「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ

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特別編「フィリアとオズベルトは、理想の夫婦」

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 大旦那様は私が会いに行くことに問題はないっておっしゃってくださったけれど、唐突な思いつきだったから了承の確認はしないまま。
 懸命に職務をまっとうしている夫の邪魔をしに行く妻なんてどうなんだろうと、今さら思わなくもない。
「まぁ、お話しが難しそうだったら一目会って帰れば問題ないわよね」
 フィリアはくよくよしない、というより能天気。
「さぁ、参りましょう」
「ええ、いざ!」
 今の私は、きっとこの世で最も蟻の気持ちが分かる人間だと思う。初めての大都会で、あっちもこっちも人だらけ。見たことのない背の高い建物は、見上げているとだんだん首が痛くなってくる。
 勢いよく一歩を踏み出したはいいものの、すぐさま馬車に轢かれそうになってマリッサから腕を引かれた。
「いい加減にしてください、フィリア様」
「あ、あはは。ごめん」
 当の本人はへらへらと笑い、マリッサは無表情、護衛の人達は顔面蒼白で私を取り囲む。
「お、奥様お怪我は⁉︎」
「申し訳ありません、私どもの失態です‼︎」
「この責任は、死をもって償わねば……!」
 大旦那様が同行させてくれた、選りすぐりの精鋭護衛の皆さん。目の前でがたがたと震えているのは、カール、キール、クールの三人。他にも何人もいるみたいだけど、あまり目立ち過ぎるのもよくないからって隠密行動で私を守ってくれている。領地に帰ったら、旦那様にお願いして特別賞与をあげてもらわなきゃ。
 気を取り直して、しゃなりしゃなりと気品高く足を進める。辺境伯夫人として恥ずかしくない振る舞いを心掛け、いまだにわきわきと網を探している手をぐくっと引っ込めた。
「いかがされました、フィリア様」
「う、ううん。大丈夫」
「……これは一大事ですね」
 賑やかで華やかで、まるでお祭りでも催されているかのようで気分もわくわくする。都会独特の匂いと、舗道の上を走る馬車の車輪が軋む音。女性の高い声に男性の低い声と、それが入り混じった楽しそうな会話。
 私の住む世界とは何もかもが違っていて、もうどこに視線を向けたら良いのかも分からなかった。
「フィリア様、顔色が土のようです」
「つ、土……?良いわね、触りたい」
 体はまっすぐ天に伸びているのに、ぐわをぐわんと前後に大きく揺れているような不思議な気分。せっかく船から地上に降り立ったのに、これじゃあまだ海を漂っているみたいだ。
「ご、ごめんね。平気だから早く行きましょう」
 吐き散らかして散々迷惑をかけたのに、これ以上手を煩わせるわけにはいかない。幸い体力には自信があるし、未知の世界に飛び込む覚悟だって出来ている。
「だってほら、みんな楽しそうだし。私だって、すぐ都会の色に染まってみせるから」
「……本当に、貴女って人は」
 マリッサがしっかりと私の体を支えながら、微かに眉根を寄せる。普段何事にも同時ない彼女の瞳の色がなんとなく焦っているように見えるのは、私の気のせいだろうか。
「マリッサこそ無理は禁物よ!せめてロウワードでくらい、辺境伯夫人として相応しい振る舞いを……」
 いよいよ空が緑色に見始めた時、誰かの肩がどんとぶつかる。その衝撃に気逆らわないまま、私の体はゆっくりと後ろへ倒れていった。

 ――と、思いきや。

「おい、怪我はないか」
 記憶の中にはない、低音で涼しい声色。それとは裏腹に、私の体をすっぽりと抱き抱えるように支えている逞しい腕は、とても熱く感じられる。
「こんな往来で何をふらふらと。子どもでも巻き込んだらどうする気だ」
「も、申し訳ありません」
「俺が気付かなければ、今頃骨の一本や二本は折れていそうだな」
 顔を上げる暇もないほど早口に捲し立てられ、私はとりあえず謝罪を口にする。そこでようやく顔を上げると、まぁ随分なハンサムガイがこちらを見下ろしていた。くりくりの瞳にばさばさの睫毛、つるつるの肌とぷるぷるの唇。風もないのにさらさらと靡く銀髪は、まるでそれがデフォルトかのようだ。
 彼の登場により、なぜか周囲の時が止まる。主に女性達が足を止め、うっとりと頬を染めながら光の速さで瞬きを繰り返していた。それに加えてあんなに腰をくねらせたら、もう二度と元には戻らなさそうでちょっと心配になる。
「……ちっ、これだから帝都は嫌なんだ」
 ぱっと私から手を離すと、その男性は盛大に舌打ちをする。それでもなお周りからの熱視線は止まず、彼は壊れたゼンマイ仕掛けの時計みたいに「ちっ、ちっ、ちっ」と繰り返し舌を打ち鳴らしていた。
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