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第2章 ホテル写真の裏:男を匿う社長
ホテル周辺
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ホテルの前に立つと、昨夜の写真が脳内で勝手に再生された。外灯の白、濡れた路面、傘の先。昼の光に晒されても、ここだけ空気が冷たい。火事の跡は、朝になっても匂う。
立体駐車場の入口には赤いコーンと、白い紙の貼り紙。
『本日より関係者以外立入禁止』
その下に、雑に押されたハンコ。ホテルじゃない。子会社でもない。――“外”の匂い。
私はコーンの手前で止まり、スマホで角度を確認した。写真の影の伸び方、外灯の位置、反射の線。撮影者は二階以上、正面ではなく斜め。ここだ。ここからなら、裏口へ回る二人を“最悪の誤解”に固定できる。
「鍵、替えたんですか」
駐車場脇の小さな管理室に声をかけると、年配の男性が顔を出した。警戒した目。私の名札を見て、さらに固くなる。
「……ホテルさんの依頼でね」
「ホテルが、うちの統合案件に関わります?」
言い切る前に、男性は視線を逸らした。逸らす癖のある人間は、嘘をつく時に同じ方向を見る。逸らした先は、ホテルの裏口。
「俺は頼まれた通りにしてるだけ」
“頼んだ人”の名前を言わない。言えない。
私は深追いをやめ、ポケットのメモに時刻だけ書いた。今朝の立入禁止の開始は七時半。早すぎる。写真の拡散が昨夜なら、対応がここまで速いのは――事前に準備がある。
裏口へ回る。狭い路地、ゴミ置き場の金属臭。監視カメラはある。けれど、レンズの向きが少しだけ不自然だ。角度が、裏口の“外”よりも“内”を見ている。つまり映るのは、出入りする人間の顔。顔が映るなら、誰かが嫌がる。
「……昨日の夜、警備の人が二人いましたよ」
ゴミの回収に来た業者の若い男性が、ぽつりと言った。聞いてもいないのに。言ってしまった、という顔。
「普段は一人なのに。『今日は本社が来る』って」
本社、という単語がここで出る。胸の奥が冷えるのに、同時に線が繋がっていく感覚がある。火元に近づくと、怖さより“確信”が先に来る。
私は礼を言い、離れたところで社長に短くメッセージを送った。
【駐車場鍵替え:ホテル依頼と偽装。本社関与の気配/警備増員「本社が来る」発言あり】
送信した瞬間、すぐ既読が付いた。返信は短い。
【戻れ。ここは俺が押さえる】
命令口調なのに、不思議と腹が立たない。守る側の言い方だ。私はスマホを握り直し、最後にもう一度、駐車場の二階を見上げた。あの高さから、誰かが二人を狙っていた。狙ったのは恋じゃない。――“守る側”を潰すための絵を作った。
背中に風が当たる。振り返ると、ホテルのガラス扉に自分の姿が映っていた。スーツの女。火消し屋の顔。
でも今、私が追っているのは火じゃない。火を起こした手だ。
立体駐車場の入口には赤いコーンと、白い紙の貼り紙。
『本日より関係者以外立入禁止』
その下に、雑に押されたハンコ。ホテルじゃない。子会社でもない。――“外”の匂い。
私はコーンの手前で止まり、スマホで角度を確認した。写真の影の伸び方、外灯の位置、反射の線。撮影者は二階以上、正面ではなく斜め。ここだ。ここからなら、裏口へ回る二人を“最悪の誤解”に固定できる。
「鍵、替えたんですか」
駐車場脇の小さな管理室に声をかけると、年配の男性が顔を出した。警戒した目。私の名札を見て、さらに固くなる。
「……ホテルさんの依頼でね」
「ホテルが、うちの統合案件に関わります?」
言い切る前に、男性は視線を逸らした。逸らす癖のある人間は、嘘をつく時に同じ方向を見る。逸らした先は、ホテルの裏口。
「俺は頼まれた通りにしてるだけ」
“頼んだ人”の名前を言わない。言えない。
私は深追いをやめ、ポケットのメモに時刻だけ書いた。今朝の立入禁止の開始は七時半。早すぎる。写真の拡散が昨夜なら、対応がここまで速いのは――事前に準備がある。
裏口へ回る。狭い路地、ゴミ置き場の金属臭。監視カメラはある。けれど、レンズの向きが少しだけ不自然だ。角度が、裏口の“外”よりも“内”を見ている。つまり映るのは、出入りする人間の顔。顔が映るなら、誰かが嫌がる。
「……昨日の夜、警備の人が二人いましたよ」
ゴミの回収に来た業者の若い男性が、ぽつりと言った。聞いてもいないのに。言ってしまった、という顔。
「普段は一人なのに。『今日は本社が来る』って」
本社、という単語がここで出る。胸の奥が冷えるのに、同時に線が繋がっていく感覚がある。火元に近づくと、怖さより“確信”が先に来る。
私は礼を言い、離れたところで社長に短くメッセージを送った。
【駐車場鍵替え:ホテル依頼と偽装。本社関与の気配/警備増員「本社が来る」発言あり】
送信した瞬間、すぐ既読が付いた。返信は短い。
【戻れ。ここは俺が押さえる】
命令口調なのに、不思議と腹が立たない。守る側の言い方だ。私はスマホを握り直し、最後にもう一度、駐車場の二階を見上げた。あの高さから、誰かが二人を狙っていた。狙ったのは恋じゃない。――“守る側”を潰すための絵を作った。
背中に風が当たる。振り返ると、ホテルのガラス扉に自分の姿が映っていた。スーツの女。火消し屋の顔。
でも今、私が追っているのは火じゃない。火を起こした手だ。
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