恋愛禁止条項の火消し屋は、子会社社長を守る側に立つ

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第2章 ホテル写真の裏:男を匿う社長

静かな場所

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社長が私を連れて行ったのは、工場敷地の端にある小さな資材置き場だった。昼休み前の時間で、人の気配が薄い。遠くで機械が低く唸り、金属の匂いに混ざって、冬の乾いた土の匂いがする。静かな場所なのに、静かすぎない。話すにはちょうどいい“隠れ方”だった。

社長はシャッターの前で立ち止まり、背中越しに言った。

「ホテル周り、これ以上触るな」
「証拠が消えます」
「消させない。――俺がやる」

言い切る声に迷いがない。守る側の人間は、迷いを見せない。見せた瞬間、守る対象が燃えるのを知っている。

私は一歩だけ近づいた。距離を詰める理由は仕事。そう言い訳を用意してから。

「なぜ、そこまで」

社長の肩が、ほんの少しだけ上下した。息を吐く音。

「……潰されるからだ」
「誰が」
「彼が」

シャッターが少しだけ開き、暗がりの中に、人影が見えた。男。やつれた頬。昨夜、ホテル裏口で一瞬だけ見た顔。――男性告発者だ。

彼は私を見るなり、肩をすくめるように身を縮めた。私の名札を読んだのか、読まなくてもわかるのか。火消し屋=切る側。そういう目だ。

社長が私の前に半歩出る。庇う動き。無意識の、守り方。

「本社が“パワハラ”で潰す準備をしてる」
「……もう?」
「写真はその前座だ。俺を汚して、彼を孤立させる」

社長は振り返らずに言う。

「だから俺は、先に汚れた。ホテルに入った。匿った」

胸の奥が、きゅっと縮む。

「不倫じゃない。——保護だ」
「わかっています」

わかっている、と言った途端、社長がこちらを見た。真正面から。目が、怒っていないのに強い。

「わかってるなら、聞く。お前は本当に——どっち側だ」

まただ。どっち側。私は視線を逸らさない。逸らしたら、私の方が“空気”に飲まれる。

「守る側に立ちます」

声が少し震えた。寒さのせいにしたい。でも違う。

「ただし、守るには証拠が要る。あなた一人で抱えたら、あなたも燃えます」

社長の口元が、わずかに歪んだ。笑いではない。痛みに近い。

「燃えるのは慣れてる」
「慣れないでください」

言ってしまって、私自身が驚いた。命令でも、お願いでもないのに、言葉だけが先に出た。

社長は一拍だけ黙り、低く言った。

「……お前、変な女だな」
「仕事です」

私が答えると、社長は小さく息を吐いて、視線を告発者へ戻した。

「こいつを守り切る。だから、お前は“手続き”で戦え」

守る。戦え。役割分担みたいで、酷く現実的で、だからこそ胸が熱くなる。恋愛禁止条項の警報が、どこかで鳴った。——でも今は、恋じゃない。守る側に立つっていう、仕事の誓いだ。

告発者が、震える声で言った。

「……あなたも、“同じ側”ですか」

その言葉が、後で切り貼りされる未来を、私はまだ知らない。
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