「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ

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第三章「異性を魅了する花の話」

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 突拍子もない言動を繰り返しているかと思えば、他者を慮る雰囲気もあり、笑顔はからりと晴れた青空のようにすっきりと輝いている。
 ブルーメルを気に入ったというあの言葉は、まごうことなき本心だった。それは、自身の容姿を褒められるよりずっと嬉しく、思わず頭を撫でてしまいそうになったほど。
 
 ――旦那様!

 よく透き通る声で呼ばれると、体から力が抜ける。彼女が今何を考え、その瞳に何を映し、どんな感情を抱いているのか、やたらと気になる。
 妻の部屋に繋がるあの扉に、これまで視線すら向けたことはなかったはずなのに。自室にいると、無意識のうちにそこを見つめている自分が、気色悪いと感じてしまう。
「もしかしてだけど。オズベルトって女性に免疫ないぶん、好みの子がいたらコロッといっちゃうくらいのちょろさだったりして」
「ちょ、ちょろいだと……⁉︎」
 まさか、そんな言葉で表現される日が来るとは夢にも思わなかった。これみよがしにぎりりと歯を食いしばって見せると、テミアンの肩が大げさに反応する。
「話を聞く限り悪い子ではなさそうだし、別に問題ないんじゃないかな?結婚後に互いを好きになることだって、貴族の間ではよく聞く話だし」
「……いや、それはない」
 彼の言葉の中には、大前提がある。それは僕にあの花の香りが移っていること。
「フィリアには、なぜかジャラライラの媚香が通じない」
「えっ、嘘でしょう!」
「それどころか、微かに彼女の肌からその香りがする」
 テミアンの瞳は、今にも溢れ落ちそうなほどに見開かれていた。
「不思議だね、そんな子は初めてだ」
「花より肉の焼ける匂いの方が好みらしい」
「ぶっは‼︎」
 可愛らしい顔に似合わず、彼は盛大に唾を撒き散らす。無言でハンカチを差し出すと、遠慮もなしにそれで口元を拭った。
「本当におもしろい女性だね。ますます会いたくなったよ」
「絶対に許可しない」
「まぁ、そうだろうね。おそらく君も、花香に惑わされているだけなんじゃないかな」
 そうだ。僕はそう言って欲しくて、テミアンにこの話をした。出会ってまだ二週間ほどの女性に惹かれているなんて、考えられなかったからだ。この年まで、恋愛らしい恋愛などしたことがない。容姿、肩書き、そしてこの香り。どれかひとつにでも興味を示されたら、途端に嫌悪を感じてしまう。
 フィリアを嫌だと感じないのは、僕を男として見ていないからに他ならない。彼女の笑顔を思い浮かべると頬が熱くなるのは、あの花のせい。白い結婚の提案を少しだけ後悔しているのは、ただの罪悪感。
 僕はこの先の人生も、誰かと恋に落ちるなんてことはあり得ない。
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