偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~

日之影ソラ

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 国王陛下の病が完治して三日後の昼。
 国民には事前にアナウンスされ、王城で大事な話があることが伝わっている。
 大勢の人々が集まっていた。

「大事な話とはなんだ? しかも陛下から?」
「体調を崩されて長いはずだが……まさか、よくないことがあったんじゃないだろうな」
「わからない……だとしたら私たちはどうすれば……」

 国王陛下が病に侵されていたことは、国民の皆が知っている。
 知った上で、彼らはこの国に残った。
 多くの若者が、未来ある他国へ出稼ぎに出てしまい、残っているのは家庭を持つ者やその子供、昔からこの国で暮らしている老人たちばかり。
 年々子供の数も減っており、人口も減少傾向。
 国の未来が危ういのは明白だった。
 それでも残っているのは、彼らがこの国を愛しているからに他ならない。
 しかし日々の生活は不安だからけだろう。
 食べるものすらままならない。
 国の代表、国王陛下に何かあったのであれば、国民の不安は増幅する。

 だが、心配はいらない。
 彼らはきっと、希望を見出すだろう。

「皆、よくぞ集まってくれた」
「陛下! 陛下だ!」

 人々が注目する中、第二十七代国王は姿が姿を見せた。
 国民を見下ろせるベランダに、国王として相応しい身なりで立っている。
 そう、立っていた。
 手すりを掴みながらだが、彼は確かに立っていた。
 私たちはその様子を後ろで見守る。

「凄いお方ですね。陛下は」
「ああ、まったくだ」

 この数日、陛下の身体は順調に回復していった。
 食事がとれるようになってすぐ、日常生活の訓練を開始したのだ。
 最初は座ることすら大変だったのに、コツを掴んでからは早く、短時間なら手すりにつかまって立っていられるようにまで回復した。
 驚異的な回復力だ。
 三年以上、病に侵されながら命を繋いだのは意思の力だけではなく、陛下自身の体力が優れていたからだろう。

 陛下は国民の前で堂々と話す。

「心配をかけてすまなかった。私はこの通り、病から回復した」
「おお! よかった……てっきり国王陛下が亡くなられたのかと」
「ご回復されたのか。なんとすばらしい日だろう」

 人々の喜びの声が聞こえてくる。
 多くの人々と関わってきた私にはわかる。
 彼らの言葉が本心で、心から陛下の回復を喜んでいると。
 三年以上も国民の前に立てなかった国王がここまで愛されている。
 その事実こそ、国民の心の温かさを物語っていた。

「こうして皆の前に立てたことを嬉しく思う。そして今日、皆に伝えねばならないことがある」

 いよいよ始まる。
 国民に向けて、国王陛下は宣言する。

「私は今日という日をもって、国王を退位する」
「――!」
「国王をお辞めになると?」
「やはりお身体がすぐれないのか?」

 集まった人々がざわつく。
 様々な憶測が飛び交う中、陛下は声を張る。

「病は回復したが、未だ体力は戻らない。こうして立ち、話しているだけでも精一杯だ。とてもじゃないが、皆が期待する国王としての責務は果たせない」
「……陛下……」
「だが案ずるな! 私が倒れていた間、この国を共に支えていた者が、新たな国王となる」

 陛下は振り返る。
 視線の先には、殿下が……否、新たな国王がいる。

「あとはお前の仕事だ。アクト」
「はい! 父上」

 ふらつく前国王陛下を、すぐにジンさんが支えた。
 前国王はジンさんに支えられながら下がり、代わりにアクトール新国王が皆の前に立つ。
 皆に注目される中、彼は宣言する。

「この度、第二十八代スローレン国王に任命されたアクトール・スローレンだ!」
「ああ、やはり殿下なのだな」
「なら安心だ」
「うん、安心だ」

 アクトール様の顔を見てから、国民たちから安堵の声が聞こえてきた。
 彼らは知っていた。
 見ていたのだ。
 この数年間、倒れた国王の代わりに、国を支えてくれていたのが誰だったのか。
 新顔の私にはわからないけど、彼らは知っているのだろう。
 期待していたのだ。
 いつの日か、こういう瞬間が訪れることを。

「皆、突然のことで戸惑っていると思う。だが、どうか安心してほしい。私は――!」

 拍手が起こる。
 彼らは不安など、一切感じていなかった。
 すでに認められていたのだ。
 新たな国王として、この国の代表として、皆の前に立つだけの信頼を、アクトール様は勝ち取っていた。

「――ありがとう。みんな」

 アクトール様の瞳が涙で潤む。
 だが、決して涙は流さない。
 彼は微笑み、国民に向けて笑顔で手を振った。

 仰々しい言葉など必要ない。
 彼らはとっくに認め、求めていた。
 国王とは国の代表だ。
 彼はその名にふさわしいだけの信頼を獲得していたのだろう。
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