恋愛禁止条項の火消し屋は、子会社社長を守る側に立つ

swingout777

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第6章 第二波:告発者を完全に潰す「手続きの暴力」

規程の穴

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社長の強硬策で、委員会は“停止”になった。けれど私は、息をつかなかった。

停止は勝利じゃない。停止は「次の形」を作る猶予だ。猶予の間に、相手は必ず“整える”。整えた後は、また同じ罠が来る。

だから私は、その夜——総務の書庫に入った。鍵のかかる棚。規程集。誰も読まないぶ厚いファイル。

ページをめくる指先が、妙に冷たい。私は“文章の指紋”を見分ける癖がある。規程の言葉にも、同じ癖がある。逃げ道を作る言葉。責任をぼかす言葉。そして、たまに——逃げ道が逆に“こちらの武器”になる穴がある。

最初に開いたのは「懲戒委員会規程」。第二章、委員の資格。そこに、さらっと書かれていた。

(利害関係の排除)
当該案件において事実関係の形成・指示・判断に関与した者は、委員を務めない。
また、当事者または参考人に対し、直接の働きかけを行った者は、委員長を兼ねない。

——兼ねない。“禁止”ではない。命令口調じゃない。でも、規程の文は命令じゃなくても効く。効くのは、「違反した事実」が原本になるからだ。

私はページをめくり続け、次に「内部通報規程」を開いた。通報者保護の章に、さらに“穴”があった。

(不利益取扱いの禁止)
通報を理由として、懲戒・降格・配置転換その他の不利益取扱いをしてはならない。
通報に関連する事実の調査が完了するまで、懲戒手続は原則停止する。
(ただし証拠保全のための措置はこの限りでない)

——「原則停止」。ここまで書いてあって、現場で守られていないのが、この会社だ。でも今は違う。新人の文書がある。録音がある。配布線がある。そして何より、相手が恋愛禁止条項を持ち出して“通報の筋”から逃げようとした。逃げた瞬間、通報規程が牙になる。

私は決断した。社長の第三者調査とは別に——私自身が、通報者になる。

逃げじゃない。委員会の椅子を外すための、手続きだ。

取る手は二つ

1. 委員長忌避(佐伯の排除)
 根拠:懲戒委員会規程「利害関係の排除」
 事実:外部から新人へ働きかけの疑い/私への端末提出要求・撤回要求/委員会の進行設計

2. 内部通報の正式化(不利益取扱い停止の発動)
 根拠:内部通報規程「不利益取扱いの禁止」「調査完了まで懲戒手続は原則停止」
 事実:テンプレ配布線(HR-SEP-015)/投稿代行作業割/参考人への言い方指定・誘導/恋愛禁止条項の濫用

“穴”は、ここだ。第三者調査を社長が発注しても、相手は「社長の暴走」に見せ替えられる。でも内部通報規程の停止は、社長の意思じゃない。会社の規程そのものだ。規程が動けば、社長は前に出なくていい。私も“関係性”にされにくい。

私は書庫の机に座り、文書の冒頭を決めた。切り貼りできない、短い一文。

本件は内部通報規程に基づく通報であり、調査完了までの不利益取扱いの停止と、懲戒委員会規程に基づく委員長忌避を申し立てます。

内容は、感情じゃなく時刻で並べる。“順番”が、そのまま証拠になる。

・21:08 新人へ外部からの電話(名乗り:佐伯)「福本に言われたと言えば丸く収まる」
・09:57 監査担当による言い方指定(録音あり)
・10:13 新人の文書受領(同席:吉岡)
・16:30 本社会議での端末提出要求/担当外し示唆(全文書き起こしあり)
・恋愛禁止条項を用いた論点ずらし(手続き回避の疑い)

最後に、要求を書く。要求は短く、逃げ道を塞ぐ。

1. 懲戒手続の停止(内部通報規程に基づく)
2. 委員長忌避(佐伯)および委員の利害関係確認
3. 監査室・人事・法務・匿名通報窓口のログ保全(凍結)
4. 参考人(新人)への接触禁止(窓口一本化)
5. 議事録・録音の全文提供(保全のため)

書き終えた瞬間、胸の奥の圧が少しだけ解けた。怖さが消えたわけじゃない。でも怖さが、文字になった。文字は原本になる。

書庫を出る直前、私はもう一度だけ規程のページを見た。そこに、細い一行があった。

通報者は、通報の対象となる者を委員会の構成員から排除するよう求めることができる。

求めることができる。弱い言い方。でも、十分だ。“できる”の権利は、行使した瞬間に現実になる。

私は封筒に文書を入れ、受領印の欄を空けたまま、吉岡へ渡した。

「明朝いちばんで、コンプラ窓口へ。受領時刻を取って」

吉岡が頷く。

「社長には?」
「社長には、結果だけ共有」

私は言った。

「前に出ない方がいい。これは“会社の規程”で止める」

廊下の窓から、工場の明かりが見えた。守る人の背中が、今夜もどこかで重いはずだ。

私は一つだけ、心の中で言った。——次の戦場は、委員会じゃない。規程の中だ。

そして、規程は一度動き出すと、誰の顔色でも止まらない。
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