49 / 80
第7章 決戦前夜:不正採用(縁故)が繋がる
告発者の核心資料
しおりを挟む
場所は決めない。場所を決めた瞬間、そこが“物語”になる。だから私は、総務奥の保全席に座ったまま、窓口経由の回線だけを開いた。個人チャットじゃない。総務保全フォルダの送受信ログが残るルート。
吉岡が、同席者欄に時刻を書いた。
22:58 同席:吉岡
情シス担当が、画面録画を開始する。“核心”は、内容より受け取り方が先だ。受け取り方が原本になる。
ファイルが一つ、落ちてきた。名前は、飾り気がない。
「HR-SEP-015_original.zip」
中身は三つ。見た瞬間に、喉が乾いた。
1. 原本(Word):HR-SEP-015_統合PJ対応_ヒアリング説明.docx
2. 改訂履歴(PDF):TrackChanges_Export.pdf
3. 送信ヘッダ(eml):approval_chain.eml
告発者のメッセージが続く。
【“切り貼り”の元の原本。修正した人の名前が“消えずに残る”形にした。
外に出た画像はコレのスクショ。スクショじゃ勝てない。原本で勝て】
私は最初に、Wordを開かなかった。開くと“更新”が走ることがある。余計な痕が付く。私はファイルのプロパティを確認し、情シスに言った。
「ハッシュ取って。三つ全部。今の時刻で」
情シス担当が頷き、淡々と打つ。吉岡が、受領メモに追記する。
ファイル受領時刻 22:59/ハッシュ採取 23:00
この一行が、あとで命を守る。
閲覧用に“コピー”を作り、コピーを開く。画面に出た最初のページのフッターに、例の管理番号。
HR-SEP-015
そして、右上の“文書情報”。作成者名が、最初から消えていない。
作成者:Saeki S.(本社人事)
最終更新者:Kansaa_Tanto(監査担当)
共同編集:Legal_Desk(法務)
——綺麗すぎる。綺麗すぎて、逃げ道がない。
更に、コメントが残っていた。赤い吹き出し。言い回しの“台本”。
「恋愛条項を当てる場合、“守られている”の文言を先に置く」
「“丸く収まる”は新人の心理に刺さる。電話で押す」
「福本を“秩序攪乱”に。先に委員会で孤立させる」
喉が冷える。ここまで書いてあるのは、“雑”じゃない。急いで整えた痕だ。
TrackChanges_Export.pdf には、赤字が残っていた。誰が、いつ、どの文言を入れたか。「月曜の午前」も、ここにあった。
・変更者:Legal_Desk
・変更内容:「週明けの午前」→ 「月曜の午前」
・変更時刻:22:17
外に漏れた言い回しと一致する。“公式ルート側”の口が、ここで確定する。
吉岡が小さく呟く。
「……だからA案が外に」
私は頷くだけで返した。言葉を増やさない。今は、原本の数を増やす。
最後の eml を開く。メールのヘッダは嘘をつきにくい。受信者、経路、タイムスタンプ、Message-ID。
件名:「承認:HR-SEP-015(急ぎ/外対応シナリオ)」
差出人:Saeki S.(本社人事)
宛先には、監査・法務・統合PJ後任のアカウント。CC に、見慣れない外部アドレス——記者へ送った形跡に見えるものがある。ただし、宛先は伏せられている。削ってある。でも——削り方が雑で、末尾だけが残っていた。
「@free-mail」
匿名じゃない。意図的な回線。
情シス担当が、声を落として言った。
「……これ、外に流した“経路”も残ってます」
「うん」
私は言った。
「ここで勝てる。スクショじゃなく、送信ヘッダで」
告発者から、最後のメッセージが来た。
【俺が言えるのはここまで。
端末提出が来たら、全部消される。
でも消しても“消したこと”がログになる。
だから——今夜、原本を外の第三者に渡して。社内だけに置くな】
外に渡す。それは、私が避けてきた選択肢だった。でも今は、外が燃えている。燃えている以上、内側だけで守るのは無理だ。
私は呼吸を一つ入れて、吉岡に言った。
「第三者調査チームに“原本一式”として渡す。今夜の時刻で」
吉岡が頷く。
「顧問弁護士経由で」
「うん。窓口固定。個人送信はしない」
情シス担当が続ける。
「端末提出、一斉に来ても……」
「出す」
私は短く言った。
「ただし、“提出する手続き”を文書化して出す。任意か強制か。根拠規程。保全の有無。——全部、原本にする」
時計は、23:06。取材メールの締切は、もう過ぎている。外は勝手に書く。社内は全員端末提出で“面を取る”。
でも、ここにあるのは——面じゃない。配布線の“骨”だ。恋愛の噂に寄せて固めた物語を、原本で折れる骨。
