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第四章「溺愛演技が上手過ぎます、旦那様」
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セシルバ様は場をとりなすようにこほんと咳払いをひとつして、改めて私に視線を合わせてくれる。旦那様よりも小柄ですらりとした、甘いマスクの優しそうな人。薄茶の瞳はくりくりとしていて、睫毛は私よりも長くてふさふさ。金色の髪はとろりとした蜂蜜のようで、見ているとさくさくのパンが食べたくなってくる。もともと空いていたお腹が、とうとう悲鳴を上げそうになった。
「どうした、フィリア?」
「あ……、申し訳ありません」
さっきから、旦那様に心配をかけてばかり。パートナーを引き受けたからには、最後まで使命をまっとうしなければ。
「あのオズベルトが、女性に気を遣ってる……。実際目にすると、なんだか感慨深いものがあるね」
「……余計なことは言わなくていい」
「これでも僕は心配していたんだよ。大切な親友が、愛を知らないまま一生を寂しく終えてしまうんじゃないかってさ」
可愛らしく片目を瞑ってみせるセシルバ様に、旦那様はちっと舌打ちをしながらも本気で嫌がっているようではなさそうだ。親友という言葉を否定しなかったし、二人は本当に仲が良いんだと、ほっこりした気分になる。と同時に、そんな人を騙しているみたいで心苦しくもある。
セシルバ様は、私達が白い結婚であるということを知らないのだろうか。余計な口を挟む気はないけれど、勘違いされたままで旦那様が嫌な思いをしませんようにと、ちらりと彼に視線を移した。
「ひょわぁ!」
瞬間、淑女らしからぬ……、というより人らしからぬ声が腹から出てしまい、思わずぎゅうっと唇を真一文字に縫いつける。だって、急に手を繋がれたものだから驚いて心臓が止まりそうになってしまった。
「だだだ、旦那様⁉︎手を繋ぐ相手をお間違えでは⁉︎」
「一体誰と間違えていると?」
「セ、セシルバ様とか」
「冗談でも止めてくれ」
心底嫌そうな顔をされたので、とりあえず謝っておいた。
「ま、まさか君……。僕相手に牽制を?それも、手を繋ぐなんていう子どもでも選ばないような方法で?」
「煩い、馬鹿野郎」
「いやぁ、実に可愛らしいなぁ!」
険しい表情の旦那様相手に物怖じひとつしないで、目尻に涙が溜まるほど大笑いしているセシルバ様。なぜ急にこんなことをしたのか、それは白い結婚のことを友人に知られたくないからだと思い至った私は、その心意気を全力で汲むと決めた。
きゅっと手を握り返し、旦那様に向けてにこりと微笑む。淑女の笑みを習得したのは、そうしなければ母に出来るまで顔をむにむにと摘まれ続けたから。あれは辛かったなと、遠い日の記憶に思いを馳せた。
「どうした、フィリア?」
「あ……、申し訳ありません」
さっきから、旦那様に心配をかけてばかり。パートナーを引き受けたからには、最後まで使命をまっとうしなければ。
「あのオズベルトが、女性に気を遣ってる……。実際目にすると、なんだか感慨深いものがあるね」
「……余計なことは言わなくていい」
「これでも僕は心配していたんだよ。大切な親友が、愛を知らないまま一生を寂しく終えてしまうんじゃないかってさ」
可愛らしく片目を瞑ってみせるセシルバ様に、旦那様はちっと舌打ちをしながらも本気で嫌がっているようではなさそうだ。親友という言葉を否定しなかったし、二人は本当に仲が良いんだと、ほっこりした気分になる。と同時に、そんな人を騙しているみたいで心苦しくもある。
セシルバ様は、私達が白い結婚であるということを知らないのだろうか。余計な口を挟む気はないけれど、勘違いされたままで旦那様が嫌な思いをしませんようにと、ちらりと彼に視線を移した。
「ひょわぁ!」
瞬間、淑女らしからぬ……、というより人らしからぬ声が腹から出てしまい、思わずぎゅうっと唇を真一文字に縫いつける。だって、急に手を繋がれたものだから驚いて心臓が止まりそうになってしまった。
「だだだ、旦那様⁉︎手を繋ぐ相手をお間違えでは⁉︎」
「一体誰と間違えていると?」
「セ、セシルバ様とか」
「冗談でも止めてくれ」
心底嫌そうな顔をされたので、とりあえず謝っておいた。
「ま、まさか君……。僕相手に牽制を?それも、手を繋ぐなんていう子どもでも選ばないような方法で?」
「煩い、馬鹿野郎」
「いやぁ、実に可愛らしいなぁ!」
険しい表情の旦那様相手に物怖じひとつしないで、目尻に涙が溜まるほど大笑いしているセシルバ様。なぜ急にこんなことをしたのか、それは白い結婚のことを友人に知られたくないからだと思い至った私は、その心意気を全力で汲むと決めた。
きゅっと手を握り返し、旦那様に向けてにこりと微笑む。淑女の笑みを習得したのは、そうしなければ母に出来るまで顔をむにむにと摘まれ続けたから。あれは辛かったなと、遠い日の記憶に思いを馳せた。
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