【完結】女神が『かぐや姫』なんて! ~ 愛され令嬢は実利主義!理想の婿を追い求めたら、王国の救世主になりました~

弥生ちえ

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第三章 文化体育発表会編

あぁ、悪魔の囁きってこんな感じなんだろうなぁ。

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 正確な情報が伝わらなかったとはいえ、イシケナルが禁足と定めた決断に間違いはなかったのだろう。もしかすると、もっと早い時期からこの黄色い暗灰色の魔力の浸食は始まっていたのかもしれないけれど、見えない人間が大多数のこの国ではそれに気付けなかったとしても仕方のないことだ。

「私の領地をこのまま放置するわけにもいかん。一度確認する必要がありそうだ。」
「同感だな。王都のすぐ側にこんな怪しげな魔力溜りが出来ているなど、冗談じゃない。」

 並んで森を見詰めるイシケナルとハディスの表情は、ただならぬ事態に引き締まっている。公爵と王家に縁のあるだろう人達だ、そんな反応になるのは納得だ。

「難しいことは良いんですよ、とにかく気持ち悪いんですから、駆除した方が良いですよ!」

 視界を覆い尽くすウミウシの群れに鳥肌と震えが収まらない。もうこれは怖いとかそんな感情面じゃあなくって、生理的に無理・ってレベルのものだ。けど、だからこそこの側を通って行くバンブリア商会の商隊が心配でならないから、何とかしないといけない。
 気持ち悪さを抑えるために、背後にじっと立っていたオルフェンズの袖を引き寄せてぐっと握る。ヘリオスなら、手を繋いで不安な気持ちを和らげる事が出来たけれど、今ヘリオスは離れた領主邸でわたしのために奮闘していて側にはいない。ハディスはイシケナルと一緒に少し離れた場所で話し合っている。だから、なんとなくその姿を見ながら、オルフェンズの袖を掴んだ。

「耐えられないならいつでも逃れられますよ?」

 テノールが平坦な響きで耳元で囁き掛ける。
 あぁ、悪魔の囁きってこんな感じなんだろうなぁ。苦手なものからいとも簡単に遠ざけて、ただ望むものを差し出してくれる。けれど嫌なものから逃れ続け、ひたすら甘えるだけの人間の行く末にあるものは、碌なものであるはずはないだろう。

「取り払わずに置いて行く方が嫌だわ。」

 生理的嫌悪感はどうしようもない。緊張と同じで、自分の意志で乗り越えるしかないし、乗り越えることで得られる力がきっとある。

「でも、ちょっとだけこうしていさせてね。」

 ごめんね。と謝ると、いつもの薄い笑みにほんの少し暖かさが宿って返された。




 急遽、森の異変を調べることになった。いや、わたし達からすればスバルのもとへ寄せられた、辺境伯の書簡にあった依頼『王都近郊の魔物の出現状況や、森林の植生の確認』のため森へ入ることになった。
 商隊がこの郊外を通過するのは夕刻近くになるはずだから、昼前のこの時間ならまだまだ余裕はある。それに何より、この禍々しい森の側を何も知らずに通過するのは、実際の魔物の被害が出ている今では危険過ぎる気がする。
 今回の調査も、もちろん魔物の討伐ではなく調査なので、森の深くに足を踏み入れることはしない予定だ。そんな訳で前回の戦闘では砦内にいたイシケナルも、今回は護衛に、砦内に居た衛兵を更に加えた完全防備体制で同行するらしい。

「セレネ嬢は砦に残っても良いんだよ?」
「ヘリオスに危険が及ばないように、カヒナシの安全を確保するのもやぶさかではないんですけど、砦に残った魔力の見えない皆さんを護るのは荷が勝ちすぎますね。ハディス様やオルフェと一緒に森へ向かう方が、まだなんとかなる気がします。」
「あー‥‥否定は出来ないな。」

 じゃあ、絶対に僕たちから離れないでね。などと護衛らしからぬ事を言ってハディスはわたしの前を歩き始めた。オルフェンズはわたしの隣だ。護衛って、後ろから付いてくるんじゃなかったっけ?

 森の浅い部分を探索するとあって、わたしたちは馬車は使わず、馬と徒歩を移動手段とした。しかし森へ踏み込んで早々に計画は変更せざるを得ない事態が訪れた。

 ヒヒ―――ン!!
「あ・おい!」

 先頭を進んでいたイシケナルの騎乗した馬が、森へ入って幾らも進まないうちに棹立さおだち、振り落とされかけたのを皮切りに、次々に引き連れて来た馬達が怯えて暴れだしてしまった。

 周囲には、離れて見えた通りの黄色い暗灰色の魔力が立ち込めて息苦しいくらいだ。なんなら強力な他人の魔力に触れてしまった時の様なぞわぞわとした寒気と嫌悪感までが、身体中に纏わりついてくる。人間よりも敏感な動物たちはたまったものではないだろう。

「馬は置いていくしかないな。」

 イシケナルが苦々しく告げると、衛兵達が馬を引いて更に浅い部分まで戻って馬を繋いで来ることになった。

 森の中は、風によって揺れる葉擦れの音と、わたし達が下草や枯れ枝を踏む音のみが響き渡っていた。分かっていた事とは言え、動物や鳥の鳴き声、立てる物音やその影の一つも目に入ることは無い。先の馬の怯え様でも分かる通り、まっとうな生命持つものは、疾うにこの異常な魔力溜りとなった森から逃げ出してしまったのだろう。

 全員が徒歩で付近の動植物を確認しながら進む中、意外にも先に体調不良を訴え出したのは魔力の乏しい戦闘冒険者や、砦に居た衛兵達だった。
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