「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ

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特別編「フィリアとオズベルトは、理想の夫婦」

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♢♢♢
 初めての船旅は、塩と涙と吐瀉……いや、みなまで言うのは止めておこう。馬車といい船といい、ゆらゆらと揺られる乗り物が苦手な私にとって、十日以上も陸地に降りられないことが苦痛で仕方なかった。
「今から帰途に着くのが憂鬱だわ……」
「最初はあんなにはしゃいでいたくせに」
 マリッサは顔色ひとつ変えずに、けろりとした様子で私の体を支えている。
「もうダメ、倒れちゃいそう」
「あれだけ食事が摂れるならば大事ないかと」
「それはほら。人間は生命の危機を感じると、本能的に食べ物を欲してしまうというか」
「その結果、魚に餌をばら撒いたと」
 ああ、もう!この話はお終いにして、やっとの思いでここまでやって来たんだから、後はもう旦那様に会うだけ。一応手紙は出したけれど、なんせ出発が急だったから返事が来たかどうかは分からないまま。
「来ると決めたんだから、他のことは気にしない!」
「さすがフィリア様。これも旦那様への愛が成せる技ですね」
「この国って、スイーツがとんでもなく美味しいんですって!どうしようマリッサ、帰る頃には食べ過ぎて私の血がクリームみたいに甘くなっちゃったら!」
 船酔い?そんなものはとっくの昔に海へ捨ててきた。旦那様に会いたいという気持ちが一番なのはもちろん、その間にほんのちょこっとだけ食欲が混ざっているのはご愛嬌、ということで。
「どこへ行こうと、フィリア様は変わりませんね」
 彼女の深い溜息を背中に浴びながら、私は嬉々として未知の国への第一歩を踏み出したのだった。

 ――ロウワード帝国は、とても栄えている大きな国。私達の住む国よりもずっと技術と文化が発展していて、人口も桁違い。きっと軍事力も凄いのだろうけれど、歴史を紐解くと多くは移民の集まりらしい。国内や国外でいざこざを起こすとあっという間に内部分裂してしまうから、武力行使には慎重なのだとか。
 因みにこれは全部、大旦那様からの受け売りだ。他にも色々教えていただいたけれど、私は「ほへぇ」と間抜けな相槌を打ちながら、ひたすら口の中にクッキーを放り込んでいた気がする。
 ごめんなさい、聞いていなかったわけじゃないけれど、頭を使うのは苦手なんです。
「実は意外となんでもこなせる天才肌のくせに」
「ち、ちょっとやめてよマリッサ」
 彼女が私の心の声に答えるのにはもう慣れっこ。だけど、天才だとか美人だとかって褒められると、背中に毛虫が紛れ込んだみたいにぞわぞわが止まらない。
「美人とは言っていません」
「あれ、そうだっけ?」
 相変わらず適当な会話を交わしながら、私は深緑色のガーデンハットに手を伸ばす。爽やかな春風に攫われないよう、ぎゅうっと頭に押しつけた。
「それにしても、ロウワードの帝都は本当に凄いわねぇ」
 目の前を通り過ぎる馬車ひとつとっても、個性的でお洒落なものもたくさん。旦那様からの手紙に書いてあったけれど、ここには相乗り用の馬車もあるみたい。彼のような地位の高い方はあまり利用しないのだろうけれど。
「こんな場所じゃあ、生き物を見つけるのも苦労しそう」
「誰も虫取り網を持っていませんね」
「……さすがの私も、そこまで非常識じゃないからね?」
 そんな台詞を口にしながらも、私の右手はわきわきと踊っている。自分の意思ではコントロール出来ないから、これは不可抗力ということで。
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