私はZIPのファイル名を、もう一度だけ見た。
HR-SEP-015_original
“original”の単語が、今夜いちばん信用できる。
告発者の核心資料は、燃料じゃない。燃え方を変えるための、火元そのものだった。
吉岡が、同席者欄に時刻を書いた。
22:58 同席:吉岡
情シス担当が、画面録画を開始する。“核心”は、内容より受け取り方が先だ。受け取り方が原本になる。
ファイルが一つ、落ちてきた。名前は、飾り気がない。
「HR-SEP-015_original.zip」
中身は三つ。見た瞬間に、喉が乾いた。
1. 原本(Word):HR-SEP-015_統合PJ対応_ヒアリング説明.docx
2. 改訂履歴(PDF):TrackChanges_Export.pdf
3. 送信ヘッダ(eml):approval_chain.eml
告発者のメッセージが続く。
【“切り貼り”の元の原本。修正した人の名前が“消えずに残る”形にした。
外に出た画像はコレのスクショ。スクショじゃ勝てない。原本で勝て】
私は最初に、Wordを開かなかった。開くと“更新”が走ることがある。余計な痕が付く。私はファイルのプロパティを確認し、情シスに言った。
「ハッシュ取って。三つ全部。今の時刻で」
情シス担当が頷き、淡々と打つ。吉岡が、受領メモに追記する。
ファイル受領時刻 22:59/ハッシュ採取 23:00
この一行が、あとで命を守る。
閲覧用に“コピー”を作り、コピーを開く。画面に出た最初のページのフッターに、例の管理番号。
HR-SEP-015
そして、右上の“文書情報”。作成者名が、最初から消えていない。
作成者:Saeki S.(本社人事)
最終更新者:Kansaa_Tanto(監査担当)
共同編集:Legal_Desk(法務)
——綺麗すぎる。綺麗すぎて、逃げ道がない。
更に、コメントが残っていた。赤い吹き出し。言い回しの“台本”。
「恋愛条項を当てる場合、“守られている”の文言を先に置く」
「“丸く収まる”は新人の心理に刺さる。電話で押す」
「福本を“秩序攪乱”に。先に委員会で孤立させる」
喉が冷える。ここまで書いてあるのは、“雑”じゃない。急いで整えた痕だ。
TrackChanges_Export.pdf には、赤字が残っていた。誰が、いつ、どの文言を入れたか。「月曜の午前」も、ここにあった。
・変更者:Legal_Desk
・変更内容:「週明けの午前」→ 「月曜の午前」
・変更時刻:22:17
外に漏れた言い回しと一致する。“公式ルート側”の口が、ここで確定する。
吉岡が小さく呟く。
「……だからA案が外に」
私は頷くだけで返した。言葉を増やさない。今は、原本の数を増やす。
最後の eml を開く。メールのヘッダは嘘をつきにくい。受信者、経路、タイムスタンプ、Message-ID。
件名:「承認:HR-SEP-015(急ぎ/外対応シナリオ)」
差出人:Saeki S.(本社人事)
宛先には、監査・法務・統合PJ後任のアカウント。CC に、見慣れない外部アドレス——記者へ送った形跡に見えるものがある。ただし、宛先は伏せられている。削ってある。でも——削り方が雑で、末尾だけが残っていた。
「@free-mail」
匿名じゃない。意図的な回線。
情シス担当が、声を落として言った。
「……これ、外に流した“経路”も残ってます」
「うん」
私は言った。
「ここで勝てる。スクショじゃなく、送信ヘッダで」
告発者から、最後のメッセージが来た。
【俺が言えるのはここまで。
端末提出が来たら、全部消される。
でも消しても“消したこと”がログになる。
だから——今夜、原本を外の第三者に渡して。社内だけに置くな】
外に渡す。それは、私が避けてきた選択肢だった。でも今は、外が燃えている。燃えている以上、内側だけで守るのは無理だ。
私は呼吸を一つ入れて、吉岡に言った。
「第三者調査チームに“原本一式”として渡す。今夜の時刻で」
吉岡が頷く。
「顧問弁護士経由で」
「うん。窓口固定。個人送信はしない」
情シス担当が続ける。
「端末提出、一斉に来ても……」
「出す」
私は短く言った。
「ただし、“提出する手続き”を文書化して出す。任意か強制か。根拠規程。保全の有無。——全部、原本にする」
時計は、23:06。取材メールの締切は、もう過ぎている。外は勝手に書く。社内は全員端末提出で“面を取る”。
でも、ここにあるのは——面じゃない。配布線の“骨”だ。恋愛の噂に寄せて固めた物語を、原本で折れる骨。
私はZIPのファイル名を、もう一度だけ見た。
