「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ

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最終章「適当がいつの間にか愛に変わる時」

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 そうしてしばらく身を寄せ合っていると、緊張に強張っていた体からだんだんと力が抜けてくる。改めて心を通わせることが出来て、きっと安心したんだろう。日頃の態度を見ていると拒絶されることはないとは思っていたけれど、それでも告白はとても勇気が必要だった。
 それに、もしかしたら今夜旦那様と初めての夜を過ごすことになるかもしれないと、そちらの意味でもがちがちだった。男女に関するあらゆる経験のない私には、閨での知識なんてそれこそ知識だけ。
 実践経験があったらそれはそれで問題だけれど、イメージトレーニングすら無理だったから、本番では一体自分がどんな風になってしまうかは未知数なのだ。
 私達は今ベッドの上でぴったりくっついている。とはいえ、なんとなく『そう』なりそうな雰囲気はないのできっとこのまま眠るのだろう。
 安心半分、残念半分……、いや残念が九割強を占めているこの心情は、旦那様には絶対に秘密にしたい。
「……フィリア、いいか?」
「あ、はい。もうお休みになられるのですよね?私はどうすれば……」
「い、いや。まだお休みにはならない」
 ぱっと顔を上げれば、私を遥かに上回るがちがち具合で唇をぷるぷると震わせた旦那様が、うるうるの瞳でこちらを見つめている。
「か、可愛い……」
「こ、こら。からかうな」
「ごめんなさいつい本音が」
 いちいち私の心をくすぐる初心具合が、どうしようもなく愛おしい。彼はそれを不甲斐ないと思っている節があるけれど、私にとってはたくさんある《旦那様好きポイント》の中の大きなひとつだ。
 んん、と場をとりなすように咳払いをすると、旦那様は私の腰元にそっと触れた。
「キ、キスをしたいのだが、許してくれるだろうか」
「改めて聞かれると恥ずかしいのですが……」
「しかし、互いに初めてのことだから勝手な真似をして君を傷付けたくない」
 なんて紳士的で優しい人なのだろうと、感涙にむせびそうになる。ぎゅうっと抱きつきたい衝動を堪えて、控えめに微笑んだ。
「私は旦那様がしてくださることなら、なんだって嬉しいです」
「それは殺し文句が過ぎやしないか……」
「でも、これが本音ですから」
 もっと恥じらった方が淑女として正解なのかもしれないけれど、旦那様の緊張を少しでも解したいという気持ちの方が強いから、包み隠さず伝えようと決めた。
 とはいえ、旦那様が私の初恋相手だから当然その先も未知数。浅い知識だけでは実践にまったく役立たない。
「キ、キスの時間は一般的にはどのくらいだろう」
「だ、旦那様のお好みで良いんじゃないでしょうか」
「か、顔は傾けた方が君に負担がかからないか?」
「じ、実際にしてみてから調節するとか」
 お互いパニックになっているらしく、訳の分からない問答がしばらく続いた。そのうち旦那様の瞳の奥にぐっと熱が籠り、私も覚悟を決めてぎゅっと目を閉じる。
 顔が近付く気配と共に、熱い吐息が頬を掠める。唇同士が合わさると、その柔らかさに思わず声が漏れてしまいそうだった。
 角度が分からないなんて言いながら、実際は私よりずっと臨機応変に柔軟な対応力を見せている。私を気遣っているのか時折そっと離れては、名残りを惜しむようにすぐにまた重ね合わせる。旦那様の甘い香りが口内を侵食していき、幻味まで感じてしまう私はもうダメかもしれない。
「ん……っ、は、オズ……、さま……っ」
 体中がぴりぴりと痺れて、どこもかしこもびくびくと脈打っている。このままではまずいことになると、彼の肩口をとんとんと叩いた。
「どうしたフィリア、苦しいか?」
 回した腕を決して離そうとはしないまま、とろりとした瞳でこちらを見つめて、上擦った声で私の名前を呼ぶ。凄まじい色気に当てられて、今にも失神してしまいそうだ。
「あ、あの……っ、いくらなんでも長過ぎかなと……」
「僕の好きにしていいと」
「た、確かに言いましたけどぉ……っ」
 涙目で抵抗を試みるも、なぜか旦那様の息遣いがますます荒くなっているように感じるのは、私の気のせいだと思いたい。
「可愛い、フィリア」
「あ、ちょ……っ」
「好きだ、離したくない、もっと君が欲しい」
 ちゅ、ちゅ、と唇以外にキスを落としながら、旦那様は甘く掠れた声で懇願するように囁く。好きな人からそんな風にお願いされて、一体誰が抵抗出来るというのだろう。
「ん……、オズベルト様……」
 されるがままの私は、かろうじて指先を動かして彼のシャツの裾をきゅっと掴む。
「おねが、く、唇に……、してくださ……っ」
「ああ、それはずる過ぎる……!」
 熱に浮かされた旦那様は言葉に表せないくらいに可愛らしくて艶めかしくて、恥ずかしくてたまらないのに目を逸せない。私達はまるで吸い込まれるように瞳に互いだけを映し合い、慈しみながら甘い夜を過ごしたのだった。
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