恋愛禁止条項の火消し屋は、子会社社長を守る側に立つ

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第4章 チャット切り貼り:主人公が“共犯”にされる

告発者の本当の狙い

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告発者は、控室じゃなく、工場敷地の外れの小さな休憩所にいた。喫煙所でもない、誰も座らないベンチ。風除けの壁があるだけの、半端に静かな場所。

「……新人、大丈夫か」

彼は私を見るなり、いきなりそれを訊いた。自分のことより先に。

「壊れかけてる。でも、折らせない」

私が答えると、告発者は短く頷いて、視線を落とした。指先が、ずっと何かを握っているみたいに硬い。

「あなた、今日呼ばれた」
「呼ばれたよ。弁護士まで連れてきた」
「怖かった?」
「怖いに決まってる」

吐き捨てるように言ってから、彼は笑った。乾いた笑い。

「……でも、狙い通りだ」

私は言葉を止めた。狙い通り。その四文字が、ここまでの“被害者”の顔に合わない。

「……何の狙い」

問いが低くなる。怒りが混ざる。告発者はようやく私を見た。赤い目。限界の目。だけど、芯が残っている。

「俺の狙いは、俺を助けてもらうことじゃない」

彼はゆっくり言った。

「統合を止めることでもない。……やり方を止めることだ」
「やり方?」
「首輪の作り方。守秘義務の使い方。匿名通報の量産。想定問答。懲戒のテンプレ。——あれを“現行犯”で掴む」

彼の声は震えていた。怖さじゃない。怒りの震えだ。

私は一歩だけ詰めた。

「あなた、最初から分かってたの?」
「分かってた」
「じゃあ——」

喉の奥が熱くなる。

「自分が燃えるのも、最初から?」

告発者は視線を逸らさなかった。

「燃えなきゃ、向こうは本気を出さない」

一拍置いて、苦しそうに続ける。

「本気を出させれば、必ずテンプレを使う。規程を盾にして、口を縛って、証言を作る。——その瞬間の紙とログが欲しかった」

私は息を吸った。怒りが先に来る。来たのに、言葉が出ない。彼のやり方は汚い。でも、分かる。汚いほど確実に“仕組み”が露出するのも、分かってしまう。

「……じゃあ私を巻き込んだのも」

私が言いかけると、告発者が先に答えた。

「最初からだ」

言い切ってから、彼は少しだけ声を落とした。

「社長は現場を守れる。でも手続きを切れない。監査は“正しい顔”で全部隠す。——切れるのは、本社の手続きを知ってる人間だけだ」

彼の目が私を刺す。

「福本さん、あなたしかいないと思った」

胸の奥が冷えた。私が選ばれた。偶然じゃない。あのUSBのフォルダ【佐伯】も、【匿名通報_文案】も、私の手に渡るように作られていた。

「……私を利用した」
「利用した」

彼は否定しない。否定しないから、言葉が重く落ちる。

「ひどいと思ってる。でも、他に道がなかった」

告発者は唇を噛んだ。

「俺が折れたら、現場の人が“本人都合”で消える。新人も、次は首輪を自分で締める側になる」

私は拳を握りしめた。怒鳴りたいのに、怒鳴ったら“燃料”になる。だから、確認だけを叩き込む。

「あなた、外部に出すつもり?」

告発者の喉が小さく動いた。

「……もう準備してる」

嫌な予感が背骨を走った。

「何を、どこへ」
「労基じゃない。労基は時間がかかる」

彼は淡々と言った。淡々と言うほど危険な話なのに。

「外部弁護士と、記者。あと、グループ監査委員会にも——自動で飛ぶ」
「自動?」

告発者はポケットからスマホを出し、画面を私に見せた。カレンダーの予定。

17:00 送信

宛先が複数。ファイル添付。タイトルは短い。

——『統合PJにおける“退職誘導テンプレ”と“証言誘導”の証拠』

喉が鳴った。これが出れば、統合の空気は破裂する。現場は守れるかもしれない。でも同時に、新人も、社長も、私も燃える。切り貼りじゃない“原本”で燃える。

「止められるの?」
「俺がキャンセルすれば止まる」

告発者は言い、そして、真っ直ぐに私を見た。

「でも、止めたら——俺はまた首輪を締められて終わる。次はもっと綺麗に、誰も気づかない形で」

風が吹いて、ベンチの背板が小さく鳴った。空は明るいのに、選択肢だけが暗い。

「……あなたの“本当の狙い”は」

私がゆっくり言う。

「自分を救うことじゃない。現場を守ることでもない。——仕組みを、外に引きずり出すこと」

告発者は、小さく頷いた。

「俺は悪者でもいい。悪者にならないと、悪が見えないから」

その言葉が、怖いほどに真っ直ぐだった。私は息を吸って、吐いた。

「分かった」

声が自分でも驚くほど冷静だった。

「17:00までに、原本で勝てる形を作る。——それが間に合わなければ、あなたの自動送信を止めない」

告発者の肩が、ほんの少しだけ落ちた。救われた、じゃない。“順番が決まった”ときの安堵だ。

「福本さん」

告発者が言う。

「あなたが折れたら、俺は送る。迷わず送る」

脅しじゃない。宣言だ。

私は頷いた。

「私も迷わない。切り貼りじゃなく、条件ごと残す」

時計は、もう午前を回っている。17:00まで、残り時間は少ない。そしてその時間は、私たちの側の火も——点けるかどうかの猶予だった。
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