おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ

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3.ギルドマスターは呆れる

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 俺たちは机を挟んでソファーに向かい合って座った。
 一人は彼女の後ろに立っている。

 赤黒く髪色のポニーテールに、程よく焼けた肌。
 燃えるような赤色の瞳は、見る人によっては宝石に見えるだろう。
 彼女の名前はアリア・レーベルヘルト。
 このギルド会館を納めているギルドマスターで、俺の古い友人だ。

「久しぶりだなー、シオン。いつ以来だっけ?」
「顔を見るくらいなら最近もあっただろ? ちゃんと話すのは、たぶん半年ぶりくらいだけど」
「あーそんなだっけ? シオンは全然会いに来てくれないからな~」
「いやいや、それは仕方がないだろ。俺はともかく、そっちはギルドマスターなんだし」

 会話の途中で、俺は彼女の隣で立っている少女に目が行く。
 それに気づいたアリアが、彼女を指して紹介する。

「この子はエマ。アタシの補佐官ね」
「新しい子か?」
「そうよ。ほんの一か月前から雇ってるの。エマ、挨拶して」

 アリアにふられ、エマが軽く頷く。

「エマ・スプラウトです。以後、お見知りおき頂けると嬉しいです」
「こちらこそ。俺はシオン、アリアとはー……昔からの友人です」

 簡単な自己紹介を互いに済ませ、俺はアリアへと視線を戻す。

「エマは凄いのよー? まだ若いのに、何でもテキパキこなせちゃうの。お陰でアタシはやることなくなっちゃうくらい」

 アリアは自慢げに言い切った。
 俺は呆れながら言う。

「いや、ちゃんと働こうよ」
「シオンに言われたくないな~ どうせパーティー追い出されたんでしょ?」
「うっ……何でわかるんだよ」
「それはもちろん! 君のことは二十四時間監視しているからね! 君が昨日食べた物、履いていたパンツの色も調査済みだよ」
「……はい?」
 
 それってもう、完全にストーカーじゃないですか。
 通報したほうが良いのでは?
 なんてことを考えていると、アリアはクスリと笑った。
 
「あはははっ、なんて冗談だよ」
「……アリアが言うと、冗談に聞こえないから怖いな」
「ごめんごめん。まぁ本当のことを言うと、君がこうして話をしたいって時は、大抵がその理由だったからなんだけど……当たってたみたいね?」
「……ああ、残念ながらな」

 俺とアリアは、切なげな笑みを見せ合う。

「理由は?」
「前と似たような感じだ」
「そう……前よりは続いた方なんじゃない?」
「ああ、自分でもそう思うよ」

 だけど、結果は同じだ。
 追い出されて一人になって、こうして相談しに来ている。
 我ながら情けない。
 これでも今年で、三十歳になるんだけどな。

「相談もいつもの?」
「ああ。どこでも良いから、パーティーを紹介してほしい」
「う~ん、ねぇシオン。前々から聞きたかったことがあるんだけど、今聞いても良いかしら?」
「ん? 何?」

 アリアは改まった言い方で話し、続けてこう質問する。
 
「どうしてパーティーにこだわるの?」
「えっ、どうしてって?」
「シオンならソロでも活動できるじゃない。わざわざパーティに入らなくてもよくないかしら?」

 今さらな質問だった。
 何度も紹介してもらいながら、ここ数年で初めて聞かれた質問だ。
 そしてたぶん、彼女でなければ出なかった質問でもある。
 ソロで活動している付与術師なんて、この街どころか世界中探してもいないだろうからな。

「ねぇ、どうして? いつも追い出されてるのに、何度もパーティーに入ろうとするし」
「まぁそうだな。それを言われると耳に痛い」
「だったらソロで活動したら?」
「いや、パーティーに入っていたほうが色々と楽なんだよ」
「楽? シオンは楽がしたいから、パーティーに入りたいの?」
「極論を言えばそうなるかな」
 
 ソロでの活動も悪くないと思う。
 ただそれ以上に、パーティーで活動するメリットのほうが俺にとっては魅力的だった。
 全部一人でやらなくても良いし、自分の役割を無難に果たしていれば良い。
 報酬はメンバー分で割るから少なくなるけど、日々の生活が送れれば十分だ。

「シオン……もしかして手を抜ているの?」
「別に手は抜いてないぞ? ちゃんとやることはやってる」

 それでも追い出されているわけなんだけど……
 俺がそう言うと、アリアは大きくため息をついた。
 表情からして、完璧に呆れている。

「君さ~ それじゃ追い出されても文句言えないよ?」
「いやいや、普段は出してないから。こんな話するのも、アリアくらいだし」
「……そう」

 アリアは納得したように頷く。
 そしてこう続ける。

「要するに、シオンは楽に冒険者を続けたいのね?」
「えっ、あーまぁそんなところかな」
「そう……だったら、君にピッタリな仕事があるんだけど、興味ある?」
「ピッタリな仕事? 新しいパーティーじゃなくてか?」
「う~ん、半分は同じなんだけど、意味合いが違うわ」

 アリアの言っている意味がわからなくて、俺は首を傾げる。
 すると、アリアはエマに何かを伝えて、エマは一枚の紙を取り出した。
 それを受け取ると、アリアは机の上に置いて見せる。

「これを見て」

 言われた通りに紙を見る。
 そこには――

「新米冒険者……育成計画?」

 とデカデカと書かれていた。
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