「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ

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特別編「フィリアとオズベルトは、理想の夫婦」

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♢♢♢
 それから、あっという間に半年が過ぎた。暖かく過ごしやすい季節はとっくに後姿さえ見えなくなって、朝や夕暮れには肌寒ささえ感じる今日この頃。
「マリッサ、大変!ボタンが弾け飛んだぁ!」
 私は自室のクローゼットの前で、勢いよく宙を舞った金ボタンの行方を目で追っていた。
「ご心配なく。私がすぐに見つけ繕いますので、フィリア様は安心してなんなりと弾け飛ばしてください」
 相変わらず彼女は冷静沈着の完璧侍女で、私はほうっと胸を撫で下ろす。だって、ボタンひとつ取ってもまぁまぁのお値段だし、出来ることなら無駄にしたくない。
「フィリア様はいつまで経っても貧乏性……ごほんごほん。いえ、倹約思考の素晴らしいお方ですね」
「いやいや、ちゃんと最後まで言い切ってるからね?貧乏性って、ばっちり聞こえちゃってるからね?」
 私の指摘にも、マリッサは顔色ひとつ変えないままに「あはは」と棒読みの笑い声を響かせた。
「それにしても、最近急にお腹がせり出てきたからすぐドレスが着られなくなるわ」
「旦那様がありとあらゆるサイズをご用意していらっしゃいます」
「もったいないから要らないって言ったのに、毎日数着ずつ増えていくのよ。マリッサ、なんとかして!」
「素直に甘えて差し上げるのが一番かと」
 彼女は私の腰元を支えながら、少し硬めのソファ(これも最近新調されたばかり)に座らせてくれた。
「フィリア様は今、この世で最も尊いお体なのですから」
「それはさすがに言い過ぎだってば」
「いいえ、事実です。妊娠期間も出産時もその後も、誰にも貴女様の辛さを代わることは出来ません。ですからその分、これまで以上に身の回りの環境を整え、体調を考えた食事を作り、何着だろうと体に負担のない着衣を用意するのは当たり前なのです」
「マリッサも、なんだかんだで私に激甘よね」
 嬉しいやらむず痒いやら、照れ笑いしながらも素直に頷く。彼女が新しいドレスを見繕ってくれている間、私はお腹をさすりながらその様子を眺めた。
 この中に新しい命が宿っているなんて、いまだにちょっと信じられない。検診に来るお医者様に、もう何度「これって食べ過ぎじゃなくて?」なんて馬鹿げた質問をしただろう。その度に優しい笑顔で違いますと言われるけれど、結局毎回聞いてしまう。
 旦那様との愛の結晶(言ってて背中が痒い)が私のお腹に飛び込んできてから、数ヶ月。月齢的にはまだ五ヶ月といったところで、普通ならお腹はまださほど目立たない時期なのだとか。それなのにどうして私だけこんなにぽっこりなのかというと、やっぱり食べ過ぎが原因……ではなくて、ここに眠っているのがなんと一人ではないから。まさかのまさか過ぎて、自分自身まだまだお子様の私が母親になれるのかすら心配なのに。
「でも不思議よね、顔も見ていないのにもう可愛くて仕方ないんだからさ」
 お腹をさする手には、ちっとも力が入らない。立ったり座ったり、私がする何気ない動作のひとつひとつがこの子達に障ったらどうしようと、最初の内はベッドに縛り付けられたみたいに体が動かなかった。
 周りの人達に支えてもらいながら、今はもう庭をお散歩したりしているけれど。だってお医者様から「適度な運動は子にも良い」と言われたら、実行するに決まってる。
 まだ、抱っこしてあやすこともおっぱいをあげることも出来ないんだから、少しでもこの子達の為に何かしたいと、毎日そればかり考えている。
「フィリア様はもう十分、母の顔です」
「嘘だぁ。相変わらずの丸顔だよ。しかもちょっと太ったし」
「太っても可愛らしいですから、お気になさらず」
 そう言われると、悪い気はしない。今は褒められたよ、聞いてた?とお腹に話しかけてみたら、ちょっとだけ内臓が押された。ような気がした。
「お子様に会える日が待ち遠しいですね」
「……うん、そうだね」
 顔も知らない、私と旦那様の子ども達。ひとつだけ違っているのは、何があっても絶対に奇声を発したりしないってこと。私は母が大好きだけど、この癖だけは移ってほしくないもん。
「さぁ、フィリア様。新しいドレスにお召替えを。さらにゆったりとした作りなので、もうボタンが弾け飛ぶ心配はないかと」
「ありがとう」
「ああ、お気をつけて」
「平気だってば」
 彼女とは長い付き合いだけれど、こんなに過保護だってことを最近知った。いや、そうでもないか。幼い頃、私が転けてちょと血を滲ませただけで分厚い包帯をぐるぐる巻きにしてた気がする。
「色々ありがとう、マリッサ。昔も今も、これからも」
「私は、侍女として当然のことをしているだけです」
 彼女は私の体を支えながら、相変わらずのポーカーフェイスでそう口にする。だけど私は、マリッサの優しい茶色の瞳が嬉しそうに一瞬揺れたのを、見逃さなかった。
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