48 / 99
第五章「衝撃(たぶん)の真実」
3
しおりを挟む
上質な雰囲気漂うラウンジにて、しっとりとした大人なアフタヌーンティーを大旦那様と共に嗜む。初めての二人きりで緊張していたけれど、八枚目のクッキーを口に放り込む頃には、すっかり普段の調子を取り戻していた。
「そうなんです、マグシフォン領は領主である父と領民との距離が近くて、陳情形式よりも直接話し合うことが多かったです。月に一度大庭園を開放して、母が主体となってティーパーティーやバザーを催したりもしていました」
「それはなんとも、理想的な体制だ」
「国に収める税収だけで見れば、非効率的なやり方なのかもしれません。ですが私は両親を尊敬していますし、領民の皆さんと気さくに交流出来るマグシフォン領がとても好きでした」
ブルーメルの話を聞くのも楽しいけれど、こうして故郷に思いを馳せるのもまた感慨深い。大旦那様と若旦那様はよく似ていて、口数はあまり多くないし相槌もごく簡単なものだけ。
広大な領地を統括する領主として、荘厳な雰囲気と威厳たっぷりの佇まいは、ともすれば怖いと感じてしまう。それでも私にとっては、穏やかに話を聞いてくれる大旦那様はお優しい気質の方だと思っている。
「すみません、私ばかり口を動かして」
「いや、構わない」
口の水分がすっかり渇いていることに気付いて、ティーカップに手を添える。甘さ控えめのすっきりとしたハーブティーは新鮮で、鼻に抜ける香りも爽やかで美味しい。
「次は大旦那様のお話を聞かせてください」
「私の?」
「はい、お願いいたします!」
本来なら先に大旦那様から話していただくべきだったのに、つい故郷や家族のことをこれでもかとお喋りしてしまった。こうして私をお茶に誘ってくださった理由が、必ずあるはずなのに。
大旦那様は音も立てずにカップをソーサーに置くと、何かに思いを馳せているような感慨深い表情を浮かべて、静かに口を開いた。
「私の元妻は、もう十数年前に家族を捨て間男と共にこのブルーメルを出ていった後、その男に刺されて呆気なく命を落とした」
それは、初めて聞くヴァンドーム家の事情。そんな深いところまで知ってしまって良いのかと少し戸惑いつつ、視線を逸らさずまっすぐに正面を見つめる。
「当時の私は裏切られたことに意固地になり過ぎて、二度と妻を迎えないと決めた。領地経営や国王の補佐に忙しなくほとんど家に帰れなかった私は、オズベルトの面倒をほとんど乳母に任せきりで、数ヶ月ぶりに顔を合わせてもほんの数分という日もざらだった」
「それは……、寂しいことですね」
高位貴族が自分の手で子育てをしないのは珍しいことではない。これだけ広大な領地と大勢の領民の生活を維持する為には、計り知れない重圧と苦労がまとわりつくだろう。私や弟のケニーも乳母との時間が多かったけれど、優しくて愛情深い彼女が大好きだった。
「そうなんです、マグシフォン領は領主である父と領民との距離が近くて、陳情形式よりも直接話し合うことが多かったです。月に一度大庭園を開放して、母が主体となってティーパーティーやバザーを催したりもしていました」
「それはなんとも、理想的な体制だ」
「国に収める税収だけで見れば、非効率的なやり方なのかもしれません。ですが私は両親を尊敬していますし、領民の皆さんと気さくに交流出来るマグシフォン領がとても好きでした」
ブルーメルの話を聞くのも楽しいけれど、こうして故郷に思いを馳せるのもまた感慨深い。大旦那様と若旦那様はよく似ていて、口数はあまり多くないし相槌もごく簡単なものだけ。
広大な領地を統括する領主として、荘厳な雰囲気と威厳たっぷりの佇まいは、ともすれば怖いと感じてしまう。それでも私にとっては、穏やかに話を聞いてくれる大旦那様はお優しい気質の方だと思っている。
「すみません、私ばかり口を動かして」
「いや、構わない」
口の水分がすっかり渇いていることに気付いて、ティーカップに手を添える。甘さ控えめのすっきりとしたハーブティーは新鮮で、鼻に抜ける香りも爽やかで美味しい。
「次は大旦那様のお話を聞かせてください」
「私の?」
「はい、お願いいたします!」
本来なら先に大旦那様から話していただくべきだったのに、つい故郷や家族のことをこれでもかとお喋りしてしまった。こうして私をお茶に誘ってくださった理由が、必ずあるはずなのに。
大旦那様は音も立てずにカップをソーサーに置くと、何かに思いを馳せているような感慨深い表情を浮かべて、静かに口を開いた。
「私の元妻は、もう十数年前に家族を捨て間男と共にこのブルーメルを出ていった後、その男に刺されて呆気なく命を落とした」
それは、初めて聞くヴァンドーム家の事情。そんな深いところまで知ってしまって良いのかと少し戸惑いつつ、視線を逸らさずまっすぐに正面を見つめる。
「当時の私は裏切られたことに意固地になり過ぎて、二度と妻を迎えないと決めた。領地経営や国王の補佐に忙しなくほとんど家に帰れなかった私は、オズベルトの面倒をほとんど乳母に任せきりで、数ヶ月ぶりに顔を合わせてもほんの数分という日もざらだった」
「それは……、寂しいことですね」
高位貴族が自分の手で子育てをしないのは珍しいことではない。これだけ広大な領地と大勢の領民の生活を維持する為には、計り知れない重圧と苦労がまとわりつくだろう。私や弟のケニーも乳母との時間が多かったけれど、優しくて愛情深い彼女が大好きだった。
187
あなたにおすすめの小説
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
実家を追い出され、薬草売りをして糊口をしのいでいた私は、薬草摘みが趣味の公爵様に見初められ、毎日二人でハーブティーを楽しんでいます
さら
恋愛
実家を追い出され、わずかな薬草を売って糊口をしのいでいた私。
生きるだけで精一杯だったはずが――ある日、薬草摘みが趣味という変わり者の公爵様に出会ってしまいました。
「君の草は、人を救う力を持っている」
そう言って見初められた私は、公爵様の屋敷で毎日一緒に薬草を摘み、ハーブティーを淹れる日々を送ることに。
不思議と気持ちが通じ合い、いつしか心も温められていく……。
華やかな社交界も、危険な戦いもないけれど、
薬草の香りに包まれて、ゆるやかに育まれるふたりの時間。
町の人々や子どもたちとの出会いを重ね、気づけば「薬草師リオナ」の名は、遠い土地へと広がっていき――。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる