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第二章「白い結婚なんて、願ったり叶ったり」
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私の部屋は、三階のど真ん中だと案内された。てっきり端だと思っていたから、少しがっかりした。もちろん旦那様とは別々で、彼の自室は同階の端っこ。そこまでは、問題なし。
けれど、いかんせん造りがとても変だ。二人の部屋が内廊下で繋がっているのだけれど、真ん中と端ではそれが長すぎる。誰だ、こんな設計をしたのは。
「だったら、廊下を通っても同じじゃないの」
早速ベルベットのカウチソファに身を沈ませながら、ぶつぶつと文句を垂れる。マリッサは聞いているのかいないのか、黙々と荷造りに勤しんでいた。
大方の荷物はすでに到着して、この屋敷のメイドが整頓してくれている。だから私は、堂々と寛いで――。
「この後は食堂にて夕食です。その前に湯浴みとお支度をしなければなりませんので、ごろごろする暇はありません」
「けち!少しくらいいいじゃない!」
「けちで結構」
「マリッサぁ~」
十八歳らしからぬ駄々の捏ね方だと分かっていても、さすがに二十日越えの旅は疲れた。まぁ、それは彼女も同じだし私ばかり甘えてはいられない。
「よし、やるわよ。今すぐに準備するわ」
「言動と行動が反比例しておりますが」
「あれ、おかしいな?体が勝手にソファに沈んじゃう」
ずるずると横になろうとする私に向かって、マリッサがおもむろに先の尖った櫛を取り出す。それを握り締めたまま無言で見つめられたら、飛び起きるより他はない。
「ありがとうございます、フィリア様」
「だ、大丈夫よマリッサ」
彼女は、怒ったら母と同じくらい怖い。わがままも大概にしておこうと、私はしゃっきり身を正したのだった。
その後マリッサの手によって変貌を遂げた私は、爽やかなミントグリーンのドレスに身を包み、ゆっくりと螺旋階段を降りた。丁寧に施された化粧で武装した今の私には、怖いものなど何もない。
「あ、だめ。これ絶対迷子になる」
屋敷が広過ぎて、食堂へ行くにも一苦労。すれ違うメイドや執事達は皆親切で礼儀正しくて、こちらが恐縮してしまうくらいだった。
「手を繋ぎましょうか?」
「えっ、本当?」
「嘘に決まっておりますが」
マリッサにからかわれて、ぷくっと頬を膨らませる。今ならどんな表情をしても、きっと可愛いに違いないから無駄に表情豊かになる。
普段はほとんど素顔のままなので、こうして綺麗に着飾れることは素直に嬉しい。あくまでたまになら、というところが重要ポイント。
「それにしても、このドレスは本当に素敵。さっきのメイドは旦那様がお選びになったって言っていたけど、本当かしら」
廊下の真ん中で、バレリーナのようにくるりと一回転してみせる。着地を失敗してよろけてしまったのが、ちょっと恥ずかしい。
「さぁ。私には分かりかねます」
「あんな手紙を寄越す人が、わざわざ?」
「手配をするよう命じた、とか」
「ああ、きっとそれね」
どうであれ、これをチョイスした方は良いセンスの持ち主だ。配色は年相応だけれど、膨らみ過ぎないデザインが大人らしく、花びらのようにあしらわれたレースもエレガントで可愛らしい。
「買い取らせていただけるかな」
「フィリア様は奥様なのですから、金銭のやり取りは必要ないのでは?」
「そうねぇ。白い結婚だと、体でご奉仕というわけにもいかないし」
そもそも、対価になるようなナイスなバディは持ち合わせていない。
けれど、いかんせん造りがとても変だ。二人の部屋が内廊下で繋がっているのだけれど、真ん中と端ではそれが長すぎる。誰だ、こんな設計をしたのは。
「だったら、廊下を通っても同じじゃないの」
早速ベルベットのカウチソファに身を沈ませながら、ぶつぶつと文句を垂れる。マリッサは聞いているのかいないのか、黙々と荷造りに勤しんでいた。
大方の荷物はすでに到着して、この屋敷のメイドが整頓してくれている。だから私は、堂々と寛いで――。
「この後は食堂にて夕食です。その前に湯浴みとお支度をしなければなりませんので、ごろごろする暇はありません」
「けち!少しくらいいいじゃない!」
「けちで結構」
「マリッサぁ~」
十八歳らしからぬ駄々の捏ね方だと分かっていても、さすがに二十日越えの旅は疲れた。まぁ、それは彼女も同じだし私ばかり甘えてはいられない。
「よし、やるわよ。今すぐに準備するわ」
「言動と行動が反比例しておりますが」
「あれ、おかしいな?体が勝手にソファに沈んじゃう」
ずるずると横になろうとする私に向かって、マリッサがおもむろに先の尖った櫛を取り出す。それを握り締めたまま無言で見つめられたら、飛び起きるより他はない。
「ありがとうございます、フィリア様」
「だ、大丈夫よマリッサ」
彼女は、怒ったら母と同じくらい怖い。わがままも大概にしておこうと、私はしゃっきり身を正したのだった。
その後マリッサの手によって変貌を遂げた私は、爽やかなミントグリーンのドレスに身を包み、ゆっくりと螺旋階段を降りた。丁寧に施された化粧で武装した今の私には、怖いものなど何もない。
「あ、だめ。これ絶対迷子になる」
屋敷が広過ぎて、食堂へ行くにも一苦労。すれ違うメイドや執事達は皆親切で礼儀正しくて、こちらが恐縮してしまうくらいだった。
「手を繋ぎましょうか?」
「えっ、本当?」
「嘘に決まっておりますが」
マリッサにからかわれて、ぷくっと頬を膨らませる。今ならどんな表情をしても、きっと可愛いに違いないから無駄に表情豊かになる。
普段はほとんど素顔のままなので、こうして綺麗に着飾れることは素直に嬉しい。あくまでたまになら、というところが重要ポイント。
「それにしても、このドレスは本当に素敵。さっきのメイドは旦那様がお選びになったって言っていたけど、本当かしら」
廊下の真ん中で、バレリーナのようにくるりと一回転してみせる。着地を失敗してよろけてしまったのが、ちょっと恥ずかしい。
「さぁ。私には分かりかねます」
「あんな手紙を寄越す人が、わざわざ?」
「手配をするよう命じた、とか」
「ああ、きっとそれね」
どうであれ、これをチョイスした方は良いセンスの持ち主だ。配色は年相応だけれど、膨らみ過ぎないデザインが大人らしく、花びらのようにあしらわれたレースもエレガントで可愛らしい。
「買い取らせていただけるかな」
「フィリア様は奥様なのですから、金銭のやり取りは必要ないのでは?」
「そうねぇ。白い結婚だと、体でご奉仕というわけにもいかないし」
そもそも、対価になるようなナイスなバディは持ち合わせていない。
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