恋愛禁止条項の火消し屋は、子会社社長を守る側に立つ

swingout777

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第7章 決戦前夜:不正採用(縁故)が繋がる

告発者の核心資料

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場所は決めない。場所を決めた瞬間、そこが“物語”になる。だから私は、総務奥の保全席に座ったまま、窓口経由の回線だけを開いた。個人チャットじゃない。総務保全フォルダの送受信ログが残るルート。

吉岡が、同席者欄に時刻を書いた。

22:58 同席:吉岡

情シス担当が、画面録画を開始する。“核心”は、内容より受け取り方が先だ。受け取り方が原本になる。

ファイルが一つ、落ちてきた。名前は、飾り気がない。

「HR-SEP-015_original.zip」

中身は三つ。見た瞬間に、喉が乾いた。

1. 原本(Word):HR-SEP-015_統合PJ対応_ヒアリング説明.docx
2. 改訂履歴(PDF):TrackChanges_Export.pdf
3. 送信ヘッダ(eml):approval_chain.eml

告発者のメッセージが続く。

【“切り貼り”の元の原本。修正した人の名前が“消えずに残る”形にした。
 外に出た画像はコレのスクショ。スクショじゃ勝てない。原本で勝て】

私は最初に、Wordを開かなかった。開くと“更新”が走ることがある。余計な痕が付く。私はファイルのプロパティを確認し、情シスに言った。

「ハッシュ取って。三つ全部。今の時刻で」

情シス担当が頷き、淡々と打つ。吉岡が、受領メモに追記する。

ファイル受領時刻 22:59/ハッシュ採取 23:00

この一行が、あとで命を守る。

閲覧用に“コピー”を作り、コピーを開く。画面に出た最初のページのフッターに、例の管理番号。

HR-SEP-015

そして、右上の“文書情報”。作成者名が、最初から消えていない。

作成者:Saeki S.(本社人事)
最終更新者:Kansaa_Tanto(監査担当)
共同編集:Legal_Desk(法務)

——綺麗すぎる。綺麗すぎて、逃げ道がない。

更に、コメントが残っていた。赤い吹き出し。言い回しの“台本”。

「恋愛条項を当てる場合、“守られている”の文言を先に置く」
「“丸く収まる”は新人の心理に刺さる。電話で押す」
「福本を“秩序攪乱”に。先に委員会で孤立させる」

喉が冷える。ここまで書いてあるのは、“雑”じゃない。急いで整えた痕だ。

TrackChanges_Export.pdf には、赤字が残っていた。誰が、いつ、どの文言を入れたか。「月曜の午前」も、ここにあった。

・変更者:Legal_Desk
・変更内容:「週明けの午前」→ 「月曜の午前」
・変更時刻:22:17

外に漏れた言い回しと一致する。“公式ルート側”の口が、ここで確定する。

吉岡が小さく呟く。

「……だからA案が外に」

私は頷くだけで返した。言葉を増やさない。今は、原本の数を増やす。

最後の eml を開く。メールのヘッダは嘘をつきにくい。受信者、経路、タイムスタンプ、Message-ID。

件名:「承認:HR-SEP-015(急ぎ/外対応シナリオ)」
差出人:Saeki S.(本社人事)

宛先には、監査・法務・統合PJ後任のアカウント。CC に、見慣れない外部アドレス——記者へ送った形跡に見えるものがある。ただし、宛先は伏せられている。削ってある。でも——削り方が雑で、末尾だけが残っていた。

「@free-mail」

匿名じゃない。意図的な回線。

情シス担当が、声を落として言った。

「……これ、外に流した“経路”も残ってます」
「うん」

私は言った。

「ここで勝てる。スクショじゃなく、送信ヘッダで」

告発者から、最後のメッセージが来た。

【俺が言えるのはここまで。
 端末提出が来たら、全部消される。
 でも消しても“消したこと”がログになる。
 だから——今夜、原本を外の第三者に渡して。社内だけに置くな】

外に渡す。それは、私が避けてきた選択肢だった。でも今は、外が燃えている。燃えている以上、内側だけで守るのは無理だ。

私は呼吸を一つ入れて、吉岡に言った。

「第三者調査チームに“原本一式”として渡す。今夜の時刻で」

吉岡が頷く。

「顧問弁護士経由で」
「うん。窓口固定。個人送信はしない」

情シス担当が続ける。

「端末提出、一斉に来ても……」
「出す」

私は短く言った。

「ただし、“提出する手続き”を文書化して出す。任意か強制か。根拠規程。保全の有無。——全部、原本にする」

時計は、23:06。取材メールの締切は、もう過ぎている。外は勝手に書く。社内は全員端末提出で“面を取る”。

でも、ここにあるのは——面じゃない。配布線の“骨”だ。恋愛の噂に寄せて固めた物語を、原本で折れる骨。

私はZIPのファイル名を、もう一度だけ見た。

HR-SEP-015_original

“original”の単語が、今夜いちばん信用できる。

告発者の核心資料は、燃料じゃない。燃え方を変えるための、火元そのものだった。
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