270 / 385
第四章 女神降臨編
いい気味だって言って見捨てるような素振りを見せながら、助けの手を差し伸べるなんて。
しおりを挟む
神器『仏の御石の鉢』を手にしたミワロマイレとギリムの背後に従って、デウスエクス国王の私室の奥の扉から繋がる寝室へ踏み入ると、部屋の中央に、わたしたち家族4人が揃って余裕で寝転がれそうなほど巨大なベッドが有り、その上で先程円形庭園で見た時と少しも変わっていない苦しみ様の国王が、手負いの獣の様に蹲って呻いていた。
そのすぐ傍には、床に膝をついて寄り添う王妃が苦し気な国王に負けないくらい辛そうな表情で、国王の手を握ったり、背を摩ったりしている。
先に診察をしていた王家の主治医や、呪文を唱えながら水晶を翳して何かを覗いて深刻そうな表情を国王へ向ける魔導士は、互いに難しい顔をしながら所見を話し合った後、静かに頷きあってひとつの結論を口にした。
「陛下の症状は病とは関係の無いものです。何らかの原因で現れた強い魔力が体内に溶け込めず、拒絶反応を起こしております。魔力過多と拒絶反応、これが陛下を蝕むものの正体です。この状態が続けば、いたずらに体力を消耗し、やがては最悪の事態が訪れるでしょう。」
水晶を覗いていたのは、急遽呼ばれた王城仕えの魔導士を束ねる魔導士長で「こんなときにポセイリンド閣下がおられないのは痛手です‥‥。」と、顔を歪ませる。
「ならば私の神器の魔力で、魔力に抗う持続力を更に高めてみせようか。さすれば、別の解決策が現れるやもしれんし、もしくは王弟殿下が帰還なさるやもしれんからな。」
ミワロマイレが『仏の御石の鉢』を手に、そっと王妃の隣に並ぶと、涙で言葉を詰まらせながらも気丈に「お願いします。私は陛下の折れないお心を信じております。」と、彼に返答するのが聞こえた。完全回復は無理だけれど延命措置ならば可能だと云うことらしい。
この部屋に入る前にギリムから、黄色い魔力では自身の力を高めた状態の持続をすることしかできず、不調を瞬時に取り除く『治癒』は施せないことを聞いた。それは、ポリンドの青龍の力でないと駄目らしい。今回は特に時間経過と共に回復して行く一過性の病気などではないから、黄色い魔力はもしかすると苦しむ時間を長引かせるだけになるかもしれないけれど―――と、唇を噛んでいた。
「ポリンド講師の青龍もそうですけど、もうお1人の王弟殿下はどこにいるんでしょうね?お兄さんのピンチなんだから今すぐにでも颯爽と現れるべきじゃありません?」
静かに『仏の御石の鉢』の魔力を国王に施すミワロマイレの後ろ姿を見ながら、隣に立つギリムにひっそりと声を掛けると、あからさまなため息を吐かれる。
「取ってつけた様な、耳障りの良い大義名分ばかり言っていないで、ホントのところを言葉にしたらどうだ?案外それが一番早くコトが進む気がするぞ‥‥。お前の呼びかけになら、あの男はすぐさま戻って来る気がするんだが。」
「いくらなんでも大げさよ。自慢の護衛だけどね。それに、今呼び出さなきゃならないのはポリンド講師であってハディじゃあないわ。」
「ならどうしてもうお1人の王弟殿下のことまで口にしたんだ?ここに来たのも王弟殿下ことがあったからだろうに、わからん奴だ。」
呆れられても仕方ない。自分でも矛盾してると思ってるもの。けど、本当に薄情なようだけれど、倒れている国王のためにポリンドを探すよりも、わたし自身が再会を望むハディを探したい気持ちの方が何倍も強くて、頭の中を沢山占めてしまっている。
「情けないわ、そんなことをしても利が見えないのに‥‥。」
呟くわたしにギリムの何とも言えない視線が向けられていた。
扉の向こうからバタバタと云う音と、騎士たちの誰かを止めようとする声が響いてきたかと思った次の瞬間、勢いよく寝室の扉が開かれると、そこから息を切らしたアポロニウス王子が飛び込んできた。
「父上!お気を確かに!!」
真っすぐに父親であるデウスエクス王の傍まで駆け寄った王子を見て、騎士たちが「誰が王子に話したんだ!?」「極秘事項でまだ王子にもお知らせしていないはずだが‥‥。」などと話して、困惑の様子を見せるけれど、相手が王子だけに下手に止めることも出来ない様だ。
「アポロニウス、静かになさい。陛下はおひとりで戦っておられるのですから。」
王妃が、騎士たちの制止を振り切って飛び込んで来た王子にちらりと視線を向けて制する。
「母上、そのことについてお話があります。ほんの少し前、城内に大きな音が響いた後で、私のところに突然現れた者がいたのです。そしてその者が、私にここへ来るように言いました。――私になら国王に宿ってしまった得難い稀有なる輝きをもつ魔力を引き受けることが出来るはずだ‥‥と。」
王子がちらりとわたしに視線を向ける。
うん、急に現れたことと良い、現れたタイミングと良い、その言い回しと良い‥‥アポロニウス王子のところに現れたのは間違いなく、わたしのもう一人の護衛な気がするなぁー‥‥。
いい気味だって言って見捨てるような素振りを見せながら、助けの手を差し伸べるなんて、いったい何を考えているのかしら?
そのすぐ傍には、床に膝をついて寄り添う王妃が苦し気な国王に負けないくらい辛そうな表情で、国王の手を握ったり、背を摩ったりしている。
先に診察をしていた王家の主治医や、呪文を唱えながら水晶を翳して何かを覗いて深刻そうな表情を国王へ向ける魔導士は、互いに難しい顔をしながら所見を話し合った後、静かに頷きあってひとつの結論を口にした。
「陛下の症状は病とは関係の無いものです。何らかの原因で現れた強い魔力が体内に溶け込めず、拒絶反応を起こしております。魔力過多と拒絶反応、これが陛下を蝕むものの正体です。この状態が続けば、いたずらに体力を消耗し、やがては最悪の事態が訪れるでしょう。」
水晶を覗いていたのは、急遽呼ばれた王城仕えの魔導士を束ねる魔導士長で「こんなときにポセイリンド閣下がおられないのは痛手です‥‥。」と、顔を歪ませる。
「ならば私の神器の魔力で、魔力に抗う持続力を更に高めてみせようか。さすれば、別の解決策が現れるやもしれんし、もしくは王弟殿下が帰還なさるやもしれんからな。」
ミワロマイレが『仏の御石の鉢』を手に、そっと王妃の隣に並ぶと、涙で言葉を詰まらせながらも気丈に「お願いします。私は陛下の折れないお心を信じております。」と、彼に返答するのが聞こえた。完全回復は無理だけれど延命措置ならば可能だと云うことらしい。
この部屋に入る前にギリムから、黄色い魔力では自身の力を高めた状態の持続をすることしかできず、不調を瞬時に取り除く『治癒』は施せないことを聞いた。それは、ポリンドの青龍の力でないと駄目らしい。今回は特に時間経過と共に回復して行く一過性の病気などではないから、黄色い魔力はもしかすると苦しむ時間を長引かせるだけになるかもしれないけれど―――と、唇を噛んでいた。
「ポリンド講師の青龍もそうですけど、もうお1人の王弟殿下はどこにいるんでしょうね?お兄さんのピンチなんだから今すぐにでも颯爽と現れるべきじゃありません?」
静かに『仏の御石の鉢』の魔力を国王に施すミワロマイレの後ろ姿を見ながら、隣に立つギリムにひっそりと声を掛けると、あからさまなため息を吐かれる。
「取ってつけた様な、耳障りの良い大義名分ばかり言っていないで、ホントのところを言葉にしたらどうだ?案外それが一番早くコトが進む気がするぞ‥‥。お前の呼びかけになら、あの男はすぐさま戻って来る気がするんだが。」
「いくらなんでも大げさよ。自慢の護衛だけどね。それに、今呼び出さなきゃならないのはポリンド講師であってハディじゃあないわ。」
「ならどうしてもうお1人の王弟殿下のことまで口にしたんだ?ここに来たのも王弟殿下ことがあったからだろうに、わからん奴だ。」
呆れられても仕方ない。自分でも矛盾してると思ってるもの。けど、本当に薄情なようだけれど、倒れている国王のためにポリンドを探すよりも、わたし自身が再会を望むハディを探したい気持ちの方が何倍も強くて、頭の中を沢山占めてしまっている。
「情けないわ、そんなことをしても利が見えないのに‥‥。」
呟くわたしにギリムの何とも言えない視線が向けられていた。
扉の向こうからバタバタと云う音と、騎士たちの誰かを止めようとする声が響いてきたかと思った次の瞬間、勢いよく寝室の扉が開かれると、そこから息を切らしたアポロニウス王子が飛び込んできた。
「父上!お気を確かに!!」
真っすぐに父親であるデウスエクス王の傍まで駆け寄った王子を見て、騎士たちが「誰が王子に話したんだ!?」「極秘事項でまだ王子にもお知らせしていないはずだが‥‥。」などと話して、困惑の様子を見せるけれど、相手が王子だけに下手に止めることも出来ない様だ。
「アポロニウス、静かになさい。陛下はおひとりで戦っておられるのですから。」
王妃が、騎士たちの制止を振り切って飛び込んで来た王子にちらりと視線を向けて制する。
「母上、そのことについてお話があります。ほんの少し前、城内に大きな音が響いた後で、私のところに突然現れた者がいたのです。そしてその者が、私にここへ来るように言いました。――私になら国王に宿ってしまった得難い稀有なる輝きをもつ魔力を引き受けることが出来るはずだ‥‥と。」
王子がちらりとわたしに視線を向ける。
うん、急に現れたことと良い、現れたタイミングと良い、その言い回しと良い‥‥アポロニウス王子のところに現れたのは間違いなく、わたしのもう一人の護衛な気がするなぁー‥‥。
いい気味だって言って見捨てるような素振りを見せながら、助けの手を差し伸べるなんて、いったい何を考えているのかしら?
0
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる