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第2章 ホテル写真の裏:男を匿う社長
早朝・社長動線の洗い出し
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朝の空気は、夜の脅しをいったん洗い流す。――洗い流したふりをするだけで、底には残るけれど。
私は子会社の会議室に一番乗りして、机の上に写真をプリントアウトした。社内共有のスクショ。拡散されたコメント付き。雑音が多いほど、火は広がる。だから私は雑音を剥ぐ。火消し屋の仕事は、火元の特定から始まる。
「ホテル密会」
その五文字の下にあるのは、光と影と、角度と、時間。写真の右下に印字されたタイムスタンプは、21:47。外灯の影の伸び方、濡れた路面の反射、背後の看板の明るさ。撮影位置は二階以上、斜め――向かいの立体駐車場か、隣のビルの非常階段。いずれにせよ、一般の通行人が偶然撮れる高さじゃない。
私は地図アプリを開き、ホテル周辺の航空写真にピンを落とす。立体駐車場、空き地、裏口、死角。昨夜、社長が私に見せた「22:30 ホテル裏口」のピンと、同じ場所に重なる。偶然じゃない。ここを狙って撮っている。
次に見るのは、社長の動線だ。昨日の社長は昼まで工場ラインに立っていた。袖をまくり上げたまま、人の目の前に立ち続けるタイプ。こういう人は、嘘が下手だ。下手だからこそ、写真の“紳士的な動作”が効く。ドアを押さえて相手を先に入れる――あの仕草は、作れる人がいる。でも、昨日の彼には“作る余裕”がなかった。
私は総務の出勤記録を呼び出した。社長車の入出庫記録、ゲートの通過ログ。時刻は、写真の前後で矛盾がない。
問題は“誰と”“なぜ”“誰が見ていたか”だ。
コピー機の起動音が部屋に響いたとき、私はふと、廊下の近い距離を思い出した。
「触った奴から消される」
あの言い方は脅しというより、経験則だった。守りたい人ほど、燃え方を知っている。
デスクに戻り、ホテルの公式サイトで館内図を確認する。正面玄関のカメラ位置、裏口の動線、ロビーの見通し。――ここまでやっても、ホテル側の防犯カメラが見られるわけじゃない。でも、“見られたくない動き”は、館内図だけでも読める。
写真の一枚目で二人が歩いている位置は、正面玄関へ向かう角度じゃない。あれは「裏口へ回る」角度だ。つまり、撮影者は“裏口に向かう動き”を知っていた。
知っていたのは、社長か。告発者か。――違う。社長は「見られるな」と言った。見られることを恐れていた。恐れていた人が、わざわざ最適な見られ方を選ぶはずがない。
私は紙に線を引く。
・裏口へ向かう予定を知っていた人物
・撮影位置(高所)を確保できた人物
・拡散の導線(社内共有の最初の投下先)を持つ人物
最初の投下先は、子会社の“全社連絡”じゃない。総務の小さなグループチャットだ。そこから現場の班長たちへ、瞬く間に落ちた。総務に、火種を運ぶ人がいる。
その瞬間、会議室のドアがノックされた。
「……福本さん」
昨日、封筒を渡してきた吉岡が、青い顔で立っている。
「今朝、社長が怒ってまして。『誰が漏らした』って」
吉岡は唇を震わせ、声を落とした。
「それと……ホテルの駐車場、今朝から“立ち入り禁止”になりました。誰かが、鍵を替えたみたいです」
鍵を替える。証拠を消す動きが早すぎる。
私はプリントアウトした写真を一枚、指先で叩いた。火は、もう燃えている。――なら、燃えているうちに、火元まで走るしかない。
「吉岡さん。立ち入り禁止にしたの、誰の指示ですか」
そう訊いた私に、吉岡は一瞬だけ目を逸らし、絞り出すように言った。
「……本社、です」
私は子会社の会議室に一番乗りして、机の上に写真をプリントアウトした。社内共有のスクショ。拡散されたコメント付き。雑音が多いほど、火は広がる。だから私は雑音を剥ぐ。火消し屋の仕事は、火元の特定から始まる。
「ホテル密会」
その五文字の下にあるのは、光と影と、角度と、時間。写真の右下に印字されたタイムスタンプは、21:47。外灯の影の伸び方、濡れた路面の反射、背後の看板の明るさ。撮影位置は二階以上、斜め――向かいの立体駐車場か、隣のビルの非常階段。いずれにせよ、一般の通行人が偶然撮れる高さじゃない。
私は地図アプリを開き、ホテル周辺の航空写真にピンを落とす。立体駐車場、空き地、裏口、死角。昨夜、社長が私に見せた「22:30 ホテル裏口」のピンと、同じ場所に重なる。偶然じゃない。ここを狙って撮っている。
次に見るのは、社長の動線だ。昨日の社長は昼まで工場ラインに立っていた。袖をまくり上げたまま、人の目の前に立ち続けるタイプ。こういう人は、嘘が下手だ。下手だからこそ、写真の“紳士的な動作”が効く。ドアを押さえて相手を先に入れる――あの仕草は、作れる人がいる。でも、昨日の彼には“作る余裕”がなかった。
私は総務の出勤記録を呼び出した。社長車の入出庫記録、ゲートの通過ログ。時刻は、写真の前後で矛盾がない。
問題は“誰と”“なぜ”“誰が見ていたか”だ。
コピー機の起動音が部屋に響いたとき、私はふと、廊下の近い距離を思い出した。
「触った奴から消される」
あの言い方は脅しというより、経験則だった。守りたい人ほど、燃え方を知っている。
デスクに戻り、ホテルの公式サイトで館内図を確認する。正面玄関のカメラ位置、裏口の動線、ロビーの見通し。――ここまでやっても、ホテル側の防犯カメラが見られるわけじゃない。でも、“見られたくない動き”は、館内図だけでも読める。
写真の一枚目で二人が歩いている位置は、正面玄関へ向かう角度じゃない。あれは「裏口へ回る」角度だ。つまり、撮影者は“裏口に向かう動き”を知っていた。
知っていたのは、社長か。告発者か。――違う。社長は「見られるな」と言った。見られることを恐れていた。恐れていた人が、わざわざ最適な見られ方を選ぶはずがない。
私は紙に線を引く。
・裏口へ向かう予定を知っていた人物
・撮影位置(高所)を確保できた人物
・拡散の導線(社内共有の最初の投下先)を持つ人物
最初の投下先は、子会社の“全社連絡”じゃない。総務の小さなグループチャットだ。そこから現場の班長たちへ、瞬く間に落ちた。総務に、火種を運ぶ人がいる。
その瞬間、会議室のドアがノックされた。
「……福本さん」
昨日、封筒を渡してきた吉岡が、青い顔で立っている。
「今朝、社長が怒ってまして。『誰が漏らした』って」
吉岡は唇を震わせ、声を落とした。
「それと……ホテルの駐車場、今朝から“立ち入り禁止”になりました。誰かが、鍵を替えたみたいです」
鍵を替える。証拠を消す動きが早すぎる。
私はプリントアウトした写真を一枚、指先で叩いた。火は、もう燃えている。――なら、燃えているうちに、火元まで走るしかない。
「吉岡さん。立ち入り禁止にしたの、誰の指示ですか」
そう訊いた私に、吉岡は一瞬だけ目を逸らし、絞り出すように言った。
「……本社、です」
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