

少しくすぐったくなるくらいの、甘い雰囲気。

胸に触れてみると、固く引き締まった筋肉が手のひらに伝わってくる。

「……アオ、誘ってる?」
「えっ」
「誘ってないよ。平日の朝はダメって言ったでしょ?」

「でも、まだ時間はあるよ?」

耳の奥に落ちる優しい声。僕だけにしか見せない、甘えているレイ。僕は、この姿にとても弱い。

唇が重なり、深く甘いキスが落ちてくる。

Rrrrrrr
レイのスマホが小さく震えだした。

「レ、イ。スマホ鳴ってるよ」
それでもレイは全く気に留めず、僕の髪にキスを落とす。

「だめっ。もう! じっとしててね。僕、出るから」
スマホを取ってみると、表示された名前は《アキト》。

「もしもし、アキトさんっ」
『あっ、アオくん? レイは起きてるかな?』

「レ、レイ! アキトさんだからっ!」
必死で声を押し殺す。

『アオくん?』
「あっ。す、すみませ……ッ」

と言ったところでレイがスマホを奪い、「後で」と一方的に電話を切った。

「アオって、俺よりアキトとの電話のほうが大事なんだ?」
耳元で囁かれる声は、少し拗ねたようで。

「そ、そんなわけないでしょ。でも大事な用事かもしれないしっ」
「アオより大切なものなんてない」
そう呟いて、レイは僕の額にキスをした。

*---------------

あの甘い声でのお願いに弱い自分が憎い。許してしまった自分が憎い。気怠い体は思うように動かない。

すべてをレイに委ねる。そして委ねることにも、慣れてしまった自分がいる。

レイに髪を乾かされ、選ばれたスーツに袖を通し、ネクタイを整えた。そして最後に、またそっと唇を重ねられる。

車に乗り込むと、自然にレイの肩に頭を預けていた。
「……着いたよ」
耳元で囁かれたその声が心地よくて、思わずもう一度だけ目を閉じた。

けれどその時だった。ゆっくりと並走してきた黒い車。曇りガラス越しに、スーツ姿の男がこちらを見ている。

一瞬、視線が重なったような気がして、呼吸が止まる。

「……レイ?」
「大丈夫。何でもないよ」
レイは淡々とそう言いながら、僕の頭を撫でた。

その瞳の奥に、凍りつくような冷たい光が宿っていたことを——僕はまだ、知らなかった。

*---------------

「イナンナ・ギ・アグ」の一般向け商品説明会が開場すると、すでに受付周辺には人の列ができていた。

アキトさんは慣れた手つきで会場スタッフへ指示を出している。

「アオくん。これ今日の資料。レイのことよろしく」
「はい!」

商品のディスプレイのところでは、リョクが最終チェックをしていた。こちらに気づき手を振っている。その隣にはカナメの姿もあった。

タクミとダイチも、会場に飾られている花々のチェックをしている。

今日は「イナンナ・ギ・アグ」の一般発売を記念したレセプションパーティだ。

「レイ、僕はアキトさんのところに行ってセキュリティシステムの最終チェックしてくるから、先に控え室に行ってて」
「わかった」
「アキトさん!」僕の声に気づいたアキトさんが眉を寄せている。
「……さっきから、あの人。アオくんを見てない?」

視線の先にいたのは、グレーのスーツを着た男。手には資料を持っているが、視線はまっすぐアオの方に向いている。

「え?」

目が合った瞬間、男はゆっくりと口角を上げ、小さく頭を下げた。

「アオくん。知ってる人?」
「い、いえ」
「そう。じゃあ、後ろの警備に伝えとく。何かあったらすぐ僕かキョウカに知らせて」

アキトさんはそれだけ言うと、背後の警備担当に無言で合図を送った。

僕たちの動きに気づいたのか、男はすっと視線をそらし、列の後方へと下がっていった。
(気のせい……だよね)

なんとなく胸に引っ掛かるものを抱えたまま、アオは再び仕事に集中した。
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