HR-SEP-015_original
“original”の単語が、今夜いちばん信用できる。
告発者の核心資料は、燃料じゃない。燃え方を変えるための、火元そのものだった。
0
あなたにおすすめの小説
なぜ私?スパダリCEOに捕獲され推しの秘書になりました
あいすらん
恋愛
落ち込んでいた私が見つけた最高の趣味。
それは完璧スパダリCEOの「声」を集めること。
動画サイトで最高のイケボを見つけた私、倉田ひかりは、声を録音するためだけに烏丸商事の会社説明会へ。
失業中の元ピアノ講師には、お金のかからない最高のレクリエーションだったのに。
「君、採用」
え、なんで!?
そんなつもりじゃなかったと逃げ出したのに、運命は再び私と彼を引き合わせる。
気づけば私は、推しの秘書に。
時短の鬼CEO×寄り道大好き迷子女。
正反対な2人が繰り広げる、イケボに溺れるドタバタラブコメ!
期間限定の関係のはずでは?〜傷心旅行に来たら美形店長に溺愛されてます〜
水無月瑠璃
恋愛
長年付き合った彼氏から最悪な形で裏切られた葉月は一週間の傷心旅行に出かける。そして旅先で出会った喫茶店の店長、花村とひょんなことから親しくなり、うっかり一夜を共にしてしまう。
一夜の過ちだとこれっきりにしたい葉月だが、花村は関係の継続を提案してくる。花村に好感を抱いていた葉月は「今だけだしいっか」と流されて関係を続けることになるが…。
恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-
プリオネ
恋愛
せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。
ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。
恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。
俺様上司と複雑な関係〜初恋相手で憧れの先輩〜
せいとも
恋愛
高校時代バスケ部のキャプテンとして活躍する蒼空先輩は、マネージャーだった凛花の初恋相手。
当時の蒼空先輩はモテモテにもかかわらず、クールで女子を寄せ付けないオーラを出していた。
凛花は、先輩に一番近い女子だったが恋に発展することなく先輩は卒業してしまう。
IT企業に就職して恋とは縁がないが充実した毎日を送る凛花の元に、なんと蒼空先輩がヘッドハンティングされて上司としてやってきた。
高校の先輩で、上司で、後から入社の後輩⁇
複雑な関係だが、蒼空は凛花に『はじめまして』と挨拶してきた。
知り合いだと知られたくない?
凛花は傷ついたが割り切って上司として蒼空と接する。
蒼空が凛花と同じ会社で働きだして2年経ったある日、突然ふたりの関係が動き出したのだ。
初恋相手の先輩で上司の複雑な関係のふたりはどうなる?
表紙はイラストAC様よりお借りしております。
元恋人と、今日から同僚です
紗和木 りん
恋愛
女性向けライフスタイル誌・編集部で働く結城真帆(29)。
仕事一筋で生きてきた彼女の前に、ある日突然、五年前に別れた元恋人が現れた。
「今日から、この部署に配属になった」
そう告げたのは、穏やかで理性的な朝倉。
かつて、将来や価値観のすれ違いから別れた相手だ。
仕事として割り切ろうと距離を取る真帆だったが、過去の別れが誤解と説明不足によるものだったことが少しずつ見えてくる。
恋愛から逃げてきた女と、想いを言葉にできなかった男。
仕事も感情も投げ出さず、逃げずに選び直した先にあるのは「やり直し」ではなく……。
元恋人と同僚になった二人。
仕事から始まる新しい恋の物語。
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―
鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。
そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。
飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!?
晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!?
笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ!
○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる