「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ

文字の大きさ
70 / 99
最終章「適当がいつの間にか愛に変わる時」

7

しおりを挟む
 そうしてしばらく身を寄せ合っていると、緊張に強張っていた体からだんだんと力が抜けてくる。改めて心を通わせることが出来て、きっと安心したんだろう。日頃の態度を見ていると拒絶されることはないとは思っていたけれど、それでも告白はとても勇気が必要だった。
 それに、もしかしたら今夜旦那様と初めての夜を過ごすことになるかもしれないと、そちらの意味でもがちがちだった。男女に関するあらゆる経験のない私には、閨での知識なんてそれこそ知識だけ。
 実践経験があったらそれはそれで問題だけれど、イメージトレーニングすら無理だったから、本番では一体自分がどんな風になってしまうかは未知数なのだ。
 私達は今ベッドの上でぴったりくっついている。とはいえ、なんとなく『そう』なりそうな雰囲気はないのできっとこのまま眠るのだろう。
 安心半分、残念半分……、いや残念が九割強を占めているこの心情は、旦那様には絶対に秘密にしたい。
「……フィリア、いいか?」
「あ、はい。もうお休みになられるのですよね?私はどうすれば……」
「い、いや。まだお休みにはならない」
 ぱっと顔を上げれば、私を遥かに上回るがちがち具合で唇をぷるぷると震わせた旦那様が、うるうるの瞳でこちらを見つめている。
「か、可愛い……」
「こ、こら。からかうな」
「ごめんなさいつい本音が」
 いちいち私の心をくすぐる初心具合が、どうしようもなく愛おしい。彼はそれを不甲斐ないと思っている節があるけれど、私にとってはたくさんある《旦那様好きポイント》の中の大きなひとつだ。
 んん、と場をとりなすように咳払いをすると、旦那様は私の腰元にそっと触れた。
「キ、キスをしたいのだが、許してくれるだろうか」
「改めて聞かれると恥ずかしいのですが……」
「しかし、互いに初めてのことだから勝手な真似をして君を傷付けたくない」
 なんて紳士的で優しい人なのだろうと、感涙にむせびそうになる。ぎゅうっと抱きつきたい衝動を堪えて、控えめに微笑んだ。
「私は旦那様がしてくださることなら、なんだって嬉しいです」
「それは殺し文句が過ぎやしないか……」
「でも、これが本音ですから」
 もっと恥じらった方が淑女として正解なのかもしれないけれど、旦那様の緊張を少しでも解したいという気持ちの方が強いから、包み隠さず伝えようと決めた。
 とはいえ、旦那様が私の初恋相手だから当然その先も未知数。浅い知識だけでは実践にまったく役立たない。
「キ、キスの時間は一般的にはどのくらいだろう」
「だ、旦那様のお好みで良いんじゃないでしょうか」
「か、顔は傾けた方が君に負担がかからないか?」
「じ、実際にしてみてから調節するとか」
 お互いパニックになっているらしく、訳の分からない問答がしばらく続いた。そのうち旦那様の瞳の奥にぐっと熱が籠り、私も覚悟を決めてぎゅっと目を閉じる。
 顔が近付く気配と共に、熱い吐息が頬を掠める。唇同士が合わさると、その柔らかさに思わず声が漏れてしまいそうだった。
 角度が分からないなんて言いながら、実際は私よりずっと臨機応変に柔軟な対応力を見せている。私を気遣っているのか時折そっと離れては、名残りを惜しむようにすぐにまた重ね合わせる。旦那様の甘い香りが口内を侵食していき、幻味まで感じてしまう私はもうダメかもしれない。
「ん……っ、は、オズ……、さま……っ」
 体中がぴりぴりと痺れて、どこもかしこもびくびくと脈打っている。このままではまずいことになると、彼の肩口をとんとんと叩いた。
「どうしたフィリア、苦しいか?」
 回した腕を決して離そうとはしないまま、とろりとした瞳でこちらを見つめて、上擦った声で私の名前を呼ぶ。凄まじい色気に当てられて、今にも失神してしまいそうだ。
「あ、あの……っ、いくらなんでも長過ぎかなと……」
「僕の好きにしていいと」
「た、確かに言いましたけどぉ……っ」
 涙目で抵抗を試みるも、なぜか旦那様の息遣いがますます荒くなっているように感じるのは、私の気のせいだと思いたい。
「可愛い、フィリア」
「あ、ちょ……っ」
「好きだ、離したくない、もっと君が欲しい」
 ちゅ、ちゅ、と唇以外にキスを落としながら、旦那様は甘く掠れた声で懇願するように囁く。好きな人からそんな風にお願いされて、一体誰が抵抗出来るというのだろう。
「ん……、オズベルト様……」
 されるがままの私は、かろうじて指先を動かして彼のシャツの裾をきゅっと掴む。
「おねが、く、唇に……、してくださ……っ」
「ああ、それはずる過ぎる……!」
 熱に浮かされた旦那様は言葉に表せないくらいに可愛らしくて艶めかしくて、恥ずかしくてたまらないのに目を逸せない。私達はまるで吸い込まれるように瞳に互いだけを映し合い、慈しみながら甘い夜を過ごしたのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

実家を追い出され、薬草売りをして糊口をしのいでいた私は、薬草摘みが趣味の公爵様に見初められ、毎日二人でハーブティーを楽しんでいます

さら
恋愛
実家を追い出され、わずかな薬草を売って糊口をしのいでいた私。 生きるだけで精一杯だったはずが――ある日、薬草摘みが趣味という変わり者の公爵様に出会ってしまいました。 「君の草は、人を救う力を持っている」 そう言って見初められた私は、公爵様の屋敷で毎日一緒に薬草を摘み、ハーブティーを淹れる日々を送ることに。 不思議と気持ちが通じ合い、いつしか心も温められていく……。 華やかな社交界も、危険な戦いもないけれど、 薬草の香りに包まれて、ゆるやかに育まれるふたりの時間。 町の人々や子どもたちとの出会いを重ね、気づけば「薬草師リオナ」の名は、遠い土地へと広がっていき――。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...